その他
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その他 2015年08月28日 12時00分
【不朽の名作】「北京原人」は弘法も筆の誤りだった!? 同監督&同脚本による貴重作「空海」
今年の5月、弘法大師・空海による開創から1200年を記念する大法会が開かれている高野山で、天台宗総本山の比叡山延暦寺による初の法会が営まれた。真言宗の開祖・空海と、天台宗開祖の最澄は同時代の人物で日本の仏教界に留まらず、国内の歴史に大きな影響を与えた。当時はこの2人の交流も何度もあったが、とあるひとつ(場合よって2つ)の事件をきっかけに、以来1200年もの長い間、両宗派は疎遠になっていた。その時代の様子を描いた映画が今回紹介する1984年公開の『空海』だ。 この作品の監督は佐藤純彌氏、脚本は早坂暁氏となっている。この組み合わせで気づく人もいるかも知れないが、あの邦画史上でも一二を争う“迷作”『北京原人 Who are you?』を手掛けたふたりだ。その時点で観ることを躊躇してしまうかもしれないが、ちょっとまって欲しい。それこそ北京原人は「弘法にも筆の誤り」のようなもので、このお二方は、邦画でも評価の高い作品数々を世に送り出している。今回の作品もかなり見どころは多いので安心して欲しい。 まずこの作品は全真言宗青年連盟が企画に協力しているので、かなり仏教色というより密教色が強めになっているのだが、「時代劇」として見た場合、空海の生きた時代である平安時代初期という、映像作品ではなかなか扱わない時代を描写している面でかなり貴重だ。しかも、この作品では空海の生涯だけではなく、同時代に発生した「平安京遷都」や「薬子の変」なども扱っている。ストーリー展開は、いい意味で教科書のような内容となっており、平安時代初期の朝廷や貴族と仏教の関係性がわかりやすく描写されている。登場人物も空海をメインとして、最澄、桓武天皇、平城天皇、嵯峨天皇、橘逸勢、藤原薬子など、当時の時代の中心にいた人物を登場させている。さらに、チョイ役ではあるが坂上田村麻呂や高岳親王も登場する。 空海を演じるのは北大路欣也。当時40代の北大路のエネルギッシュな演技が、おそらく天才肌であったであろう空海のらしさを引き出している。しかし、空海が自分の運命を試す為に崖から飛び降りるシーンは子役でやった方が良かったかもしれない。たしかあの逸話は空海がまだ幼名の真魚(まお)の時の出来事だったような気がするのだが。同時代の仏教界で、もうひとりの中心人物だった最澄を演じるのは加藤剛。こちらも、長く朝廷に近い場所にいた、生真面目な秀才という雰囲気を良く出している演技となっている。他に橘逸勢を演じる石橋蓮司や、薬子演じる小川真由美なども、いい意味で目立つキャラとなっている。 題材が空海なので、演出上、若干超人めいたシーンもあるにはあるのだが、それでも度が過ぎる程にぶっ飛んではいないので、観賞者置いてけぼりの展開にはならない。だが、序盤にこの超人的な描写は集中しており、空海が唐に渡るまでは、スピリチュアル感強めで「この作品はダメなやつかも」と思う可能性はある。しかし、そこを耐えれば、空海が得体のしれない超人から、歴史上の偉人的な扱いとなるので、スピリチュアル展開が苦手でも、ストーリーに引き込まれることだろう。欲を言えば、空海の天才性が最も発揮されたであろう、唐での留学中のシーンがもっと欲しかった気もする。 密教という、かなりわかりづらいテーマが作品の重要な要素になっているが、その部分も程よく解説という感じで、かなり絶妙なバランスを維持しており、仏教や密教に興味のない人でもすんなり観ることが出来る作品になっている。ただ、わかりやすくした影響で、密教の細かい部分までは解説していないので、密教を深く知りたいという人には不向きだとは思う。そいう人は専門書を読むか、司馬遼太郎著の『空海の風景』を読むことをオススメする。 また本作で注目なのが、劇中での最澄の扱いだ。最澄は自身の宗派で不完全だった密教の部分を、空海に教えを乞うた史実があることで、歴史番組や創作物だと空海の若干劣った役回りを与えられることが多い。しかしこの作品では旧都平城京で肥大化し、権力だけを求める旧来の仏教勢力と戦う最澄の姿が描かれており、空海の元での密教の修行を途中で中断する際も、京の鬼門に置かれた比叡山延暦寺の責任者としての仕事があることが明確に描写されており、扱いはかなり良い。前記した両者というか、長きに渡り両宗派が疎遠になる原因となった「理趣釈経」を空海が借用拒否した一件でも、経典が借用出来ない理由を聞き、人を導く教えが空海の「密教」と、最澄の「法華一乗」とは大きく違うことを一応納得した様子で袂を分かっている。もうひとつ、両宗派が疎遠になった原因とされている、愛弟子・泰範が空海の弟子になってしまった一件に関しては、ただ怒っている印象は受けたが、まあそこは本当に怒っていたかもしれないし、作品の尺の都合もあるので詳細な描写がなくても仕方ない部分かとは思う。 はっきり言うと、別段空海に興味がなくてもこの作品は楽しめるようになっていると思う。前記したように、空海が生きた平安初期というのは、需要がないのか、殆ど映像作品になっていない。そういったこともあり、空海を中心にしてその時代の流れを知ることができる本作は、特に歴史好きの人には楽しいもののはずだ。(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)
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その他 2015年08月24日 12時00分
【コンピューターゲームの20世紀 56】忘れられない冒険になった「グランディア」
家庭用ゲーム機の歴史において幾度も繰り返されてきた次世代機戦争。中でもプレイステーション(PS)を引っさげてゲーム業界に殴りこみをかけた新興勢力のソニー(SCE)陣営と、セガサターン(SS)で今度こそ業界の覇権を握らんと目論むセガ陣営の比類なき第5世代戦争は、まさに歴史に残る名勝負であった。 当初、その戦いの主導権を握っていたのはセガ陣営。アーケードで絶大な人気を誇っていた『バーチャファイター2』の完全移植を実現するなど、32bit機の実力をいかんなく発揮。PSよりも半年早く100万台を突破してみせ、ついにセガの時代が到来したかと本気で思わせるほどの見事な戦いぶりであった。ところが、PSに国民的RPG『ファイナルファンタジー』のシリーズ最新作が登場することが発表されたことで、SSの勢いは失速。一方、『FF7』は早くから開発中のゲーム映像や現場の作業シーンをCMに使うなど、ソフトはもちろん、ハード自体も猛アピール。こうした戦略によりPSの販売台数は急激に伸びていった。そういった状況下で発表されたのが、今回紹介する『グランディア』。言うなればFF7の対抗馬に当たる。 開発元のゲームアーツは古くからPC向けのゲームソフトを手掛け、こと開発力に関しては定評のあるメーカーであった。1990年からはコンシューマー向けソフトの発売も開始し、以降はセガ陣営の有力なサードパーティの一つとなる。特にメガCDで発売した『LUNAR』シリーズは、オーソドックスなRPGながらも、良質なストーリーで多くのファンを獲得。そのゲームアーツが手掛ける大作RPG、しかも完全新作ということで、FF7同様に発売前から大きな話題となった。加えて、3Dと2Dが融合した斬新なフィールドもゲームファンのド肝を抜くことになる。背景は3Dポリゴンで描写されているがキャラはドット絵。一方、グランディアよりも先に発表されたFF7は背景の美しさこそ当時のあらゆるゲームソフトの中でも群を抜いていたものの、基本的にカメラは固定され、従来のRPGの延長といったシステムを採用していた。ちなみにプレイステーションで発売された『ゼノギアス』にも同様の技術が用いられているが、それを先んじて実践してみせたのは『グランディア』である。 さて、本作を語る上で絶対に外せないのが、他のRPGとは一線を画す戦闘システムであろう。コマンド選択方式だが、行動順は画面下部のIP(イニシアチブ・ポイント)ゲージで管理されており、このゲージがCOMに到達したキャラはコマンド入力を行え、ACTまで達したら選択したコマンドが実行される仕組みとなっている。なお、コンボ攻撃(一般的なRPGでいうところの通常攻撃に該当)をヒットさせると敵のIPゲージの上昇が一時停止。一方、ゲージの値が右端ギリギリまで来た時に一撃必殺のクリティカル攻撃を行った場合、攻撃対象キャラの行動をキャンセルすることができる。その他にも本作の戦闘には様々な仕掛けが用意されており、スリリングかつ高度な戦略性を求められる、非常に画期的なシステムを誇っていた。余談だが、通常戦闘曲はある重要なシーンを境に変化するのだが、この粋な演出に燃えた方も多いのではないだろうか。 本作を語る上でもう一つ忘れてはならないのが、その壮大なストーリーだ。ある古代遺跡を訪れたジャスティンは冒険に憧れる元気いっぱいの少年。その遺跡には、ここを調査している軍でさえも開け方が分からないという謎の扉があった。しかし、ジャスティンが扉の前にやってきたその瞬間、いつも持ち歩いている精霊石が強く輝き始め、まるで彼を導くかのように静かに扉が開く。そしてその奥には、リエーテと名乗る謎の少女と超古代文明エンジュールの姿が…。父の形見である精霊石が本物であること、そして今まで神話の話とされてきたエンジュールが本当に存在することを確信したジャスティンは、旅立ちを決意するのであった。 冒険の最中、ジャスティンには様々な試練が振りかかるが、信頼できる仲間たちとともに、それを一つずつ乗り越えていく。そして少年は少しずつ大人になって…。やり込み要素には乏しい本作だが、それでも何年かに一度、ふとジャスティンやその仲間たちと、また冒険の旅に出かけたくなるのだ。「忘れられない冒険になる」。本作にピッタリの名キャッチフレーズである。 SSのRPGとしては大ヒットといっていいほどの売り上げを記録した本作だが、発売時点ですでにPSの勢いが最高潮に達していたこともあり、残念ながらFF7には遠く及ばずという結果に終わってしまった。その後、本作はPSに移植され、現在はゲームアーカイブスにもなっている。これほどの名作を安価に、そしていつでも楽しめるのは本当にありがたい。ただ、ちょっと皮肉な話ではある。(ゲイム脳@内田=隔週月曜日に掲載)■DATA発売日…1997年メーカー…ゲームアーツハード…セガサターンジャンル…RPG(C)1997 GAME ARTS/ESP
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その他 2015年08月21日 12時00分
【不朽の名作】とにかくCHARAの存在が強烈で一見の価値あり! 「スワロウテイル」
とにかく邦画でオシャレな映画を観たい、または印象に残る映像を見たい。そう思う人がいたら、今回紹介する岩井俊二監督で、1996年公開の『スワロウテイル』をオススメしたい。 この映画の舞台は円の価値が高騰した架空の日本となっている。そこには一攫千金を狙う密入国者達が溢れており、住み着いた外国人達は、街を“円都(イェン・タウン)”と呼んだ。その円都に住み、日本人が蔑称で“円盗(イェン・タウン)”と呼ぶ違法労働者たちが、この作品の物語の中心となる。 主要キャラはCHARA演じる上海出身の娼婦・グリコ、伊藤歩演じる母親を失った円盗二世の少女・アゲハ、グリコの恋人である三上博史演じるヒオ・フェイホンの3人で、主のこの3人の視点で本編の物語は進んでいく。ちなみに、公開当時は子供の偽造紙幣使用などが問題となり、映倫がR指定をかけていたが、そのシーンはそれほど強烈には描写されていないので、初めて観た人は肩透かしを食らうかもしれない。 この作品、本編中にとにかく色々な出来事が起きる。序盤は、突発的なヤクザの死をきっかけに偽造紙幣の製造法を入手し、それを利用してのし上がる物語となる。そこから音楽メインの話になったかと思うと、円都のギャングが絡んできてきたり、今度はアゲハが偽造紙幣を使って金を強奪するなど、緊迫感や笑い所をごちゃ混ぜにしつつ忙しく話が動く。しかも英語、中国語、日本語が飛び交う無国籍感のある世界観で、これが絶妙にマッチして、なんとも言えない中毒性を与えており、何故か作品に引き込まれてしまう。 しかし、一つ一つのシーンを切り取れば、実はそこまで良い作品とは思えないのだ。偽造紙幣の件は政府がさすがにあんな長期間放置しないと思うし、射殺シーンの直前にやけに無駄な会話が多い点など、「早く撃てよ、なにやってんだ」と感じる。とりあえずイカれたキャラを出しておけば話は盛り上がるだろうと、殺し屋役で渡部篤郎や、エキセントリックな娼婦役で大塚寧々を出したりと、安直な狙いも気になる。移民がひしめく貧民街という設定を上手く使っていない気がするのだ。洋画のマフィア映画や、高倉健主演の『山口組三代目』などのように、貧民街や暗黒街で繰り広げられる、残虐劇や友情、またはのし上がり劇に中心を置いていないのは理解するが、そこを譲ってもなお薄っぺらい感じが否めない。 それでもこの映画は、いい作品だとは思う。音楽の使い方は文句なしに良いし、CHARA(グリコ)の歌い出すシーンはどれも印象に残るカットになっている。というより、この映画の薄っぺらい部分は、劇中BGMや劇中歌を上手に使った世界観の演出の良さでかき消され、全体を見れば気にならないレベルになってしまっている。多分、1回観た程度ではアラは全く気にならないと思う。2回目以降も特に気にして見なければ、おそらく何度もこの映画の雰囲気の心地よさを楽しめるはずだ。また、「移民」という題材を使っているのにも関わらず、変に押し付けがましいシーンもないのも、この作品では良い方向に働いている。 冒頭でオシャレな映画と言ったが、この映画、とにかくグリコを取り巻く世界感がいいのだ。それこそ、この作品全体が作中に登場する「YEN TOWN BAND」の音楽PVかと思うほどに。 YEN TOWN BANDは作中でグリコを中心に結成された架空のバンドとなっているが、現実でも、音楽プロデューサーの小林武史氏のプロデュースにより、同名バンドで実際にアルバムとシングルをリリースし、好調なヒットを記録した。その点で言えば、この映画のグリコ役としてCHARAをキャスティングし、歌わせた事が出来た時点で、8、9割完成している。世界観はハッキリ言ってなんかよくわからないのに、CHARAの存在感と、音楽のを絡めた映像の雰囲気だけで、この映画を印象深いものにしている。群像劇気味な本作だが、その中でも主役級の扱いがアゲハとグリコだとは思う。さらにメインとなるのは登場シーンの尺的にアゲハだとは思うが、シーン個々の目立ち方だとグリコの方が圧倒的だ。それほど、CHARAの存在がこの作品では強烈なのだ。 特にCHARAのファンでなくても、とにかくグリコのシーンが良い方向で頭に残る。グリコの生き別れの兄という設定の江口洋介演じるギャングのリーダー・リョウ・リャンキや、前記したヒオ・フェイホンにも見せ場は多々あるのだが、「ちょっとこれは…」と思ってしまう、薄っぺらく、安っぽいシーンもあり、微妙な印象を持ってしまう。そういったシーンはアゲハにも娼婦の仕事をやっている時などにあるのだが、それでも他の2人ほどにはマイナスイメージにはならない。これはもうCHARAがこの映画の空気感に合っていたとしか言い様がない。逆にアゲハは淡々の行動しているシーンが多く、印象に残りづらい。この映画が、このなんとも言えない絶妙な雰囲気はやはりCHARAあってのものだろう。 ただ、映像や世界観のクセは強いので、馴染めない人はそれなりにいるので注意だ。ただ、「移民」という題材は使っているが、それほど説教臭くもなく押し付けがましくもないので、その辺りは安心していいと思う。どこかヨーロッパのオシャレ映画っぽい作りなので、ちょっと雰囲気の違う邦画を観たいという人にはこれ以上のものはそうないと思う。あと、映画から20年を経て、中国経済が強くなり、中国人が日本に観光して電化製品を買いあさっている今現在この映画を観ていると、別の感情も湧いてくるかもしれない。(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)
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その他 2015年08月20日 11時45分
「スター・ウォーズ」が小判や金屏風に! 銀座の老舗ジュエリー店がコラボ商品を発表
銀座にある貴金属ジュエリーの老舗「GINZA TANAKA」で19日、映画『スター・ウォーズ』シリーズのコラボレーション商品が報道陣に公開された。 今回、公開されたのは作中に登場するC-3POやR2-D2の姿を刻印した純金製の小判「スター・ウォーズ 純金製小判 ドロイドセット」や、ライトセーバーをイメージした「スター・ウォーズ 銀製ライトセーバー耳かき」、「スター・ウォーズ金箔屏風」など。 既に5月に第一弾コラボ商品「スター・ウォーズ 純金製小判」、「スター・ウォーズ 純金製小判 帝国軍」が発売されており、今回はそれに続く第二弾商品となる。反響はかなり大きいそうで、シリアルナンバー入り54セット限定で発売した「スター・ウォーズ 純金製小判 帝国軍」は100万円という高額ではあるが、既に完売しているという。 同作とのコラボに至った経緯を同社の担当者は、「以前からディズニーとのコラボ商品を販売しておりまして、スター・ウォーズの権利をルーカスフィルムからディズニーが譲り受けたことをきっかけに実現しました」とコメント。購入する人は同作の熱狂的なファンで、高額の商品ということもあり、年齢層は高めとのことだった。 また、金を使用する商品は、同社が長年扱っており得意とする分野とのことで、小判は細部にこだわりデザインを作成。金屏風にはエピソード4〜6の主人公ルーク・スカイウォーカーと、その宿敵であるダース・ベイダーの姿が描かれているが、これは特殊な印刷技術を用いて、金箔に直接プリントしたとのことだった。 なお、同コラボ商品は9月1日〜2016年4月30日まで、全国9店舗のGINZA TANAKAや、オンラインショップで販売される。数量限定の商品もあるので、気になった方は早めに確認することをオススメする。(斎藤雅道)
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その他 2015年08月16日 12時00分
【幻の兵器】実戦に参加することなく敗戦を迎えた遠隔操縦無人兵器「九八式小作業機(い号)」
日本軍が1932年に上海付近で中国と武力衝突を引き起こした際、鉄条網爆破作業中に兵士が事故で爆死した。日本陸軍は事故で死亡した兵士を「爆弾三勇士」としてプロパガンダに用いると同時に、鉄条網の突撃路を開設する「遠隔操縦の無人兵器」を開発することにした。 この「遠隔操縦無人兵器」が九八式小作業機であり、最終的には外部電源のリモコン兵器として完成するが、本体と作業用アタッチメントとの組み合わせを変化させることにより、鉄条網や小型目標の爆破、トーチカ(野戦築城)の破壊、偵察や歩兵用通過橋の設置にいたる、多くの任務を実施することが可能であった。 陸軍科学研究所第一部では事故直後から研究を開始したらしく、対応の素早さからも事態を深刻に受け止めていたことがうかがえる。ともあれ1939年には量産が開始され、翌年には専門の運用部隊が編制されている。また、通説では秘匿名称「い号」の九七式小作業機となっているが、秘匿名称の「い号」とは操縦用ケーブルを通じて操作する超小型機材全般のことを示し(水上無人兵器もあった)、有線(いうせん)操縦から「い号」になったとされている。 完成した九八式小作業機の本体(電動車)には甲型と乙型の二種類があり、いずれも二台のモーターで駆動する方式だった。甲型の車体には鉄条網破壊筒を挿入する一号作業機か、小型爆薬を設置する二号作業機のいずれかが搭載可能である。また、その他に二個の発煙筒を取りつけて煙幕や毒ガスを放出したり、歩兵用の通過橋となるはしごを搭載することもできた。 乙型は甲型をひと回り大きくしたような外見で、車体には一号あるいは二号作業機を二機同時に搭載することが可能とされているが、混載が可能だったかどうかはわからない。また一号と二号作業機のほかに集束爆薬が設置可能な三号作業機も搭載可能だったが、もちろん他の作業機と同時に搭載することはできなかった。その他、装甲防盾を取りつければ兵士搭乗して自己操縦も可能で、超小型の偵察装甲車としても使用できた。 車体は特殊軽金属で構成して軽量化を図り、井げた状のフレームに左右両側面の板を取りつけてシャーシを構成していた。サスペンションには日本陸軍お得意のシーソー式コイルスプリングを使用して、左右の履帯にはそれぞれ1馬力(甲型)もしくは2馬力(乙型)直流モーターが接続され、ギアを介さずに左右の回転数を増減することで前進、交替、旋回などの操作を行っていた。車体後方に接続された四芯電線ケーブルを経由して電力を供給し、また同じケーブルを介して本体を操縦した。ケーブルは出撃陣地のドラムに巻き取られていて、本体の前進に伴って繰り出される仕組みとなっていた。 つまり、九八式小作業機とは旧式の掃除機のようなもので、電源ケーブルを引きずりながら前進、作業することとなる。九八式小作業機の開発において、もっとも困難だったのはケーブルの開発とされている。また操縦装置にも甲乙あり、甲は電源陣地から直接操縦するための装置で、乙は携帯操縦機と変圧器などを分離し、電源から離れた場所から操縦するための装置だった。再び掃除機の例えを使うなら、甲はコンセントに接続するコントローラーで、乙はコンセントからさらにケーブルを延長して接続するコントローラーということになる。基本的には壕の中から眼鏡(ペリスコープと思われる)を上に出し、目視操縦する事となっていたが、搭乗者が自己操縦する場合は乙型操縦機を車内へ持ち込んだ。当時はジョイスティックがまだ発明されていなかったため、前後進(速度調節を含む)と左右の方向転換をそれぞれ別個のレバーで操作し、作業機の操作はまた別のダイアルで行っていた。 ひんぱんに誤解されるのだが、九八式小作業機とは個々の電動車や、電動車が作業機を搭載したものを指し示すのではなく、電源車を含めた複数の電動車と作業機一式である。全体は電源車一両に甲型電動車四両、乙型電動車二両、各種作業機八機等が一組となっており、これら装備の全てで九八式小作業機を構成していた。電源車は九七式軽装甲車に発電機を搭載したもので、トレーラーとセットになっていたが、動力は移動用と発電用の共用だったため自走しながらの発電は不可能だった。 陸軍は九八式小作業機の変形として水上用の「いす号」や超大型の重「い号」を製作したが、中でも臼砲で障害物踏破用のケーブルを投擲する「いて」号は有用だったため、量産して独立工兵第二七連隊に配備した。しかし、いずれも実戦に参加することなく敗戦を迎えた。日本陸軍が無人兵器に着目し、部隊を編成した事は非常に高く評価できる。幸か不幸か実戦でその能力を発揮する機会は無かったが、開発当初の目的に沿った固定陣地への攻撃に投入された場合、非常に大きな威力を発揮したことはほぼまちがいないだろう。(隔週日曜日に掲載) ■データ98式小作業機(い号)(乙型)重量:自重400kg寸法:長さ2.5m、幅1.0m、高さ0.6m動力:600v直流モーター2性能:速度4km/h
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その他 2015年08月10日 12時00分
【コンピューターゲームの20世紀 55】 『ムーンクレスタ』合体によって子供達のハートを鷲掴みに
現在ではその名をほとんど耳にすることもないゲームメーカー「日本物産」。1980年代後半から1990年代までは数多くの脱衣麻雀ゲームをアーケードに送り出しており、そのお世話になったというプレイヤーも多くいることだろう。現在では同社は既に事業を停止しているが、ゲームの権利は株式会社ハムスターに移譲されているため、今後も様々な形で「ニチブツ」の作品を見かける機会もあるだろう。 どちらかと言えばあまりパッとしたイメージのないニチブツだが、日本のテレビゲーム業界がまだ黎明期であった1980年に歴史に残る名作を2本発表している。その1つが【コンピューターゲームの20世紀 49】で紹介した『クレイジークライマー』であり、そしてもう1つが今回紹介する『ムーンクレスタ』なのである。『ムーンクレスタ』は当時としてはかなりの人気を誇り、現在40代の方の間では知名度も高いはず。この年は前述の2作と『パックマン』がゲームセンターでの人気を独占していたのだが、『クレイジークライマー』と『パックマン』は高校生や大学生といったやや年齢が高めの層に人気があり、小学生などの間では『ムーンクレスタ』の人気が最も高かったと記憶している。まぁそれは筆者の子供時代の小さなコミュニティでの話のため、多少の齟齬は勘弁してほしい。とにかく本作が当時トップクラスの人気であったことは間違いがないのだ。 そのゲーム性を簡単に紹介していくと、本作は『スペースインベーダー』以来の伝統である固定画面式のシューティングゲームで、自機は左右にしか移動できない。敵は5種類存在しステージごとに固定されているが色違いの的がいるため、計10ステージで1周が構成されている。この敵の最大の特徴は弾を一切撃ってこないことで、プレイヤーがミスとなるのは自機へ体当たりを受けた時のみとなっているのだ。しかし、だからといって本作が非常に簡単かと言えばそうではなく、敵は弾を撃たない代わりに非常にトリッキーな動きで自機へと向かってくるのである。 1・2ステージの「コールドアイ」は、初め円形だが、弾が当たると半円形に分裂し、不規則に弧を描いて自機に迫ってくる。さらに一旦画面下へと去って行ったように見えた敵が戻ってくるのは、本作以前にはあまり見なかった動き。翻弄されたプレイヤーはここで早くも自機を失うことになってしまう。3・4ステージの「スーパーフライ」は、ハエのような形状で数を頼みに襲ってくる。5・6ステージの「フォーディ」は移動スピードが速くワープのような動きを見せる強敵。7・8ステージの「メテオ」は画面の左右上部から斜めに降ってくる。この敵のみ1機も打ち落とさなくてもステージクリアが可能だ。9・10ステージの「アトミックパイル」は初めは小さな形状だが、ミサイル状の枝が生え垂直に落下してくる。高次周の画面を覆うように全機が一斉に落下してくるさまは見物である。 それに対して自機は3機で1つの機体をなす合体型で、これが子供達のハートをがっちり掴んだ理由でもある。1号機は最も小型で敵の体当たりを避けやすいが、攻撃は単発単装の弾のみと非常に頼りない。特にステージ3・4のスーパーフライを相手にした時などは敵に弾が当たらずジリジリとした気分にさせてくれる。2号機は本作の花形的存在で、サイズは1号機よりやや大きいが2連装の弾は敵に当てやすく、1号機とは段違いの強さを見せてくれる。この2号機を失うとゲームがもはや終わったような気分にもなる。それほどの存在感を持った自機であった。 3号機は1・2号機の倍ほどの大きさで敵の体当たりをかわすのが大変。いちおう攻撃は2連装なのだが、弾と弾の間が開きすぎていて実に使いにくいのだ。この3号機の登場はゲームの終了を告げるサインのようなもので、消化試合のように余韻を楽しむ存在だと言ってもいい。 そして、先に自機は合体型と述べたが、本作にはその合体も再現されているのだ。ステージ4のスーパーフライを全滅させると画面が切り替わり、「ドッキングせよ」の文字が表示される。このドッキングは自機を左右に動かすだけなのだが、慣性がついているため慣れるまでは失敗することも多い。失敗した際には自機のどちらかが失われてしまうため、あえてドッキングしないというチキン戦法も存在した。このリスクを乗り越えてドッキングに成功すると、合体した自機それぞれから弾が発射されるようになり、2連射・3連射が可能になるのだ。当たり判定は大きくなるが、これは大いなるパワーアップであり、何よりも合体は子供達にとってロマンであったのだ。ただし、合体時に敵にぶつかると2号機のみが失われ、1号機と3号機が残るといった悲劇も生まれることになったのである。また、この自機が3機合体という特性は1UPの際にも大いな恩恵をもたらし、本作では一定の点数に到達すれば1〜3号機がまるごと追加されるのである。そのため、実は3号機のみになってしまっても、粘って点を稼げば再び1から3号機の合体も可能になるのである。 日本物産はそれまで他のメーカーの作品をコピーする側で、『ギャラクシアン』のコピーゲームである『ムーンエイリアン』では訴訟問題にも発展していた。しかし、本作と『クレイジークライマー』発売以降は逆にコピー作品に悩まされる側になっている。ただ、1980年以降は大したヒット作にも恵まれず、先述のように脱衣麻雀が主力商品の会社になってしまう。その理由は色々とあるのだろうが、実は本作と『クレイジークライマー』は共にジョルダンの制作である。ジョルダンは現在『乗換案内』で有名なメーカーだが、古くからゲーム制作も行っており、近年ではWiiで『女番社長レナWii』を発売。初週の売り上げが100本という素晴らしい記録を打ち立てたメーカーでもある。このジョルダンと離れたことがニチブツ最大の失敗だったのではなかろうか。(須藤浩章=隔週月曜日に掲載)■DATA発売日…1980年メーカー…日本物産ハード…アーケードジャンル…シューティング(C)1980 NIHON BUSSAN CO., LTD.
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その他 2015年08月07日 12時00分
【不朽の名作】新しいことをしようという意気込みは感じるが色々残念な「君を忘れない FLY BOYS, FLY!」
今年の8月15日で終戦70年目となり、第二次世界大戦(太平洋戦争)にまつわる作品がたくさん制作されているが、1995年は50年という節目でもっと扱いが大きかった。今回、その年制作された『君を忘れない FLY BOYS, FLY!』を扱いたいと思う。 この作品は、俳優陣にSMAP・木村拓哉、反町隆史、袴田吉彦、松村邦洋、池内万作など、当時注目の若手を集め、直接の上官役として唐沢寿明を抜擢するなど豪華メンバーで「神風特別攻撃隊」という題材に挑んだ注目作だった。まあ、注目作ではあったのだが、色々明後日の方向に冒険をしすぎて、残念な作品になってしまったのだが…。 同年に終戦記念映画として公開された『きけ、わだつみの声 Last Friends』、『ひめゆりの塔』は完全に「反戦」に主眼を置いたのに対し、この作品は新しいアプローチで特攻隊を描こうという姿勢が随所に見られた。まず松村を飛行機乗り役に抜擢する辺りからしてかなりの異端作だ。もちろん当時から「この時代にデブの軍人がいるなんておかしい」と叩かれていた。まあ、『きけ、わだつみの声 Last Friends』にも、敵陣に向かって織田裕二がラグビーのトライをかけるという「学徒兵の遺書が原作なのにそれはいいの?」というシーンはあるにはあるのだが、この作品は、もっと「それはいいの?」という部分が顕著だ。とにかくサークル活動のような明るさが随所に散りばめられているからだ。 まあ、そこはそれほど悪いことではないと思う。史実を元にしている部分は特攻隊の部分だけで、後はオリジナル脚本なのだから。反戦に執着しすぎて陰鬱になりがちな日本の戦争映画とは、別のアプローチとして特攻隊員の「非日常の中の日常」を描こうという姿勢は評価できる。問題は、その非日常の日常を際立たせる緊迫感が全くない点だ。 この作品はとにかく飲酒シーンが多い。しかも取ってつけたように戦況の話をしながら、ちょっと上官とのケンカを挟みつつという感じで、なにをしたいのかよくわからない。もしかすると、映像の向こうでワイワイ騒いでいるので、俳優個々のファンにとってはいいかもしれないが、これはアイドル映画ではなく、戦争映画なのだ。もう少しなんとかならなかったのかとは思う。 唯一緊迫感を煽るシーンといえば、序盤に上田淳一郎役の木村が、新任地の飛行場に緊急着陸をして、その後、飛行場が敵機の襲撃を受けるシーンくらいだ。そのシーンにしたって、藤岡弘主演で1976年公開の『大空のサムライ』のオマージュなのではと思うほど構図が似ている。具体的にいうと、片輪状態の零式艦上戦闘機(ゼロ戦)が、滑走路に突っ込んで来るところや、機銃掃射を受けた場面で逃げたり、対空機銃で応戦する際のシーン演出などだ。参考にしたかは定かではないが、とにかく似ている。しかも、ただ逃げているだけで、緊迫感というとそれほどでもない。ちなみに、『大空のサムライ』は実在の海軍エースパイロット・坂井三郎の自伝的小説が原作になっており、古さはあるが、かなり完成度の高い作品なのでオススメだ。 そんな具合に、緩いシーンが終始続き、戦争の過酷さや大戦末期の絶望感というものが、この作品には一切伝わってこない。緩さを交えつつ、締めるところは締めないと、第二次世界大戦末期の特攻隊を題材にする意味がない気がする。また、よくこの作品は役者のチャラいやりとりが批判の対象になっているが、個人的にそこは気にしていない。そういう隊員がいなかったという事実は調べようもないからだ。それ以上に問題なのが、調べられるのに調べてない部分を、恥ずかしげもなく描写している点だ。 まず訓練飛行のシーンだが、コックピットの風防も開けないで会話をしている。無線で会話しているのではと思うかもしれないが、ゼロ戦の無線機は性能が悪く使えないため、軽量化の為に取り外し、空の上でパイロットは主にハンドサインで意思の疎通をはかっていた。前記した『大空のサムライ』や、2013年に公開された『永遠の0』ではハンドサインを使っているので、それらの作品を観ていれば違和感ありありのはず。無線を積んでいる機体もあったそうだが、この作品ではとても無線で交信しているようには見えない。それこそ「この人達ニュータイプなのかな?」と思ってしまうほどだ。 他にもある、三浦草太役の反町が、自身の敵機撃墜数を22機と話している部分だ。この戦績は完全にトップエースパイロットクラスだ。それなのになぜ特攻隊に配属されたのだろうか? 『永遠の0』ではエースであった宮部が、自身の強い意向で特攻隊の配属になるが、この作品ではどうも命令されて来たっぽい。おそらく、当時の戦況でもエースパイロットを生存の見込みのない特攻隊に配属するということはほぼないと思う。強く志願したとしても、新鋭機の紫電改か雷電に乗っての本土の防空に当てられるか、訓練生の教官になるはず。もしくは同じ零戦に乗って、米艦隊のピケットライン手前までの、特攻機護衛の任務を与えられることもあり得るが、どんなに扱いづらいパイロットでも、命令で「特攻機に乗れ」とはさすがにならないかと思う。他にも出撃の前に、当時のカメラで自撮りをする隊員など、気になる点は結構あるのだが、まあ仕方ないとしよう。 この作品は、なにか新しいことをしようという気持ちは全体から伝わってくるのだが、全てがダメな方向に向かってしまった典型だと思う。そもそも特攻隊という、“必死”の戦いに向かう人々を題材に選んでしまったことに問題があったとしか思えない。軽い演技、明るい表現が、全て薄っぺらいという印象になってしまった。有名俳優を揃えて、ひょうひょうとした雰囲気の演技を売りにしたいのだったら、登場人物を全てエースパイロットにして、本土防空の苦しい状況にも、最善を尽くす姿を描いた方が良かったのではないだろうか? “決死”の戦いでも戦争の絶望感や残酷さは十分表現できるとは思うのだが。やはり「特攻隊」というわかりやすい単語がないとダメなのだろうか…。(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)
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その他 2015年08月02日 12時00分
【幻の兵器】日本海軍が開発した最初で最後の対潜哨戒機「東海」
日本海軍が世界に先駆けて実用化した兵器は意外に多いが、対潜哨戒機をそのひとつに挙げるマニアは少なくない。通説では、米潜水艦による被害が増加し、船団護衛の切り札として開発されたものの、量産時期が遅かったために活躍できなかったとされている。また、日本機には珍しく優れた電子装備を有し、哨戒から急降下爆撃までこなす高性能機であるかのように解説している資料もある。 日本海軍は1942年10月に渡辺鉄工所(後の九州飛行機)へ「十七試哨戒機」の開発を正式に試作発注したが、これが後の東海である。海軍は特に急降下爆撃能力が必須であること、巡航速力で10時間以上の航続能力を持たせること、哨戒時の速力を可能な限り低く押さえることを要求したが、最大速度は指定されなかったようだ。その他、対潜哨戒以外にも対空警戒や偵察も主要任務に含み、艦上機や水上機としても転用可能であるとされていた。 野尻康三技師を主務者とする開発陣はさっそく作業を開始し、翌43年には原型機の製作に着手し、同年12月には初号機が完成している。飛行試験も比較的順調に進み、尾翼の位置と面積を修正した他は大きな改修点もなかったとされているが、それでも生産が始まったのは初号機完成から3か月以上経過した1944年4月だった。正式採用後は東海11型と呼ばれ、後に練習機型が計画されたように操縦特性も素直で、安定性も良好だった。また、海軍が求めた急降下性能も良好で、急降下制動板を兼ねた独特のフラップの働きにより、低速度での巡航能力が非常に優れていた他、着陸距離も短かった。 東海は双発戦闘機「月光」よりもやや小振りで、艦上攻撃機「天山」よりはやや大きい程度の機体だった。良好な離着陸性能とあいまって、格納庫をはじめとする支援施設の貧弱な前線飛行場でも運用が可能だった。東海には欠点もなくはなかったが、全般的によくまとまった機体であり、運用者側からは概ね好意的に評価されたようだ。 戦時中も含め、日本機は初飛行から生産開始まで約1年ほど経過する場合が多く、東海の場合もそれほど時間がかかったとは言いがたい。開発を担当した九州飛行機にとっては最初の大型機であり、他社開発機の転換生産も零式三座水偵をはじめとした単発機であった事を考えると、むしろ努力を評価すべきとさえ言える。だが、ほぼ通例通りということは、うがった見方をするなら「特に急がなかった」と言えなくもない。 ともあれ、生産開始まではもたついたが、その後のペースは早く1944年には佐伯海軍航空隊に配備された機体が九州南西と五島列島西方で実戦に参加している。その後の配備情況や戦果については不明な点が多く、また残念ながら戦果についても極めて情報に乏しい。現段階では、日本軍と連合軍双方の資料によって確認された戦果が無いというのが実情だ。 ただ、東海は三式一号探知機と呼ばれる航空機用磁気探知機を装備しており、当時は日本海軍のみが実用化していた、世界各国の海軍に先駆ける画期的な発明であった(開発に着手していた国はある)。磁気探知機はまず九六陸攻に装備されたが、東海が量産されはじめるとこちらへ優先的に支給された。 東海は日本海軍が開発した最初で最後の対潜哨戒機であり、また第二次世界大戦においては諸外国に例をみない機体でもあるため、その独自性を評価する専門家は少なくない。しかし、日本海軍が対潜哨戒機の開発を試みたのは東海が最初ではなく、対米開戦前に開発着手した十三試小型飛行艇(二式練習飛行艇)は、沿岸や近距離の哨戒、船団護衛と並んで対潜哨戒もこなす機体を目指していた。というのも、日本海軍は敵潜水艦が軍港を始めとする根拠地を偵察することを恐れており、対潜哨戒能力を備えた拠点防備用の汎用哨戒機を欲していたのである。 しかし、磁気探知機や電探を装備し、爆撃能力を持つ機体が用意できるなら、わざわざ専用機を開発する必要もなかったのも確かである。事実、陸軍は一式双発高等練習機を哨戒機へ転用しているが、航続能力さえ強化できればこの程度の機体でも十分であり、諸外国においては輸送機から発展した洋上哨戒機が対潜作戦もこなしていた。専用機の開発を過ぎた贅沢とみるのは言い過ぎかもしれないが、旧式機や二線機の転用による「電探装備の哨戒機を早期に整備」できなかった事に対して、後世の人間がもう少し突っ込んだ検討をした方が良いのかもしれない。(隔週日曜日に掲載)
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その他 2015年07月31日 12時09分
【不朽の名作】麺選びの部分が描写されていない、その一点だけが残念なラーメン映画「タンポポ」
ラーメンというのは、もはや食べ物である前に得体のしれない何かになっていないだろうか? しょうゆ、塩、味噌という基本系から、とんこつ系、つけ麺、魚介系、油そば、家系ラーメン、喜多方ラーメン 、二郎インスパイヤ系など、様々なものに細分化し、本来ならば、お手軽なジャンクフードであるはずのものを、大の大人が大真面目に評論している。作る側も食べる側も、どこか狂気めいた熱量を持っている人も多く、普段ラーメンにそれほど思い入れがない人にどこか近寄りがたくなっている部分も多い。そんなラーメンのことを大真面目に論議する人々が面白いと思い、約30年前に映画のメインテーマとしてしまった作品がある。それが、今回紹介する、伊丹十三監督の第2作目(別名義合わせると3作目)として1985年に放映された『タンポポ』だ。 この作品のメインは宮本信子演じる未亡人・タンポポのラーメン屋を、山崎努演じるタンクローリー車運転手のゴローら、ラーメンのスペシャリストたちが立て直す話となっている。予告編などでは「ラーメンウエスタン」というキャッチコピーが目を引いたが、まさにその通りで、映画『シェーン』など、人種差別的描写を減らした頃のウエスタンのような構図で、痛快でかつ笑える内容となっている。 ラーメンに関する解説はかなり詳細になされており、店主の立ち居振る舞いから、スープ、麺、内装といったラーメン屋に必要な各要素を、それぞれのスペシャリストが細かく改善点を語っていく。その様子は大真面目すぎて笑ってしまうほどだ。最初に問題となる、店主の立ち居振る舞いの時点で、行列が出来ていても動きに無駄のある店は不味い店、客が食べ終わった後にスープを全部飲んでるか、さり気なく確認する店はいい店など、いいラーメン屋というのはどういったものかというのを細かく解説しており、かなり入念に調べていたことがうかがえる。 スープの研究では、人気店のゴミ箱をあさってスープの内容物を調べるなど、かなりエグい描写もある。さすがにやり過ぎの気もするが、ここまでやらないまでも、ライバル店を調べる店というのは結構あるのではないだろうか。筆者が学生時代にアルバイトしていた地元のラーメン屋でも、偵察のようなことはよくやっていた。その場合スープの様子を確認するために、店のカウンターに座る前に、メニューを探すフリをしてスープの鍋をチラ見したり、カウンターにのれんがかかっている場合は、ワザと顔を厨房に突き出して注文するなどだ。ちなみに、昔にバイトしていた所が、醤油ラーメンがメインだった影響で、自分自身がアンチとんこつ派的なところもあり、この映画のとんこつ批判はよくぞいってくれたという思いもある。劇中でもゴローが指摘していたが、基本的にとんこつは、鍋に豚骨を放り込んで野菜と火力高めで一緒に煮込めばそれっぽいものが出来てしまうこともあり、野菜や昆布の香りで豚の臭いを隠す店などが、人気店であっても多い。当たり外れがとてもデカイのだ。「『こだわり』とかいうくらいならアク抜きくらいしろよ、豚臭すぎる」と思った時が何度もある。特に最近は、味が濃ければいいという幻想のもと、とんこつベースに醤油や塩、魚介などを混ぜてくる店も多いので、ハズレ率が極端に高い気がする。 さらに、麺の話になると、「かん水」という言葉が頻繁に出てくる。劇中ではさも知って当然のように説明もはぶかれているが、このかん水とは、ラーメン用の麺を作る時に使うアルカリ塩水溶液で、かん水の分量次第で麺のコシやのど越が大きく変わってくる。一般に低かん水であればあるほど伸びやすいが、スープの味に絡みやすい麺が出来るといわれており、高かん水であるほどコシの強い麺が出来あがる。各ラーメン屋の店主は、手打ちではない限り、自分の店スープに合う麺を業者に発注するのだが、この作品では尺の都合か、麺選びの部分が描写されていない、その一点だけは残念な部分だ。 内装に関しては、安岡力也演じるヤクザまがいの土建屋、ビスケンが、女性であるタンポポの背丈に合うような設計を試みる。さらに、この時に客のカウンターのスペースがラーメンを食べるにしては狭いと指摘し、大幅リフォームをするのだが、ここもラーメン屋にとっては、かなり重要ではないだろうか。おそらく伊丹監督自身も、狭く設計しすぎな店舗などをよく見ていたのだろう。こういった職業ごとの仕事に関する細かい描写は、後の伊丹作品の『マルサの女』や、『ミンボーの女』などでも見ることが出来る。 さて、長々と劇中のラーメンについて扱ったが、実はこの作品にはもうひとつの側面がある。本編の幕間に入る寸劇がそれだ。これらのシーンでは役所広司扮する白スーツの男を始め、様々な人物の食に関する小話が展開される。正直、全く本編と関係ないので不要だと思うのだが、これらのシーンでは、性(もしくは生)や死と食に関する話が展開されており、本編とはまた違う生々しい食物に関連したエロ描写が見られるので、見方によっては、かなり面白い話となってはいる。個人的にはイマイチ乗りきれなかった感はあるが、笑える部分もあり、延々同じようなノリで進む本編の箸休め的要素にはなるかもしれない。あと、これらのシーンには日本人の食に関する挑み方に対しての皮肉も描かれており、この辺りは、後の伊丹作品である『スーパーの女』に通じるものがあるかもしれない。 この映画を見るならば、昼飯時か、夕飯時に終わるように合わせて見ることをオススメする。詳細なラーメントークを受けて、きっと「ラーメン食べよう」と思うはずだ。まあ、映画から30年後の現在は、さらにラーメンのジャンルが細分化し、競争も過熱したことで、作中のようなオーソドックスな醤油ラーメンを探すのが難しくなっているかもしれないが…。(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)
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その他 2015年07月24日 12時00分
【不朽の名作】神がかった“クソ映画”「シベリア超特急」
1996年、『金曜ロードショー』の映画解説者として人気だった映画評論家の水野晴郎氏が、マイク・ミズノ監督として自らメガホンを取った作品『シベリア超特急』が誕生した。後にシリーズ化、舞台化までし、映画で5作、舞台で2作の計7作品も制作されたが、この作品、決して出来がいいとはいえない。 いや、出来が良くはないというより、確実に出来の悪い部類だ。口汚く表現すれば、クソ映画だ。しかし、この作品は凡百の「駄作」、「クソ映画」といわれる作品とは違う。クソ映画で有りながら、どこか魔力めいたものを持っている。なんだか良くわからないが惹きつけられてしまう、「神がかったクソ映画」なのだ。その妙な魅力は、後に同作の熱狂的なファンがついたことでも明らかだろう。今回はまだ同作を鑑賞していない、または鑑賞したら負けだと思っている人に向けて、この作品の神がかった魅力を紹介したい。 まずこの作品、ひとつひとつの部分を取り上げていくと、とにかく酷い部分が目につくのだが、全体的な展開として考えると、十分飽きないような展開になっている。作品の舞台は第二次大戦まっただ中の1941年で、独ソ戦開始直前の、ソ連領から満州国に向かうシベリア超特急内だ。ここの一等車両で次々と殺人事件が起こるという形式になっている。この殺人事件を水野氏演じる、山下奉文陸軍大将が解決するという訳だが、それなりに電車の車内という限られた空間を上手く使っている。 実はこの、車内を上手く使えているのには理由がある。全体的にアルフレッド・ヒチコック監督のサスペンス映画を参考にしているからだ。というより、移動型密室という設定を考えると、ヒッチコック監督の『バルカン超特急』そのままの部分も多い。車内で突然人がいなくなるあたりなどもそっくりだ。前記したが、この映画公開は1996年だ。そんな時期に、戦前から活躍していた監督の作品の、コテコテ演出を使ってしまうあたりが凄い。おそらく映画をあまり見ていない人には一周回って斬新な演出に映るだろう。しかも、コテコテをそのままトレースといった形で、ダメな方向に向いそうな、自分流のアレンジが殆どない。この一点だけで、クソ映画な本作を、それほど苦痛のないものにしている。時々役者が瞬間移動する杜撰な演出はあるが…。これは水野氏の敬愛する偉大な監督に対するリスペクトがあったから出来た行動だろう。変にアレンジしなかったことが良い方向に働いた。 さらに、同作を論議する際に話題になる、水野氏扮する山下大将の棒読み演技についてだが、これに関しては弁護の余地がないほど確かに酷い。たぶん、ほとんどの人が最初の「ボルシチ美味かったぞ」のセリフだけで、「あ、ダメだこれは」と思うか、あまりの棒読みに吹き出すはずだ。しかし、しばらくするとこの棒読みも癖になってくるはずだ。 それは、この作品の推理形式が「安楽椅子探偵」という方法とっていたからだ。殺人現場発見や、状況証拠集めは、 佐伯大尉役の西田和昭と、青山一等書記官役の菊池孝典がほぼ担当。当の山下大将は、クドすぎる登場シーンもなく、ほぼ客室から動かずに謎を解明してしまう。しかも、ポツンと微動だにせず座っている山下大将に、映画を観賞しているうちに、まるでマスコットキャラのような可愛らしさを感じるという錯覚に陥る。史実の山下大将はシンガポール戦で、英国軍のパーシバル中将に、「イエスかノーか」と降伏を迫るなど、勇ましい姿で有名だが、実際は穏やかな性格の将軍だったらしく、案外こんな感じだったのではと思ってしまうほどだ。そんな水野氏の、何とも言えない存在感に、中盤を過ぎると多くの人が水野氏の棒読みセリフを期待するようになってしまうだろう。 その他にも、車掌が殺害されたのに止まらない列車、登場人物を殺しすぎてもはやサスペンスとして成立していない、車内セットの質感はそれなりにいいのに、全く動いている感じのしない列車などなど、酷い部分をあげればキリがない。しかし、それでも不思議と観続けてしまう。この魔力はなんだろうか…。もうこれは水野氏の映画愛と、この作品に込めた、ひとつの強烈なメッセージの力というしかない。 映画愛については、前記したヒッチコックや、市川崑監督などの映画を、とにかくよく見て作っているというのが伝わってくるので、わかりやすいとは思う。拙い演出は多々あるが、それでもちゃんと、偉大な先輩たちを参考に面白くしようという気概が作品から伝わってくる。変な方向に「我」を出していないのだ。感想文のような表現になってしまうが、水野氏はとにかく本当に、映画を観るのが大好きだったのだと思う。その強い念のようなものに、鑑賞者もひきつけられてしまう。 さて残ったメッセージについてだが、最後に用意されている2回の「ドンデン返し」がそれに当たる。それこそ、水野氏が本作の監督だけではなく、原作・脚本さらに楽曲の作詞まで手がけた理由なのだろう。08年に亡くなっている水野氏のいいつけを守り、ネタバレは避けるが、掟破りすぎて良い方向か、悪い方向かはわからないが、とにかく、「えええええええ!?」と困惑すること間違いなしだ。全てを観終わった後、おそらくこの映画のジャンルがサスペンスではなかったことに気づくだろう。DVDでは、本編前と後に、水野氏が自分の映画を解説した映像が入るのだが、その解説中に、「シックス・センスのオチにシベリア超特急を観ていたのでビックリしなかった」という意見をファンからもらったという話をしている、ある意味その通りだと思う。とにかくこの映画、ダメさも含めて一見の価値はある、そんじょそこらのクソ映画、駄作映画とは格が違うぞ。(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)
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