新日本
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スポーツ 2016年09月19日 16時00分
プロレス解体新書 ROUND18 〈ライバル闘争の裏事情〉 長州力vs藤波辰巳“名勝負数え歌”
新日本プロレスで中堅の座に甘んじていた長州力が、スター街道を走る藤波辰巳(現・辰爾)に牙をむいた下剋上。パワーの長州と技の藤波、異なる個性が絡み合う両者の対戦は、さまざまなドラマを内包した“名勝負数え歌”として、黄金期の新日マットを彩った。 かの有名な“噛ませ犬発言”の印象もあって、ブレイク前の長州力は何か冷や飯を食わされていたと記憶するファンもいるようだが、事実は異なっている。 そもそも長州は、日本レスリング界の父・八田一朗の肝入りで新日入りした超有望株。同じミュンヘン五輪に出場した全日本プロレスのジャンボ鶴田の向こうを張って、次期エース候補と見る向きは強かった。 デビュー戦からオリジナル技のサソリ固めをフィニッシャーに使い、リングネームも一応は一般公募としながらも、会社側が力道山から一文字をとった「力」の名をあらかじめ用意していたという、まさに破格のデビューだった。 テレビ中継への登場回数も多く、これには同世代の藤波辰巳や木村健悟が嫉妬したとの話もあるほど。ちなみに藤波は長州よりも二つ年下だが、デビューは3年も早い先輩である。その立場が逆転するのは1978年1月23日、藤波が米ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンでWWWFジュニアヘビー級王座を奪取し、ドラゴンブームが起こってからだった。 一方の長州もNWA北米タッグ選手権を戴冠したが、これはあくまでも坂口征二が主体のもの。 「爽やかなルックスで女性ファンをつかんだ藤波に対し、パンチパーマにずんぐりとした体形の長州は見栄えで劣り、人気面ですっかり水を開けられてしまった」(プロレス記者) '78年から始まったMSGリーグ戦でも藤波は猪木、坂口に次ぐ日本人3位が指定席であったのに比べ、長州は下位低迷するばかり。五輪代表の経歴から強さで勝負しようにも、その五輪が韓国代表としての出場とあっては、日本のファンにアピールしづらいという側面もあった。 藤波がWWF王者のボブ・バックランドやハルク・ホーガンらのトップどころと好勝負を繰り広げて、ヘビー級転身へのキャリアアップを順調に進める中、長州は初来日のローラン・ボックにわずか3分で敗れるなど、中堅レスラーの座に甘んじていた。 '82年のメキシコ遠征も選手としての格上げが目的ではなく、国際運転免許を取るためというリング外の理由によるもの。この時、長州は“このままくすぶっているぐらいなら…”と思いつめ、ついには日本へ引退の意思を伝えるまでに至ったという。 しかし、このSOSが転機となる。 「会社としては、エース候補として入団させた長州をこのまま腐らせるわけにはいかない。そこで持ち上がったのが、藤波との日本人対決だったのです」(同) 藤波も長州もヘビー級としては体が小さく、無理に大型選手と戦わせるより良策との判断だったが、この読みがズバリ当たる。 '82年10月8日、後楽園ホールのシリーズ開幕戦で長州の造反劇が始まり、22日の広島で最初のシングル対決を迎えると、互いに感情むき出しの好勝負を展開。結果はノーコンテストではあったが、ジュニア仕込みのスピードと切れのいいパワーファイトという互いの異なる個性が絶妙に噛み合い、これまでにないハイスパート・レスリングを生み出した。 両者の闘いは回を重ねるたびに練度が上がり、いつしか“名勝負数え歌”とまで呼ばれるまでになった。そんな闘い模様の最初のクライマックスは、'83年4月3日、蔵前国技館において長州が藤波からWWFインターナショナル王座を奪取し、「俺の人生にだって一度ぐらい幸せなことがあってもいいじゃないか」とつぶやいた場面になろうか。 くすぶりから一念発起した長州が、スター街道をひた走る藤波を倒したことは、プロレス史に残る下剋上として、多くのファンの支持を受けた。 実際には、エリートの長州が叩き上げの藤波を倒して、元の位置に戻ったに過ぎなかったのだが、これによって遅まきながら長州人気が爆発する。 抗争の第2章は、同年夏、藤波のリベンジだった。先の敗戦後に、藤波は失意の海外遠征を経て帰国。第1回IWGP決勝で失神敗退した猪木が欠場するシリーズで、エースの座を任された藤波だが、それはあくまでも仮の措置というのが大方の認識であり、一方の長州はすでに革命軍(のちに維新軍)として確固たる地位を築きつつあった。 そんな中での7月7日、大阪府立体育館の対戦で、藤波は長州にサソリ固めを仕掛けた。実況の古舘伊知郎が絶叫した“掟破りの逆サソリ”だった。ロープブレークを無視して技をかけ続け、反則負けにはなったものの藤波の“団体を守るためのなりふり構わぬ姿”は、ファンに好感をもって受け入れられた。 続く8月4日、蔵前国技館の対戦では、リングアウトながら藤波が勝利してタイトルを奪還。これまで長州コール一色だった客席からは、徐々に藤波コールも復活し始めた。 珠玉のライバル闘争にファンの期待は高まる一方であったが、それから半年後の'84年2月3日、札幌中島体育センターにおいて藤原喜明が長州を襲撃する“テロ事件”が勃発。さらには長州が全日移籍となり、両者の抗争はファンの望まぬ形でいったん終止符を打つことになった。
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スポーツ 2016年09月18日 12時00分
IC挑戦! 内藤哲也の反撃が始まるか? オカダvs丸藤が前哨戦! 【新日本9・25神戸ワールド大会展望】
新日本プロレス秋のビッグマッチ第3弾は、9月25日に神戸ワールド記念ホールにて開催される。メインでは内藤哲也が、マイケル・エルガンが持つIWGPインターコンチネンタル王座(IC王座)に挑戦する興味深いカードが組まれた。9・25神戸ワールド大会の展望を書いてみたい。『DESTRUCTION in KOBE』9月25日(日)神戸ワールド記念ホール(16時開始)▼全対戦カード(1)6人タッグマッチ 20分1本勝負デビッド・フィンレー&ヘナーレ&金光輝明 対 ウィル・オスプレイ&ロッキー・ロメロ&パレッタ(2)タッグマッチ 20分1本勝負ヨシタツ&キャプテン・ニュージャパン 対 高橋裕二郎&チェーズ・オーエンズ(3)6人タッグマッチ 20分1本勝負真壁刀義&本間朋晃&田口隆祐 対 天山広吉&中西学&タイガーマスク(4)スペシャルタッグマッチ 30分1本勝負柴田勝頼&永田裕志 対 カイル・オライリー&ボビー・フィッシュ(5)NEVER無差別級6人タッグ選手権試合 60分1本勝負<王者組>小島聡&リコシェ&マット・サイダル 対 アダム・コール&マット・ジャクソン&ニック・ジャクソン<挑戦者組>(6)スペシャル8人タッグマッチ 30分1本勝負後藤洋央紀&石井智宏&ジェイ・ブリスコ&マーク・ブリスコ 対 ケニー・オメガ&バッドラック・ファレ&タマ・トンガ&タンガ・ロア(7)スペシャル6人タッグマッチ 30分1本勝負棚橋弘至&ジュース・ロビンソン&KUSHIDA 対 SANADA&EVIL&BUSHI(8)スペシャル8人タッグマッチ 30分1本勝負オカダ・カズチカ&YOSHI-HASHI&邪道&外道 対 丸藤正道&矢野通&原田大輔&小峠篤司(9)IWGPインターコンチネンタル選手権試合 60分1本勝負<王者>マイケル・エルガン 対 内藤哲也<挑戦者> まず、注目は第5試合のNEVER無差別級6人タッグ選手権。両チームともにヘビー級の選手とジュニアヘビー級のタッグチームによるトリオ編成になっており、無差別級の魅力を最大限に発揮した試合になりそうだ。ROH世界王者(18日現在)のアダム・コールが新日本のベルトに絡んで来るのも注目である。王者組の小島聡は、同王座を獲得したのを機に、天山広吉に『G1クライマックス26』出場を譲渡するなど、このベルトに対する愛着は思いのほか深いだけに、タイトル流出は避けたいところだろう。 第6試合のCHAOSとバレットクラブの8人タッグマッチは、G1決勝以来となる後藤洋央紀とケニー・オメガの絡みが注目される。後藤は今シリーズ好調をキープしており、22日の広島大会で、同門のYOSHI-HASHIがケニーに敗れるようなことがあれば、ケニーとの再戦へ向けて走りだす可能性は充分に考えられる。後藤の年明けを左右するような8人タッグマッチになるかもしれない。 第7試合では、今シリーズ連日行われている新日本本隊とロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(L・I・J)による6人タッグマッチ。棚橋弘至とSANADAの行方も気になるところだが、12日の後楽園ホール大会でEVILとシングルで対戦し、敗れはしたものの一気に株を上げた、ジュース・ロビンソンに期待したい。最近のロビンソンの成長は目覚ましいものがある。神戸の大舞台でも存在感を大いに発揮してもらいたい。 セミファイナルでは、10月10日の両国国技館大会でIWGPヘビー級選手権が決定している、オカダ・カズチカと丸藤正道による前哨戦が行われる。オカダはG1公式戦の初戦、7・18札幌大会で丸藤に敗れているだけに、前哨戦は優位に立っておきたいところ。ただ、CHAOSはノア本隊と友好関係を築いており、現在、CHAOSの矢野通が丸藤をパートナーにGHCタッグ王座を保持している。そのため、前哨戦では矢野もノア側についてCHAOSとは対峙することに。CHAOSきっての頭脳派である矢野の存在はオカダを悩ませるかもしれない。 メインイベントは、マイケル・エルガンに内藤哲也が挑戦するIWGPインターコンチネンタル選手権。12日の後楽園大会で内藤は「あくまでも最上級のベルトはIWGPヘビー級王座」とした上で、「(IC王座が)俺のもとに来たいというのなら、来ればいい。ブン投げてやるから」と内藤流のコメントを残している。しかし、内藤がG1でエルガンから勝利を収めたとはいえ、この後楽園大会での前哨戦でも内藤が何度か表情を歪めるなど、エルガンの底知れぬパワーに手を焼くのは間違いない。L・I・Jならではの頭脳プレーでエルガンを撹乱しながら勝機を見出していくのか? それとも正攻法で崩して行くのか。内藤が常々口にしている来年の1・4東京ドーム大会で“ファン投票”によるメインイベント出場を果たすには、IC王座の獲得が一番早い。なぜなら2年前のファン投票ではIC王座戦にメインの座を奪われたからだ。だが、今シリーズはエルガンの好調さが目立っているだけに、L・I・Jを結成してからの集大成を内藤は見せないと勝利は難しいのではないだろうか。1・4ドーム大会のメインを左右する重要な一戦になりそうな予感がする。(どら増田)<新日Times VOL.35>
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スポーツ 2016年09月11日 12時00分
G1覇者ケニーが本格始動!ブリスコ兄弟とヤングバックスが兄弟対決!【新日本9.22広島大会展望】
新日本プロレス秋のビッグマッチ第2弾は、9月22日に広島サンプラザホールで開催される。すべての結果は来年の1.4東京ドームへと続いていく。今回は広島大会を展望したい。『DESTRUCTION in HIROSHIMA』9月22日(木・祝)広島サンプラザホール 17時開始▼全対戦カード(1)8人タッグマッチ 20分1本勝負真壁刀義&本間朋晃&ヨシタツ&キャプテン・ニュージャパン 対 天山広吉&小島聡&リコシェ&マット・サイダル(2)8人タッグマッチ 20分1本勝負柴田勝頼&永田裕志&中西学&タイガーマスク 対 カイル・オライリー&ボビー・フィッシュ&田口隆祐&デビッド・フィンレー(3)タッグマッチ 20分1本勝負ロッキー・ロメロ&バレッタ 対 タマ・トンガ&タンガ・ロア(4)タッグマッチ 20分1本勝負後藤洋央紀&石井智宏 対 高橋裕二郎&チェーズ・オーエンズ(5)8人タッグマッチ 20分1本勝負マイケル・エルガン&棚橋弘至&ジュース・ロビンソン&KUSHIDA 対 内藤哲也&SANADA&EVIL&BUSHI(6)IWGPタッグ選手権試合 60分1本勝負<第71代王者組>ジェイ・ブリスコ&マーク・ブリスコ 対 マット・ジャクソン&ニック・ジャクソン<挑戦者組>※第71代王者組2度目の防衛戦(7)ROH世界選手権試合 30分1本勝負<王者>アダム・コール 対 ウィル・オスプレイ<挑戦者>(8)スペシャルシングルマッチ 30分1本勝負オカダ・カズチカ 対 バッドラック・ファレ(9)2017年1月4日東京ドーム大会・IWGPヘビー級王座挑戦権利証争奪戦 60分1本勝負<権利証保持者>ケニー・オメガ 対 YOSHI-HASHI<挑戦者> 第1試合から、真壁、本間、ヨシタツにキャプテンを加えた4人が、小島&リコシェ&サイダルのNEVER無差別級6人タッグ王者組に天山を加えたチームと対戦する豪華なカードが実現。今後、真壁&本間がヨシタツを加えたトリオで6人タッグ王座に挑戦するのも面白いかもしれない。そんな可能性も秘めているオープニングマッチだ。 第2試合では9.17大田区大会で、NEVER無差別級のベルトをかけて対戦する柴田とフィッシュが再び激突する。柴田は先月のROH遠征でフィッシュだけではなく、オライリーにも敗れており、大田区大会の結果次第では新たな遺恨が生まれているかもしれない。対ノアでも結束を固めている永田&中西とのタッグにも注目だ。 第3試合ではジュニアのタッグ戦線を賑わせている六本木ヴァイスが、前IWGPタッグ王座チーム、G.O.Dと対戦。六本木ヴァイスは、この日、ジュニアとヘビーの枠を超えてIWGPタッグ王座に挑戦するヤングバックスをライバル視しており、この試合に勝って自分たちもヘビー級のベルトに挑戦したいと思っていても不思議ではない。一方、G.O.Dはこの試合を圧勝してブリスコ兄弟にリベンジしたいところだろう。 第4試合もIWGPタッグ王座を狙っている裕二郎&オーエンズが登場。CHAOSの中軸である後藤&石井と対戦する。今年のG1では準優勝にまで駒を進めた後藤だが、G1後にはこれといってチャンスが与えられていない。ただ今シリーズの後藤は絶好調。「いまはプロレスが楽しくて仕方がない」という。またG1で結果を残せなかった石井も中邑真輔が退団後、正式なパートナーがいないこともあり、なかなか闘いの中心に入り難い状況にあることから、この二人が正式にタッグを結成し、IWGPタッグ戦線に入り込んでいったら面白いのではないだろうか。この試合の結果如何では化学反応を起こすかもしれない。 第5試合は、9.25神戸大会でのIWGPインターコンチネンタル戦を控える、エルガンと内藤の前哨戦。9.17大田区大会でIWGPジュニア戦を行うKUSHIDAとBUSHIも再び顔を合わせることになる。また連日対戦している棚橋とSANADAの絡みは、次期シリーズにつながる可能性があるだけに見逃せない。 第6試合ではアメリカではドル箱カードと呼ばれているカードが新日本マットで実現。IWGPジュニアタッグ王者チームが、IWGPタッグ王座に挑戦するのは初めてだが、ヤングバックスはアメリカでは体重差を全く感じさせない試合で、いろんなタッグタイトルを獲得しているだけに、史上初のIWGPタッグベルト二冠王も夢ではない。しかし、ブリスコ兄弟はここ数年のIWGPタッグ王者チームの中で最も強いのではないかという呼び声も高く、かなりハイレベルな試合が見られるのは間違いなさそうだ。 第7試合ではこちらもジュニアのウィル・オスプレイが、アダム・コールが保持するROH世界王座に挑戦する。コールは先月ROHブルックリン大会で、前王者のジェイ・リーサル、棚橋、内藤と4WAYによるタイトル戦を行い防衛に成功している。オスプレイも11月にROHイギリス遠征への参加が決定しているだけに、大きな手土産を持って帰りたいところ。どんな試合になるのか予測不能なカードである。 セミファイナルは、IWGPヘビー級王者オカダが、G1で敗れたファレとノンタイトルで対戦。もしオカダがまた敗れるようなことがあれば、今後の防衛ロードも修正を余儀なくされることになるのは確実で、1.4ドーム大会のメイン出場へ暗雲が立ちこめることになるため、きっちりとリベンジを果たして、メインの盟友YOSHI-HASHIにつなぎたい。 メインイベントは、『G1クライマックス26』の覇者ケニーが、来年の1.4ドームでIWGPヘビー級王者に挑戦できる挑戦権利証をかけて、G1で敗れたYOSHI-HASHIの挑戦を受ける。YOSHI-HASHIは2011年の1.4ドーム大会でオカダとダブル凱旋試合と銘打ってシングル対決を行ったが、会場が全く沸かず、お互いに消化不良に終わった苦い想い出がある。それはオカダも同じ思いのようで、9.6栃木大会の試合後に、「このベルトをかけて、ドームでYOSHI-HASHIさんと試合をする」とマイクアピールをしている。YOSHI-HASHIにとって新日本マットでシングルのメインに立つのは今回が初めて。しかもビッグマッチでの抜擢と期待度は高い。しかし、命を削るような闘いでG1を制したケニーにとっても、新しい時代の構築に向けて、本格始動するこの試合を落とすわけにはいかない。そんなケニーをYOSHI-HASHIが連勝したら、これは本物だ。ケニーが同じ過ちを犯すとは考え難いが…。(どら増田)新日Times VOL.34
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スポーツ 2016年09月05日 16時00分
プロレス解体新書 ROUND16 〈“BI砲”奇跡の復活〉 プロレス夢のオールスター戦
プロレス界最大のライバル関係にあったジャイアント馬場とアントニオ猪木が、長年の確執を乗り越えて同じリングに立つ。1979年8月26日に開催されたプロレス夢のオールスター戦。その歴史的な一戦はファンを熱狂の渦に巻き込んだ。 例えば時代劇で、いくら殺陣のうまい役者が出演したところで、それで作品がヒットするわけではなく、やはり主演俳優の知名度やストーリーの面白さが重要となる。プロレスにおいても同様であろう。 ただ単に強い、技術が高いというだけでは、オリンピックのような競技としては成立しても、長期にわたってファンを熱狂させるドラマとは成り得ない。その点でいえば昭和の時代、全日本プロレスと新日本プロレス両団体によるライバル物語は、まさに“超ヒット作”であった。 日本プロレス時代に端を発した馬場と猪木の確執…エリート街道を歩む馬場に対する猪木の嫉妬心から始まったとされる遺恨は、両者が独立してからも継続し、ファン感情を大いに煽り立てることとなった。 「猪木による馬場への挑発ばかりが目立ったが、馬場も決してそれに甘んじていたわけではない。むしろ、裏では馬場のほうがガチンコだった」(全日関係者) 馬場が海外人脈をフル活用して、新日の外国人招聘ルートを遮断したのは知られたところだが、さらに直接的な“猪木潰し”も画策されていた。 「'75年に全日の開催したオープン選手権がその舞台になるハズでした。力道山の十三回忌追善を名目に、猪木にも参加を要請。先に新日の興行日程が組まれていたため実現はしなかったが、もし猪木が“馬場との対戦”に釣られて強行出場していたならば、その後の猪木の活躍はなかったかもしれない」(同) 総当たり戦ではなく実行委員会によるマッチメークで相手が決まるという、リーグ戦としてはやや特殊な形態で行われたこの大会、大相撲の取組と同じといえばそうなのだが、これには裏の意図が隠されていた。 「もし猪木が参加となったときには、ホースト・ホフマンやパット・オコーナー、ディック・マードックらの“セメント(真剣勝負)で強い”選手を次々と当てて、馬場との対戦の前に壊してしまうつもりだった」(同) 馬場としても、悪意に満ちた誹謗中傷や無法な対戦要求を仕掛ける猪木に、業を煮やしてのこと。互いにプライドと生き残りを懸け、引くに引けない状況にまでなっていたのである。 そんな暗闘が続く中で行われたのが、'79年8月26日の『プロレス夢のオールスター戦』であった。 本気でいがみ合ってきた馬場と猪木が同じリングに上がるという“事件”は、まさに全日vs新日の大河ドラマにおけるクライマックスとなった。 「東京スポーツの創刊20周年記念として企画されたこの大会は、東スポにしかできないものでした」(スポーツ紙記者) 朝刊各紙がプロレス報道を減らし、また専門誌も月ごとの発行だった当時、大々的にこれを取り扱う東スポは、団体にとって現在進行中のストーリーをファンに知らせる“営業ツール”であり、興行の成否を決める最も重要な媒体だった。 「そんな東スポでも実現できなかったのが、ファンの一番の望みである馬場と猪木の直接対決でした。そもそも馬場は当初、猪木と同時にリングに上がることすら拒絶していたそうで、それでもなんとかBI砲(馬場と猪木のタッグチーム)復活にこぎつけたのは、東スポ主催だったからこそでしょう」(同) 対戦相手は、ファン投票で選ばれたアブドーラ・ザ・ブッチャー&タイガー・ジェット・シン。両団体のトップヒール(悪役)コンビに決まる。 「実際の投票1位はテリー&ドリーのザ・ファンクスだったともいわれ、これは日プロ時代のBI砲ラストマッチで敗戦を喫した相手へのリベンジの意味もあったが、全日側の拒否によって流れたようです。BI砲とファンクスのベビーフェイス対決では、誰に勝敗をつけるかの問題があったのでしょう」(同) 馬場と猪木の決着戦というファンの第一希望からは大きく後退したが、それでも試合当日、会場の日本武道館は観衆1万7000人の超満員。さらに入り切れなかった多くのファンが「せめて場内から漏れてくる音だけでも聞きたい」と、会場を取り囲んだ。 また、馬場と猪木も、それぞれ望んだ形の試合でなかったにもかかわらず、観衆の注目に応えるべく近年にない良好なコンディションで試合に臨んだのは、さすが一流の証しであろう。馬場の十六文は相手の頭を越えるほどに高く上がり、猪木もブッチャーの巨体をブレーンバスターで投げ飛ばしてみせた。 最大の見せ場であるBI連携のアームブリーカーも無難にこなし、両雄は存分に持ち味を発揮。猪木がシンを逆さ押さえ込みで下したフィニッシュは、やや唐突な印象もあったが、それでもファンの歓声が止むことはなかった。 ただし、これは試合内容への賛辞だけではなく、「この先に馬場vs猪木がある」との期待もあってのこと。しかし、2人のドラマはついに未完のまま終わってしまったのだった。
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スポーツ 2016年09月04日 12時00分
絶対王者KUSHIDAを止めるのは誰だ? BUSHIが再挑戦! 【新日本9・17大田区大会展望】
新日本プロレスは9月〜10月大会の対戦カードを発表した。 昨年は9月に岡山と神戸、10月に両国で開催した秋のビッグマッチだが、今年は、9・17大田区総合体育館、9・22広島サンプラザ、9・25神戸ワールド記念ホール、そして10・10両国国技館で行われる。9月にビッグマッチを3大会も行えるところに今年の新日本の勢いと、攻めていく姿勢が感じられる。 今回は「DESTRUCTION in TOKYO」9・17大田区総合体育館大会の展望を書いてみたい。「DESTRUCTION in TOKYO」9月17日(土)大田区総合体育館 18時開始(1)タッグマッチ 20分1本勝負デビッド・フィンレー&ヘナーレ 対 ロッキー・ロメロ&バレッタ(2)タッグマッチ 20分1本勝負永田裕志&中西学 対 ヨシタツ&キャプテン・ニュージャパン(3)6人タッグマッチ 20分1本勝負真壁刀義&本間朋晃&タイガーマスク 対 天山広吉&小島聡&獣神サンダーライガー(4)6人タッグマッチ 20分1本勝負後藤洋央紀&石井智宏&外道 対 タマ・トンガ&タンガ・ロア&チェーズ・オーエンズ(5)シングルマッチ 20分1本勝負ジュース・ロビンソン 対 カイル・オライリー(6)スペシャル6人タッグマッチ 30分1本勝負オカダ・カズチカ&YOSHI-HASHI&ウィル・オスプレイ 対 ケニー・オメガ&バッドラック・ファレ&高橋裕二郎(7)スペシャル6人タッグマッチ 30分1本勝負マイケル・エルガン&棚橋弘至&田口隆祐 対 内藤哲也&SANADA&EVIL(8)NEVER無差別級選手権試合 60分1本勝負<王者>柴田勝頼 対 ボビー・フィッシュ<挑戦者>※2度目の防衛戦(9)IWGPジュニアヘビー級選手権試合 60分1本勝負<王者>KUSHIDA 対 BUSHI<挑戦者>※6度目の防衛戦 第6試合のCHAOSとバレットクラブによる6人タッグマッチは、9・22広島大会でシングル対決が決まっているオカダとファレ、YOSHI-HASHIとケニーのダブル前哨戦。オカダはG1でファレに恥をかかされており、前哨戦を優位に進めて当日を迎えたいところ。またケニーが持つ2017年1月4日東京ドーム大会IWGPヘビー級王座挑戦権利証戦に挑むYOSHI-HASHIも、1・4ドームでのオカダ戦をぶち上げているだけに、前哨戦を制してG1の勢いが本物であったことを証明してもらいたい。 続く第7試合は、アメリカROHでエルガンがドノバン・ダイジャックを相手にIWGPインターコンチネンタル王者を初防衛したため、9・25神戸大会での内藤戦がタイトルマッチになった両選手による前哨戦。内藤が当日までに、エルガンをどのようにして精神的に追い込めるかがポイントになりそう。エース棚橋はG1で敗れたSANADAと今シリーズ連日タッグマッチが組まれており、再戦への伏線になるのか注目したい。 セミファイナルはNEVER無差別級選手権試合。王者の柴田は先月のROH遠征で、フィッシュが保持するROH認定TV王座に挑戦したが、好勝負の末敗れている。さらにフィッシュのパートナーであるカイル・オライリーにまでノンタイトル戦ながら敗れており、ここはホームである新日本のリングできっちりリベンジする必要がある。しかし柴田やG1では柴田にも勝っているEVILから勝利を収めたことにより、フィッシュ&オライリーのreDRagonが新日本マットでもジュニアからヘビー級戦線にシフトチェンジしてくる可能性も当然考えられる。 メインはスーパーJカップ2016の覇者である地元大田区出身のKUSHIDAにBUSHIが挑戦するIWGPジュニアヘビー級選手権。Jカップではプロレスリング・ノアの石森太二、拳王、鈴木軍のタイチ、そして決勝ではノアジュニアの最高峰タイトルである、GHCジュニアヘビー級王者の鈴木軍、金丸義信といった強敵を相手に4連勝しての初優勝。来年はジュニアヘビーの代表としてG1クライマックスに出場することや、日本のジュニアを背負って、世界中の団体に出ていく用意があることも明らかにした。そんな絶対王者に待ったをかけたのが、ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(L・I・J)に加入してから、存在感を増したBUSHIだ。BUSHIは2・14新潟大会で同タイトルに挑戦したときは敗れているが、6・6仙台大会で行われた「BEST OF THE SUPER Jr・XXIII」の公式戦最終戦で対戦したときにはKUSHIDAを破り、決勝進出を阻止しているだけに、今回も巧みに毒霧を使いながらラフファイトで王者を追いつめることが予想される。KUSHIDAにとって油断は禁物だ。 大田区総合体育館から開幕する新日本プロレス秋のビッグマッチも見逃せない。(どら増田)<新日Times VOL.33>
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スポーツ 2016年08月28日 12時00分
すべての闘いは1・4東京ドームへ…新日本プロレス“リベンジ”の秋がはじまる!
新日本プロレス真夏の最強決定戦「G1クライマックス26」はケニー・オメガの初優勝で幕を閉じた。翌日行われた一夜明け会見で、ケニーは『2017年1月4日東京ドーム大会IWGPヘビー級王座挑戦権利証』を受け取ると、最初の防衛戦の相手にYOSHI-HASHIを指名した。ケニーは7・22後楽園ホール大会で行われたG1公式戦でYOSHI-HASHIにまさかの大逆転負けを喫しており、1・4東京ドーム大会でIWGPヘビー級王座への初挑戦を狙っているケニーにとって、この敗戦は「恥をかいた」ようで、会見では真っ先に名前を出していた。両者の再戦は9・22広島サンプラザホール大会のメインイベントとして行われることが決定。ここまで我慢と苦労のプロレス人生を歩んできたYOSHI-HASHIにとっては初めてと言っても過言ではない晴れ舞台だ。ケニーを相手に連勝すれば、凱旋帰国時に苦い思いをした、オカダ・カズチカとのシングルが最高の舞台で実現する可能性がある。しかし、ケニーも自信がなければ自ら指名をするはずがなく、両者の気持ちのぶつかり合いは見応えがありそうだ。 今年のG1ではシングルのタイトルホルダーが公式戦で敗れる場面がいくつかあった。▼2017年1月4日東京ドーム大会IWGPヘビー級王座挑戦権利証ケニー・オメガ<敗れた相手>柴田勝頼、マイケル・エルガン、YOSHI-HASHI▼IWGPヘビー級王者オカダ・カズチカ<敗れた相手>石井智宏、バッドラック・ファレ、丸藤正道<引き分けた相手>棚橋弘至▼IWGPインターコンチネンタル王者マイケル・エルガン<敗れた相手>矢野通、内藤哲也、中嶋勝彦▼NEVER無差別級王者柴田勝頼<敗れた相手>本間朋晃、マイケル・エルガン、矢野通、EVIL 前述のとおり、ケニーはYOSHI-HASHIと9・22広島大会での再戦が決定。IWGPヘビー王者のオカダは、9・22広島大会でファレとノンタイトルで再戦したあと、10・10両国国技館大会で丸藤とのタイトルマッチが決定した。インターコンチ王者のエルガンは、8・27ROHブルックリンで防衛に成功すれば、9・25神戸ワールド記念ホール大会で内藤哲也の挑戦を受ける(防衛に失敗した場合はノンタイトル戦)。G1では4選手相手に星を落としてしまった柴田は9・17大田区総合体育館大会で、これまで新日本マットでは、カイル・オライリーとのタッグチームreDRagonとしてジュニア戦線を賑わせている、アメリカROHのボビー・フィッシュとの防衛戦が決定している。 昨年も当時インターコンチ王者だった後藤がG1公式戦でIWGPヘビー級王者のオカダに勝利を収め、ダブルタイトル戦をぶち上げたが、年内に対戦が実現することはなかった。1・4ドーム大会に向けたシングル王座戦線は、今年も年内最後の大場所、11・5エディオンアリーナ大阪大会までに決まることが予想されるだけに、残された時間も多くはない。リベンジの秋を制した者が、1・4ドームの切符を手に入れるのは間違いないだけに、新日本プロレス“闘欲の秋”に期待したい。(どら増田)<新日Times VOL.32>
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スポーツ 2016年08月21日 12時00分
新日本G1、天山&小島「浪漫の夏」終わる
14日に東京・両国国技館で行われた「G1クライマックス26」最終日。G1の出場権を“盟友”天山広吉に譲った小島聡は、ジェイ・リーサルが保持するROH世界ヘビー級王座に挑戦。セコンドについた天山の声援も届かず、惜しくも敗れた。試合後、小島は天山とともにインタビュールームに現れると一気にまくしたてた。 「今回のG1が、今まで参加したG1の中で一番印象に残って、一番尊い時間だったと胸を張って言えます。今まで何回も何回もG1出たけど、今回出なかったG1が一番印象に残るなんて思わなかったよ。それもこれも全部天山のおかげだ。自分が出場しなくたって、関わりを持っていればこんなに印象深いG1になるんだって思い知らされた。今回の事は死ぬまで一生忘れないと思います」 小島は天山の公式戦すべてに、セコンドについて檄を飛ばし続けた。開幕前に天山が「テンコジで闘う」と言っていたが、小島もセコンドにつくことでG1に“参加”していたのは事実である。今までで一番印象に残ったG1だったとまで小島に言い切らせたのは、「最後のG1」を掲げて挑んだ天山の頑張りがあったからである。 天山の成績は次の通りだ。7・18札幌対 石井智宏 ○7・23町田対 タマ・トンガ ○7・25 福島対 丸藤正道 ×7・28 所沢対 真壁刀義 ×7・31 岐阜対 オカダ・カズチカ ×8・3 鹿児島対 バッドラック・ファレ ×8・6 大阪対 後藤洋央紀 ×8・8 横浜対 棚橋弘至 ×8・12 両国対 SANADA × 開幕の石井戦でゴツゴツした試合を制し、タマ・トンガにも危なげなく勝利を収め、順調な滑り出しかと思われたが、その後は7連敗を喫し、Aブロック最下位の4点で公式戦を終了した。しかし、7・25福島大会での丸藤戦では、近年の天山の試合ではベストバウトと言っても過言ではない激戦を繰り広げており、勝った丸藤も「あの世代の人はなんであんなに元気なんだ?」と舌を巻いていた。また決勝進出の夢が途絶えた後藤戦の試合後には、大阪のファンが惜しみない拍手を送り、中には涙を流しているファンもいた。 インタビュールームに現れた後藤は「プロレスラー天山はまだ這い上がる力がある」とかつての師匠にエールを送っている。公式戦最終日に初対決し、普段はあまりコメントを残さないSANADAも「今日は『最後のG1』と言って出場した天山広吉に勝って、世代交代のようなものを見せられたんじゃないか」と天山と対戦して勝つことができた意義を感じていたようだ。 その他の会場でも天山の人気は尋常じゃなかった。今年のG1で多くのファンが天山の姿に浪漫を感じたのは間違いない。「最後のG1」と言って挑んだ以上、これが最後の出場になってしまう可能性は極めて高いが、天山自身も「まだまだやれる」という自信を深めたシリーズになったのではないだろうか。それほど、今回のG1は天山にパワーを与えていた。そして、天山の闘いを近くで見続けた小島も大きな力をもらったのではないだろうか。G1で天山コールを送ったファンのためにも、またテンコジがタッグのベルトを巻く姿を見せてもらいたいし、いつまでも強がってるテンコジであってほしい。 大会終了後、天山に挨拶をすると「またここから頑張りますよ」と力強く話してくれた。 テンコジによる「浪漫の夏」が終わったが、ここから這い上がっていく二人に期待せずにはいられない。(どら増田)<新日Times VOL.31>
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スポーツ 2016年08月16日 12時13分
新日本G1が閉幕! ギラギラの夏、メラメラの闘いを制したのはケニー・オメガ!
7月18日に北海道・北海きたえーるで開幕した新日本プロレス真夏の最強決定戦「G1クライマックス26」の優勝決定戦が、14日、東京・両国国技館で行われ、Aブロックを勝ち上がった後藤洋央紀と、Bブロックを勝ち上がったケニー・オメガが対戦。後藤の力技を凌いだケニーが、怒涛のフィニッシュで勝利を収め、初出場&初優勝を飾った。外国人選手の優勝は、G1クライマックス26回の歴史において初の快挙である。 G1終盤戦を振り返ってみたい。▼Aブロック8.6大阪○タマ・トンガ 対 SANADA×○ファレ 対 真壁×○後藤 対 天山×○石井 対 オカダ×○棚橋 対 丸藤× 若干数発売された当日券もあっという間になくなり、5,270人(超満員札止め)の観衆を集めた大阪大会は、異様な熱気に包まれながらスタート。今年のG1で株を一気に上げたタマ・トンガはSANADAをガンスタンで倒す。SANADAはリーグ戦敗退が決定。続く真壁対ファレはファレがリング内外で圧倒的なパワーを見せつけて快勝した。開幕から連勝したものの、その後4連敗を喫しもう負けられない天山だったが、後藤に敗れ5連敗でリーグ戦敗退。「最後のG1」が終わってしまった天山に対して大阪のファンからは暖かい拍手が送られた。セミファイナルでは、石井がオカダを破る波乱が発生。オカダは所属するCHAOSと友好関係を築いている丸藤に続いて、CHAOS同門の石井にも敗れるという予想外の展開となった。メインは過去にも節目節目に闘ってきた棚橋と丸藤の新日本vsノアのエース対決が実現。二人にしかできないようなハイレベルな攻防に、場内は大熱狂。丸藤の攻めに苦しんだ棚橋だが、最後はハイフライフロー2連発で逆転勝利。破竹の4連勝を収め、4勝3敗と勝ち星を先行させた。8.8横浜○丸藤 対 タマ・トンガ×○SANADA 対 石井×○棚橋 対 天山×○ファレ 対 オカダ×○後藤 対 真壁× 結果によって決勝進出争いが絞られてくる横浜大会は、丸藤がタマ・トンガに順当に勝利を収めると、大阪でオカダを破った石井がSANADAに敗れてリーグ戦敗退。棚橋は天山に勝って連勝を伸ばす。セミファイナルではオカダの背中に狙いを定めたファレが最後はバッドラックフォールで仕留めてオカダは痛い連敗。メインは真壁と後藤が試合開始からゴツゴツとした攻防を繰り広げて、大歓声を浴びる。最後は牛殺しからGTRに一気に畳み掛けた後藤の勝利。「G1のGは後藤のG」とマイクで叫んで大会を締めた。この結果、序盤3連勝と絶好調だった真壁がリーグ戦敗退。決勝進出は5勝3敗で並んだ棚橋、オカダ、後藤、丸藤、ファレの5人に絞られた。8.12両国○SANADA 対 天山×○石井 対 真壁×○タマ・トンガ 対 ファレ×○後藤 対 丸藤×△棚橋 対 オカダ△ 同点の場合、直接対決の結果が反映されることから、棚橋だけが自力優勝が可能という状況で迎えたAブロック公式戦最終日。まず、ファレが盟友タマ・トンガに敗れる波乱で脱落すると、丸藤も後藤に敗れ敗退したため、オカダにも自力優勝が復活。メインは勝った方が決勝進出となり、引き分けた場合に限り、後藤が決勝進出となるシチュエーションで行われた。1.4東京ドーム大会以来となる棚橋vsオカダだが、早期決着を狙ったオカダが序盤から仕掛けていく。しかし棚橋はこれを凌ぐと、徹底した膝攻撃で形勢を逆転する。棚橋優位のまま20分が経過するが、そこからはこの二人ならではの技の読み合いが冴えまくり、一進一退の攻防に場内は大熱狂。最後は残り10秒から正調ハイフライフローを放った棚橋だが、カウント2でタイムアップ。引き分けに終わり、後藤が決勝進出の切符を手に入れた。膝にダメージが残っていたオカダだが、IWGPヘビー級のベルトを渡されると、悔しさを露わにしてセコンドの肩を借りずに自分の足で控室に帰った。Aブロック成績後藤洋央紀 6勝3敗 12点棚橋弘至 5勝3敗1分け 11点オカダ・カズチカ 5勝3敗1分け 11点丸藤正道 5勝4敗 10点バッドラック・ファレ 5勝4敗 10点真壁刀義 4勝5敗 8点石井智宏 4勝5敗 8点SANADA 4勝5敗 8点タマ・トンガ 4勝5敗 8点天山広吉 2勝7敗 4点▼Bブロック8.7浜松○矢野 対 エルガン×○柴田 対 YOSHI-HASHI×○中嶋 対 本間×○ケニー 対 永田×○内藤 対 EVIL× 3,200人(超満員札止め)をマークした浜松大会は矢野がエルガンから勝利を収める波乱の幕開け。今年のG1、矢野は絶好調だ。本間は中嶋に敗れリーグ戦敗退が決まる。永田とケニーのシングル初対決は、ケニーが片翼の天使で勝利。開幕3連勝の永田は4連敗でリーグ戦敗退が決まる。メインは注目のロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン同門対決。戦前、内藤が警戒していたとおり、EVILは怒涛の大技ラッシュで内藤を苦しめるも、最後はディスティーノで切り返して逆転勝ち。試合後は拳を突き合わせてノーサイド。内藤が決勝進出へ大きな1勝を手に入れた。EVILはリーグ戦敗退。8.10山形○ケニー 対 中嶋×○EVIL 対 矢野×○内藤 対 YOSHI-HASHI×○柴田 対 永田×○エルガン 対 本間× ケニーがアメリカROH以来となる中嶋とのシングルを制して自力優勝の可能性を残す。中嶋はリーグ戦敗退。EVILは絶好調の矢野に完勝。矢野は脱落。内藤は今回のG1でダークホース的な活躍を見せているYOSHI-HASHIを寄せつけず、首位で最終日に駒を進める。セミではNEVER王座を争っていた柴田と永田が変わらぬ熱い闘いを展開。柴田がスリーパーで締め落としレフェリーストップで勝利。決勝進出に望みをつなげる。メインは、山形が地元の本間が大ホンマコールに後押しされて奮闘するが、エルガンのパワーに押し切られてしまう。大会を締めたエルガンも柴田と同じく決勝進出に望みをつないだ。8.13両国○本間 対 永田×○矢野 対 YOSHI-HASHI×○EVIL 対 柴田×○中嶋 対 エルガン×○ケニー 対 内藤× 本間が念願の永田超えを果たして最終戦を終える。EVILは柴田をパワーで圧倒し、リーグ戦敗退させることで内藤を援護。中嶋はIWGPインターコンチネンタル王者のエルガンに勝利を収め、新日本に爪痕を残した。これでエルガンも脱落し、メインは勝ったほうが決勝進出できるが、内藤は引き分けでも進出という若干優位のなか行われた。シングル初対決であり、お互いにヒールユニットのリーダーという立場にあるだけにどんな試合になるのか注目されたが、予想をはるかに超える攻防の数々に両国の観客は終始大興奮。ケニーはスワンダイブ式のトペコンヒーローなど高度な技を次々と決めてみせた。最後は残り時間2分を切ったところで、ケニーが片翼の天使を決めてフォール勝ち。本命の内藤が最後の最後で敗れてしまった。ケニーは初の外国人選手優勝を宣言し大会を締める。Bブロック成績ケニー・オメガ 6勝3敗 12点内藤哲也 6勝3敗 12点柴田勝頼 5勝4敗 10点マイケル・エルガン 5勝4敗 10点矢野通 5勝4敗 10点中嶋勝彦 5勝4敗 10点EVIL 4勝5敗 8点永田裕志 3勝6敗 6点本間朋晃 3勝6敗 6点YOSHI-HASHI 3勝6敗 6点▼優勝決定戦8.14両国「G1クライマックス26」優勝決定戦○ケニー・オメガ(26分49秒 片翼の天使→片エビ固め)後藤洋央紀×※ケニー・オメガが初優勝 チケットは前売りで完売し、10,204人(超満員札止め)の観衆を集めた最終日。入場時から両選手には大きな声援が送られた。試合は力で勝る後藤がケニーを追い込んでいくが、ケニーも得意の立体的な技の数々で対応していく。今年の1月にヘビー級に転向したケニーにとって、連日ヘビー級の選手と当たるG1は過酷なものだったに違いない。しかし、ここまでのレスラー生活の全てを後藤にぶつけていくことで、試合のペースを握っていった。シットダウン式ラストライドや、交わされてしまったが、フェニックススプラッシュはかつての盟友、飯伏幸太の技。そしてフィニッシュへの繋ぎとしてバレットクラブの初代リーダー、プリンス・デヴィットのブラッディーサンデー、2代目リーダー、AJスタイルズのスタイルズクラッシュまで使ってみせた。最後の技を自らのオリジナルフィニッシュホールド片翼の天使で決めたのは「新日本がホーム」であるケニーのプライドだろう。文句のつけようがないフィニッシュで、後藤を破り初優勝を飾ったケニーは、ひさびさに流暢な日本語でマイクパフォーマンスを行いファンを喜ばせた。 約1か月、19大会にも及んだ今年のG1は、オカダでも内藤でも、棚橋でもなく、ケニーが優勝という意外なドラマが待っていた。新日本の戦いはケニーを中心にここから来年の1.4ドームへ向かって一気に走り出していく。棚橋は「ここから必ず中心に戻ってみせますよ」と力強く語り、オカダはG1で敗れた選手と防衛戦を行った上で、1.4ドームのメインに立つ意向を明らかにしている。そして内藤も余裕の表情を崩すことなく前を向いていた。 ギラギラの夏は終わっても、メラメラな闘いはまだ終わらない。(どら増田)<新日Times VOL.30>
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スポーツ 2016年08月15日 14時00分
プロレス解体新書 ROUND14 〈新日本vsUインター〉 対抗戦の裏メーン「長州vs安生」
1995年10月9日、新日本プロレスvsUWFインターナショナルの歴史的対抗戦。試合前に「210%勝てる」と豪語して長州力に挑んだ安生洋二は、わずか5分弱で完敗した。 “新日強し!”を強烈にアピールしたこの試合の舞台裏で、一体何があったのか。 かつて『安生最強説』なるものがUWFファンの間では囁かれていた。 「船木誠勝がインタビューで、『キックボクサーのモーリス・スミスとも立ち技で互角に闘える唯一の日本人選手』と話したことがきっかけでした」(格闘技ライター) 当該記事中で実名は伏されていたが、いつしか“安生を指したもの”というのが定説となっていった。船木としては、鳴り物入りで新日からUWFへ移籍した後、初戦で安生に返り討ちに合ったことが意識にあったのかもしれない。 また、安生は道場の練習で無類の強さを誇り、他選手はまったく歯が立たなかったともいわれている。 だが、それ以上に“安生最強”の根拠とされたのが、'89年11月29日に開催されたUWF初の東京ドーム興行『U-COSMOS』でのチャンプア・ゲッソンリット戦だった。 「ムエタイ中重量級の一枚看板として、大型の欧州キック勢とも互角以上に闘ったチャンプアは、まさしく当時のキックボクシング界において、トップクラスの1人でした」(同) しかも、安生はノーグローブで、パンチよりもリーチの短い掌打で対抗せざるを得ないというハンデ付き。さらに言えばこの試合、興行的な意味での事前の取り決めのない、いわゆるガチンコであった。 「第二次UWFの歴史の中でも、ガチンコと言われるのはこの試合と、同日の鈴木みのるvsモーリス・スミスだけ。引き分けに終わった試合後には、若手にすぎない安生をわざわざ前田日明や高田延彦が祝福に訪れ、藤原喜明に至っては涙ぐんで抱擁までした。その様子からも、いかに特別な試合だったかがうかがえました」(同) さすがに技術面で、安生がチャンプアを上回る場面こそなかったが、評価すべきはそのクソ度胸だろう。立ち技のスペシャリストを相手に一歩も引かず、前々での戦いを挑むなど、よほどの怖いもの知らずでなければできることではない。 安生はUWFへの入門許可を得る前から、勝手に道場へ布団を持ち込んで寝泊りしていたとの逸話もある。Uインター旗揚げ後には慣例を無視するかのごとき、さまざまな企画で業界に波紋を投げかけたのも、安生の肝の太さがあってこそではなかったか。 '95年に始まるUインターと新日の歴史的対抗戦も、もとは'92年、安生らが高田の名代として蝶野正洋への挑戦を訴えたことがきっかけだった。事前交渉もなく勝手に新日事務所へ乗り込んだその行為は、「あいつらが死んだら俺が墓に糞ぶっかけてやる」と、長州がマジ切れするほどの暴挙と受け止められた。 このように、UWF系では技術面でも精神面でも上位の実力者だった安生だが、では外部からはどう評価されていたのか。 「俺でも永田(裕志)でもタックルでテイクダウンできたら、その時点で負けでいい」 新日vsUインター対抗戦、最初の横浜アリーナでの試合の前に発せられた長州の言葉からは、一切、安生へ畏怖は感じられない。 「もちろん対抗戦だから、相手を持ち上げるようなことは言わないが、長州は基本的に本音でしかコメントしない人ですからね」(スポーツ紙記者) 先の“糞ぶっかける発言”のとき、「でも、山ちゃん(山崎一夫)はいいヤツだから(かけない)」と続けたのが好例だろう。本気で罵倒しているからこそ、好感を抱く相手への気遣いも欠かさない。つまり、長州は安生の試合なりを見て、タックルでテイクダウンされる可能性はゼロと早くから確信していたのである。 対抗戦本番、長州vs安生のシングル戦は長州の一方的な勝利に終わったが、その試合後のコメントからも実際に闘ってみての本音がうかがえる。 『キレちゃあいないよ。安生も俺をキレさせたかったんじゃないか? 勇気ねぇよな』 安生からは、長州が危ういと感じるような攻めがなかったというわけだ。“勇気ねぇよな”との言葉からは、シュートを仕掛けようという素振りすらなかったこともうかがえる。 「ヒクソン道場に単身乗り込み、のちには前田を闇討ちした安生が、なぜ長州の前ではおとなしくプロレスに徹したのか。Uインターの窮状を救うために仕組んだ対抗戦だから、それを壊すような真似はできないという考えは当然あったでしょう。ただ、一方では“シュートで長州にはかなわない”との思いもあったのでは…」(同) とはいえ、それはあくまでもタックルから始まるレスリング勝負の話で、元五輪代表の長州に分があったというだけのこと。その後、ゴールデンカップスなど自由気ままな試合ぶりを許されたのは、安生の実力が新日で認められていたからに違いない。
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スポーツ 2016年08月08日 16時00分
プロレス解体新書 ROUND13 〈夏の祭典『G1』の原点〉 期待に応えた蝶野vs武藤の熱戦
今年で26回目を迎えた日本プロレス界最大の夏フェス『G1クライマックス』。記念すべき1991年の第1回大会は、まったく先の読めない波乱の連続で、プロレスファンのハートをがっちりつかんだ。 水商売や興行の世界では、昔から2月と8月のいわゆる“ニッパチ”が「売り上げ不振の月」とされている。2月は正月に緩んだ財布のヒモを締めるため、8月は酷暑を避けて外出が減り、また、お盆や夏休みで家族サービスに精を出す人が多いため、というわけだ。 これはかつてのプロレス界においても同様だった。 「地方巡業を重視していた時代は、リング上のアングルに関してもある程度の年間スケジュールが決まっていました。1月に新たな抗争のタネまきをして、3月から本格スタート。6月頃にはこれにいったん決着をつけて、7月にはまた下半期に向けてのタネをまくといった具合。そうして2月と8月は、重要な試合や長期の地方遠征を避ける傾向にあったのです」(元プロレス団体関係者) だが、逆をいえば他にビッグイベントがないのなら、それは独り勝ちのチャンスでもある。 「そこで一儲けをたくらんだのが、当時、新日本プロレスの現場監督だった長州力と“仕掛け人”永島勝司(取締役企画宣伝部長)のコンビでした」(同) アントニオ猪木が'89年に参議院議員となった頃から、実質的に団体のかじ取りをしてきたこの2人。同年にはプロレス界初の東京ドーム大会を成功裏に終えると、以降も毎年のドーム大会を実現してきた。 その結果、細々と地方を回る旧来の巡業スタイルではなく、ビッグマッチで集中的に稼ぐビジネスモデルへの移行が、模索されるようになっていったという。 「そこで新たに目を付けたのが、これまで興行の谷間とされてきた8月でした。東京ドームはプロ野球などで一杯でも、両国国技館なら空きがある。ならば『とにかく3日間押さえてしまえ』というのが話の始まりだったわけです」(同) そうして両国3連戦を埋められる企画について、何かと検討を重ねた結果、'87年の第5回IWGPリーグ戦を最後に、新日では行われていなかったシングルマッチのリーグ戦開催を決定した。現在まで続く夏の名物シリーズ『G1クライマックス』は、このような、いわば算盤づくで生まれたものだった。 両国3戦に開幕戦の愛知県体育館大会を加えた全4大会の短期戦。参加は全8選手だった。 Aブロック=藤波辰爾、武藤敬司、ビッグバン・ベイダー、スコット・ノートン。Bブロック=長州力、橋本真也、蝶野正洋、クラッシャー・バンバンビガロ。 下馬評は長州、藤波に外国人トップのベイダーの三つ巴。しかし、その裏ではまったく別のアングルが用意されていた…。 「開幕戦で蝶野が長州からSTF(ステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェースロック)でギブアップを奪ったときも、まだ多くのファンや記者連中は、たまたまの結果と捉えていました。しかし、長州は続く橋本戦でも蹴られまくっての完敗。さらにビガロにも敗れて全敗となり、その意外な結果によって大会そのものへの注目度が、グンと高まったのです」(スポーツ紙記者) Bブロックはその長州を破った蝶野と橋本が、ともに2勝1分でトップに並ぶ。一方、Aブロックでも武藤が藤波から初のフォール勝ちを奪うなど、2勝を挙げて単独トップとなり、その結果、決勝は闘魂三銃士の3人で争われることとなった。 迎えた両国3日目の最終戦、先に行われたBブロック代表決定戦では、蝶野が橋本をSTFで下して、武藤の待つ決勝にコマを進める。すでに米WCWで、グレート・ムタとしてブレイクしていた武藤はまだしも、三銃士の中で最も地味な存在だった蝶野の決勝進出は、誰もがまったく予想しないものだった。 「新日のリーグ戦が中断されていたのは、UWF勢の離脱やWWF(現WWE)との提携解消による目玉選手の不足に加え、何より主役である猪木の衰えという明白な理由があってのこと。それを復活させる以上は新たな方向性が必要だということで、長州&永島コンビの用意したのが“闘魂三銃士の売り出し”アングルでした」(同) 満員の観客席から視線が注がれる中、じっくりとしたグラウンドの攻防で始まった決勝戦。ともに持ち味を出し切った30分近くの激闘の末、蝶野のテーズ式低空パワーボムによってついに決着。以後、通算5度のG1優勝を果たすことになる“夏男”誕生の瞬間だった。 無数の座布団がリングに舞う。競馬でいえば最低人気の穴馬が勝ったような大波乱に、興奮しきりの観客たち。むろん意外性だけでなく内容も素晴らしかったからこその狂騒であり、この試合のインパクトによって、今なおG1が続いているといっても決して過言ではない。