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連載ラノベ 夢ごこち(38)

 けど、なんで寝ている私が、別の私を見ているのだろう。そうだ、きっと夢の中は、私の想像なんだ。だから、目をつぶっていても、私のことが見えるんだ。

 吉原君が、おでこの汗を腕でぬぐった。吉原君は、顔じゅう砂だらけだ。でも、私のために来てくれたんだ。うれしい。

 吉原君は私を助けるとき、なんて言ってくれるのだろう。「美雪のために来た」って、言ってほしいな。そうしたら、私は「信じてたよ」って答える。

 吉原君、私を助けたあと、キスしてくれるかな。でも、照れ屋だからしてくれないかも。けど、金比羅さんの参道では「キスしていい?」って聞いてくれた。

 どうしよう。キスしてほしい。私のほうから目をつぶっちゃおうかな。でも、吉原君がキスしてくれるかどうかわからない。

 そうだ、今、私は夢をみているんだ。だから、私が頭の中で考えたことが、そのまま現実になるんだ。それなら、吉原君に、キスをさせてしまえばいいんだ。

 吉原君がやっと来てくれた。吉原君、ほっとした顔をしている。私もうれしいよ。早く、抱き締めて。そうしたら、私、目をつぶるから。吉原君が手を差し向けてくれた。吉原君の手のひら、温かい。吉原君が私を引っぱり起こしてくれた。私は目をつぶった。

 キスしてくれるかな。でも、私はお姫様なのに、さらわれなかった。なんだか、つまらない

 もの音が聞こえる。後ろのがけから、砂と小石が落ちてきた。目を開けたら、真っ暗な空に不気味な気配がした。怪鳥の鳴き声が聞こえる。羽が落ちてくる。怪鳥が、舞い降りてきた。

 吉原君が、がけの下にはね飛ばされた。頭から真っ逆さまに落ちていく。岩肌は、ごつごつだ。こんな高い所から突き落とされたら、ただじゃすまないよ。

 爪を広げた怪鳥が、向かってくる。どうしよう。私、やっぱりさらわれるんだ。どこへ連れて行かれるのだろう。きっと、おまじないをする場所だ。金比羅さんの参道にあった社に連れて行かれるのかも。おまじないをするのに、私が必要なんだ。

 そう思っているうちに、怪鳥に捕まってしまった。吉原君の姿はもうどこにも見えなかった。

(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)

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