「マイコプラズマ肺炎は、細菌の持つ細胞壁(植物細胞や細菌の最外側にある丈夫な被膜)を持たないため、ペニシリン、セフェム系などの抗生物質のように、細胞壁を破壊することによって治療効果を得る抗生物質はまったく効きません。また、くしゃみや咳などの飛沫感染などによって感染するため、家族の一人が感染すると、全員に感染することがよくあります。ところが、熱もそれほど高くないうえ、肺炎にしては元気なので、非定型肺炎ともいわれます。そのため、普通の風邪と誤診されるケースが少なくありません」(井上理事長)
都内に住む会社員のAさん(30)の場合を例にとろう。今年に入ってすぐのこと。風邪っぽいので、医師に普通の風邪薬を処方してもらって服用したが、まったく効き目がなかった。
最初のうちは、軽い頭痛がしたものの、熱も37度5分とそれほど高くはない。しかし、クスリを飲んでも症状は変わらず、だらだら続いたという。
「おかしいなあ…」
それどころか、3日後には38度5分の発熱があり、喘息みたいな咳まで出て、呼吸もできないほどだった。その状態を見て、妻があわてて救急車を呼び緊急入院することになった。
診断の結果、Aさんはマイコプラズマ肺炎だった。
別の患者の場合、風邪なのに熱もそれほどではなく、元気だったため、自宅で市販のクスリを服用して静養していた。ところが、どうも耳が聴こえにくい。診察の結果、マイコプラズマ肺炎で中耳炎を併発してしまったというのだ。
「怖いのは、放置していたため中耳炎、髄膜炎、心筋炎、ギランバレー症候群などの疾患を併発することです。感染後多発神経炎であるギランバレー症候群は、筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢が自由に動かなくなる疾患。患者さんによっては言葉がしゃべりづらくなったり、まっすぐ歩行ができなくなるケースもあります。いずれにしても、家族の中に感染者が出たら、よく手洗いをして、コップ、タオルを別々にすること。家の中でもマスクをかけるなどの予防をし、早めに医療機関を受診することが必要です」(井上理事長)
完治までの2〜3週間は、抗生剤の服用が必要だ。
大人の場合、はっきりとした自覚症状がないため、完治するまで子供より長引くこともあるという。重大な疾患を併発するので油断は大敵である。
流行は春まで続く。今冬は例年にないほど雪が多く、春は遅いとの予報があった。くれぐれもご用心を!