当初、その戦いの主導権を握っていたのはセガ陣営。アーケードで絶大な人気を誇っていた『バーチャファイター2』の完全移植を実現するなど、32bit機の実力をいかんなく発揮。PSよりも半年早く100万台を突破してみせ、ついにセガの時代が到来したかと本気で思わせるほどの見事な戦いぶりであった。ところが、PSに国民的RPG『ファイナルファンタジー』のシリーズ最新作が登場することが発表されたことで、SSの勢いは失速。一方、『FF7』は早くから開発中のゲーム映像や現場の作業シーンをCMに使うなど、ソフトはもちろん、ハード自体も猛アピール。こうした戦略によりPSの販売台数は急激に伸びていった。そういった状況下で発表されたのが、今回紹介する『グランディア』。言うなればFF7の対抗馬に当たる。
開発元のゲームアーツは古くからPC向けのゲームソフトを手掛け、こと開発力に関しては定評のあるメーカーであった。1990年からはコンシューマー向けソフトの発売も開始し、以降はセガ陣営の有力なサードパーティの一つとなる。特にメガCDで発売した『LUNAR』シリーズは、オーソドックスなRPGながらも、良質なストーリーで多くのファンを獲得。そのゲームアーツが手掛ける大作RPG、しかも完全新作ということで、FF7同様に発売前から大きな話題となった。加えて、3Dと2Dが融合した斬新なフィールドもゲームファンのド肝を抜くことになる。背景は3Dポリゴンで描写されているがキャラはドット絵。一方、グランディアよりも先に発表されたFF7は背景の美しさこそ当時のあらゆるゲームソフトの中でも群を抜いていたものの、基本的にカメラは固定され、従来のRPGの延長といったシステムを採用していた。ちなみにプレイステーションで発売された『ゼノギアス』にも同様の技術が用いられているが、それを先んじて実践してみせたのは『グランディア』である。
さて、本作を語る上で絶対に外せないのが、他のRPGとは一線を画す戦闘システムであろう。コマンド選択方式だが、行動順は画面下部のIP(イニシアチブ・ポイント)ゲージで管理されており、このゲージがCOMに到達したキャラはコマンド入力を行え、ACTまで達したら選択したコマンドが実行される仕組みとなっている。なお、コンボ攻撃(一般的なRPGでいうところの通常攻撃に該当)をヒットさせると敵のIPゲージの上昇が一時停止。一方、ゲージの値が右端ギリギリまで来た時に一撃必殺のクリティカル攻撃を行った場合、攻撃対象キャラの行動をキャンセルすることができる。その他にも本作の戦闘には様々な仕掛けが用意されており、スリリングかつ高度な戦略性を求められる、非常に画期的なシステムを誇っていた。余談だが、通常戦闘曲はある重要なシーンを境に変化するのだが、この粋な演出に燃えた方も多いのではないだろうか。
本作を語る上でもう一つ忘れてはならないのが、その壮大なストーリーだ。ある古代遺跡を訪れたジャスティンは冒険に憧れる元気いっぱいの少年。その遺跡には、ここを調査している軍でさえも開け方が分からないという謎の扉があった。しかし、ジャスティンが扉の前にやってきたその瞬間、いつも持ち歩いている精霊石が強く輝き始め、まるで彼を導くかのように静かに扉が開く。そしてその奥には、リエーテと名乗る謎の少女と超古代文明エンジュールの姿が…。父の形見である精霊石が本物であること、そして今まで神話の話とされてきたエンジュールが本当に存在することを確信したジャスティンは、旅立ちを決意するのであった。
冒険の最中、ジャスティンには様々な試練が振りかかるが、信頼できる仲間たちとともに、それを一つずつ乗り越えていく。そして少年は少しずつ大人になって…。やり込み要素には乏しい本作だが、それでも何年かに一度、ふとジャスティンやその仲間たちと、また冒険の旅に出かけたくなるのだ。「忘れられない冒険になる」。本作にピッタリの名キャッチフレーズである。
SSのRPGとしては大ヒットといっていいほどの売り上げを記録した本作だが、発売時点ですでにPSの勢いが最高潮に達していたこともあり、残念ながらFF7には遠く及ばずという結果に終わってしまった。その後、本作はPSに移植され、現在はゲームアーカイブスにもなっている。これほどの名作を安価に、そしていつでも楽しめるのは本当にありがたい。ただ、ちょっと皮肉な話ではある。
(ゲイム脳@内田=隔週月曜日に掲載)
■DATA
発売日…1997年
メーカー…ゲームアーツ
ハード…セガサターン
ジャンル…RPG
(C)1997 GAME ARTS/ESP