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【不朽の名作】「北京原人」は弘法も筆の誤りだった!? 同監督&同脚本による貴重作「空海」

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 今年の5月、弘法大師・空海による開創から1200年を記念する大法会が開かれている高野山で、天台宗総本山の比叡山延暦寺による初の法会が営まれた。真言宗の開祖・空海と、天台宗開祖の最澄は同時代の人物で日本の仏教界に留まらず、国内の歴史に大きな影響を与えた。当時はこの2人の交流も何度もあったが、とあるひとつ(場合よって2つ)の事件をきっかけに、以来1200年もの長い間、両宗派は疎遠になっていた。その時代の様子を描いた映画が今回紹介する1984年公開の『空海』だ。

 この作品の監督は佐藤純彌氏、脚本は早坂暁氏となっている。この組み合わせで気づく人もいるかも知れないが、あの邦画史上でも一二を争う“迷作”『北京原人 Who are you?』を手掛けたふたりだ。その時点で観ることを躊躇してしまうかもしれないが、ちょっとまって欲しい。それこそ北京原人は「弘法にも筆の誤り」のようなもので、このお二方は、邦画でも評価の高い作品数々を世に送り出している。今回の作品もかなり見どころは多いので安心して欲しい。

 まずこの作品は全真言宗青年連盟が企画に協力しているので、かなり仏教色というより密教色が強めになっているのだが、「時代劇」として見た場合、空海の生きた時代である平安時代初期という、映像作品ではなかなか扱わない時代を描写している面でかなり貴重だ。しかも、この作品では空海の生涯だけではなく、同時代に発生した「平安京遷都」や「薬子の変」なども扱っている。ストーリー展開は、いい意味で教科書のような内容となっており、平安時代初期の朝廷や貴族と仏教の関係性がわかりやすく描写されている。登場人物も空海をメインとして、最澄、桓武天皇、平城天皇、嵯峨天皇、橘逸勢、藤原薬子など、当時の時代の中心にいた人物を登場させている。さらに、チョイ役ではあるが坂上田村麻呂や高岳親王も登場する。

 空海を演じるのは北大路欣也。当時40代の北大路のエネルギッシュな演技が、おそらく天才肌であったであろう空海のらしさを引き出している。しかし、空海が自分の運命を試す為に崖から飛び降りるシーンは子役でやった方が良かったかもしれない。たしかあの逸話は空海がまだ幼名の真魚(まお)の時の出来事だったような気がするのだが。同時代の仏教界で、もうひとりの中心人物だった最澄を演じるのは加藤剛。こちらも、長く朝廷に近い場所にいた、生真面目な秀才という雰囲気を良く出している演技となっている。他に橘逸勢を演じる石橋蓮司や、薬子演じる小川真由美なども、いい意味で目立つキャラとなっている。

 題材が空海なので、演出上、若干超人めいたシーンもあるにはあるのだが、それでも度が過ぎる程にぶっ飛んではいないので、観賞者置いてけぼりの展開にはならない。だが、序盤にこの超人的な描写は集中しており、空海が唐に渡るまでは、スピリチュアル感強めで「この作品はダメなやつかも」と思う可能性はある。しかし、そこを耐えれば、空海が得体のしれない超人から、歴史上の偉人的な扱いとなるので、スピリチュアル展開が苦手でも、ストーリーに引き込まれることだろう。欲を言えば、空海の天才性が最も発揮されたであろう、唐での留学中のシーンがもっと欲しかった気もする。

 密教という、かなりわかりづらいテーマが作品の重要な要素になっているが、その部分も程よく解説という感じで、かなり絶妙なバランスを維持しており、仏教や密教に興味のない人でもすんなり観ることが出来る作品になっている。ただ、わかりやすくした影響で、密教の細かい部分までは解説していないので、密教を深く知りたいという人には不向きだとは思う。そいう人は専門書を読むか、司馬遼太郎著の『空海の風景』を読むことをオススメする。

 また本作で注目なのが、劇中での最澄の扱いだ。最澄は自身の宗派で不完全だった密教の部分を、空海に教えを乞うた史実があることで、歴史番組や創作物だと空海の若干劣った役回りを与えられることが多い。しかしこの作品では旧都平城京で肥大化し、権力だけを求める旧来の仏教勢力と戦う最澄の姿が描かれており、空海の元での密教の修行を途中で中断する際も、京の鬼門に置かれた比叡山延暦寺の責任者としての仕事があることが明確に描写されており、扱いはかなり良い。前記した両者というか、長きに渡り両宗派が疎遠になる原因となった「理趣釈経」を空海が借用拒否した一件でも、経典が借用出来ない理由を聞き、人を導く教えが空海の「密教」と、最澄の「法華一乗」とは大きく違うことを一応納得した様子で袂を分かっている。もうひとつ、両宗派が疎遠になった原因とされている、愛弟子・泰範が空海の弟子になってしまった一件に関しては、ただ怒っている印象は受けたが、まあそこは本当に怒っていたかもしれないし、作品の尺の都合もあるので詳細な描写がなくても仕方ない部分かとは思う。

 はっきり言うと、別段空海に興味がなくてもこの作品は楽しめるようになっていると思う。前記したように、空海が生きた平安初期というのは、需要がないのか、殆ど映像作品になっていない。そういったこともあり、空海を中心にしてその時代の流れを知ることができる本作は、特に歴史好きの人には楽しいもののはずだ。

(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載) 

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