山口敏太郎
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ミステリー 2018年03月31日 23時30分
【TVでおなじみ山口敏太郎が語る“都市伝説”】〜ボール男〜
この話はアンダーグラウンド系のライターCさんに聞いた。 薄暗い飲み屋でCさんは、得意げにこの話を切り出した。 「中国には”ボール男”という、ボールの中に入る男がいるらしいよ。そうそう、ボール。こいつはさ、サッカーボールやバスケットボールの中に身を隠せるらしい」 「何のために、身を隠すのですか?」 「そりゃ殺しですよ」 「殺しですか、ボール男が殺し屋なんですか」 私は思わず、すっとんきょうな声を上げた。「ボール男」という愛すべきキャラクターと「殺し屋」のイメージがかけ離れていたからである。 「だから、ボール中に潜み、ターゲットの室内に潜入し、ターゲットを暗殺するわけだ。つまり、ボール男は世界で一番小さな暗殺者ってわけ」 「なるほど」 「トランク男、箱男とも言うね。ボール以外にも入れるからさ」 私は想像した。あるターゲットに、ボールが贈られてくる。あるいは、ターゲットの部屋にトランクが届けられる。 「おや、バスケットボールか!だれかのプレゼントか」 「何だって。明日の打ち合わせまで、このトランクを預かってくれだって!!」 そう思うのが普通である。誰がその中に、暗殺者が潜んでいると思うであろうか。 たいがいのターゲットが油断して、室内に入れてしまう。それが死への序曲なのだ。そして、ターゲットが寝静まると… ボール男はゆっくりとボールの中から出てくるのだ。 ボール男がターゲットを始末すると、再びトランクやボールの中に潜む。 翌日、内部の協力者により、死体発見のどさくさに運び出されるという。 これにより完璧な密室殺人が完成する。 「このボール男って何者なんです?」 「噂じゃ、このボール男は、専門業者が育成しているらしいよ。いや、製造されているといった方が正確かも」 Uさんの話のよると「製造」の方法はこうだ。まず、比較的小柄な子供をさらってくる。 1〜3才の子供がいいと言われている。その子供を陶器に入れて育てる。 手足を出し、体は丁度陶器に収まる感じである。 このまま子供は育成され、暗殺者のボール男として、殺人技を教え込まれるという。 そして、2、3回陶器を取り替えれば、ボール男の誕生なのである。(監修:山口敏太郎事務所)
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ミステリー 2018年03月25日 23時19分
【TVでおなじみ山口敏太郎の“UMA”ファイル】「ヒバゴン」と獣人妖怪たち〜実は昔から生息していた!?
広島県の比婆山に棲むと推測される獣人UMAがヒバゴンだ。 ヒバゴン騒動の発端は1970年7月20日であり、広島県比婆郡(現・庄原市、以下同)西城町油木地区で初めて目撃されている。山でキノコ狩り中の小学生によって、熊笹を掻き分け出現したヒバゴンが確認されたのだ。その後、多数の目撃者を出している。1974年には、ヒバゴンと思しき生物が写真撮影された。この写真を鑑定した動物学者たちは、ニホンザルかツキノワグマだろうとしている。勿論、この写真そのものが、ヒバゴンを写したものではないという意見もある。 ヒバゴンについての物証は少ない。足跡のサイズは縦21cm、幅22cmで、体長は1.5mから1,7m程度。ヒバゴンのものと思われる足跡や体毛が採取されているが、残念ながら正体の特定には到っていない。 一応、仮説では巨大クマ説が有力だが、動物園やサーカスから逃走したチンパンジー説、巨大化した日本猿説も根強い。筆者・山口敏太郎の仮説では、戦争中に山中に遺棄された類人猿の生き残りだとしている。 また、ヒバゴンが出演した広島県比婆郡近辺には獣人系の妖怪の伝説も存在している。 比婆郡東城町に出た妖怪とされる藍婆がそれだ。鬼の一種や山姥とも言われているが、姿に関する詳細が伝わっていないため、正体は不明である。出現した場所は比婆山と近く、ヒバゴンとの関連が指摘されている。藍婆は日頃、猪、鹿、狼を食べていたが、時々木こりや女など人間をさらって、石臼ですりつぶし、貪ったとされている。後に覚隠という僧侶が山に入り、藍婆を教化したことで人に対する害が減ったそうだ。 ヒバゴンはここ20年近く目撃例が無いが、町おこしに利用されている。1970年からは「ヒバゴン郷どえりゃあ祭」というヒバゴン関連のイベントが開催されている。土産物には「ヒバゴン饅頭」などがある。地元の食事処「やまびこ」では、なんと「ヒバゴン丼」を扱っている。 他にも、広島ではゆるキャラの一つのように考えられている向きもあるため、ヒバゴンは昔から現代に至るまで地元の人々に愛されているキャラクターといえるのかもしれない。監修:山口敏太郎
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ミステリー 2018年03月24日 23時00分
【TVでおなじみ山口敏太郎が語る“都市伝説”】〜這う老婆〜
Fさんは某商社に勤めるエリートサラリーマンであった。残業も多く、常に帰宅も深夜だったが、愛する妻のため、日々懸命に頑張り続けていた。 「俺はあいつの幸せな顔を見るのが好きなんだ。そのためだったら、仕事ぐらいいくらでもやってやるよ」 Fさんと妻は恋愛結婚である。Fさんはスキー場がある山村で身寄りのない彼女を見つけ、結婚したという。当時、仕事と都会の生活に疲弊していたFさんは、彼女の素朴なところに感激し、出会ってから3カ月後に電撃的に結婚した。 「俺はさあ〜、あいつの純朴なところが好きなわけよ」 ある夜のことだ。Fさんは取引先と飲酒をし、ほろ酔い気分で帰宅した。自分の部屋はマンションの5階である。いつもは自分の増え続ける体重のことを考慮して階段を上るところが、今夜は深酒がすぎたこともありエレベーターに乗ることにした。 (さすがに、今宵は飲みすぎってやつだ。もうだめ、エレベーターにしよう) Fさんが、千鳥足でエレベーターホールに向かった時、階段の踊り場に、何やら怪しい人影を目撃した。 (なんだー、あー泥棒か?よし、とっちめてやろう) 酒で、いささか気が大きくなったFさんは、非常階段へ人影を確認しに行った。 でも何もいない。誰もいないのだ。 (なんだ、勘違いってやつか。まだ俺は酔ってるのか) Fさんが引き返そうとした時。 背後に殺気を感じた。 そーっと振り返るとそこには、灰色の髪の毛をした老婆がいた。 目を血走らせ、口からよだれを垂らしている。とても人間の表情とは思えなかった。 しかも、この老婆は、地面をはっているのだ。 「ギュルルー ギュルルー」 老婆はうなり声を上げている。すきあらば、Fさんに飛びかからん様子である。地をはうその姿はまるで犬か狼のように獰猛(どうもう)であった。 「この化け物やろう。これでも食らえ」 Fさんは持っていた傘でその化け物を殴りつけた。2、3発殴った後、その化け物は腕から血を出し、一瞬だけひるんだ。 (よ、よし、今のうちだ) そのすきにFさんはエレベーターホールまでエスケープした。追ってくる様子はない。 (今見た、あれは何だ。まさか、ああいうやつが妖怪ってやつか。はい回りながら人を襲う老婆なんて聞いたことがないぞ) Fさんはふらふらになりながら自宅に帰宅した。 ほっと一息ついたFさんを、妻が向かえてくれた。だが妻は、何やら元気がないように見える。先ほどのこともある。Fさんは心配になり、尋ねた。 「おい、今日は、なんだか元気ないじゃないか。何か、あったのか?」 「ええっ、何でもないの。さっき料理をしてて右手をけがしたの」 妻は包帯を巻いた右手をFさんの前に差し出した。 その負傷箇所は、ちょうどの老婆が血を流した場所であった。(監修:山口敏太郎事務所)
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ミステリー 2018年03月18日 23時00分
【TVでおなじみ山口敏太郎の“UMA”ファイル】モンゴリアンデスワーム
近年注目を集めているUMAの中には、過去に妖怪と呼ばれていた存在もいる。例えば、ゴビ砂漠で目撃されて以来、「モンゴリアンデスワーム」と名付けられているもの。このモンゴリアンデスワームは、モンゴルの砂漠地帯に住んでいた人から「オルゴイコルコイ(腸虫という意味)」と呼ばれていたという。 モンゴリアンデスワーム(オルゴイコルコイ)は、ゴビ砂漠に棲息しているといわれているミミズ型の怪物である。体長は最大で1.5メートルほどあり、口には鋭い歯が多数生えているという。性格は凶暴で、今までに数百人が犠牲になっているといわれる。モンゴリアンデスワームは生物を見かけると、強力な酸を獲物に吐きかけて殺すそうだ。他にも、体内に毒を持っている、電気ショックを与えて足止めをしてから息の根を止める等、モンゴリアンデスワームの能力については諸説ある。 数多くのUMAの目撃証言が発表されているのだが、その殆どがCGや誇大表現から生まれた産物ではないかと考えられている。しかし、このモンゴリアンデスワームは実在するのではないかと考えられている。2005年には、モンゴリアンデスワームを本格的に捜索したイギリスの科学者たちにより、その存在はほぼ確定であると認定されたそうだ。だが、毒を持っていたり、酸を吐くことはないようだ。 イギリスの科学者の他にも、モンゴリアンデスワームを捜索している研究者たちは数多くいる。妖怪、モンゴリアンデスワームが発見されるのはそう遠い未来ではないかもしれない。(監修:山口敏太郎事務所)
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ミステリー 2018年03月17日 23時00分
【TVでおなじみ山口敏太郎が語る“都市伝説”】その画面を見続けてはいけない?TVの「砂嵐」
砂嵐とは、テレビ局の一日の放送が終わった後に流れる、雑音の混じった無放送状態をさすが、砂嵐にも数々の都市伝説があるとささやかれている。NHKの番組終了後には、砂嵐の中で受信料の未払い者の名前がテロップで流れているとも噂されていたが、最近では未払い者が多すぎて、朝の放送開始までに流しきれず、やめるに至ったという笑い話に変わっている。無論、都市伝説であるが…。 また日本テレビの放送終了時には、ハトが飛び回る映像が流されていたのだが、日によって微妙にハトの動きが違っていたのだとか。あるいは砂嵐の中に男が姿を現し、明日死ぬ者の名前を呼ぶとか、自分の肉親の名前を呼ぶとも言われている。噂によると、この砂嵐状態の時間帯は、現実世界と死後の世界とが電波でつながっており、死者たちと交信できるのだという。つまり砂嵐の中の男は、死者というわけなのだ。 砂嵐の中で明日起こる予言を流す、ノーカットのポルノ映画を流す、テレビ局員の不祥事を中継している…など、砂嵐をめぐっては多くの都市伝説が生まれている。 突飛な例では、1980年代に噂された宇宙人による「テレビ電波ジャック」がある。噂によると80年代中期に、フジテレビ(日本テレビという噂もある)の深夜の放送時間帯、何物かが電波をジャックし、番組予定にない「第三の選択」というUFO番組が流れたと噂された。 この番組は現実に存在するものだ。火星には水や大気があって、人類が暮らせる土地であるにもかかわらず、米国やロシア(番組内ではソ連)が結託してこの秘密を隠しているというものだった。実はこの番組、イギリスでエイプリル・フール用に作られたパロディ番組であったのだが、なぜか日本では真実を伝える「マジ」な番組としてゴールデンタイムに放送され、その後再び放送されたことがないプログラムである。 それが突如、夜中に再放送されたと噂が立ったのだ。宇宙人が真実を人類に知らせるために電波をジャックしたとの都市伝説がささやかれたが、本当に突如再放送されたのかもしれない、奇妙な噂話であった。たとえ、再放送されてもエイプリル・フール用の番組なら、何ら問題はないのだが…。 都市伝説は宇宙人さえも巻き込んでしまうようだ。監修:山口敏太郎事務所
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ミステリー 2018年03月11日 23時00分
【TVでおなじみ山口敏太郎の実録“怪”事件簿】〜転がってくるもの〜
千葉県を走る道路、袖ヶ浦姉崎線には急斜面の林の横を通る場所がある。大雨になると土砂崩れがよく起こる危険な場所である。ここでは奇妙な怪談が囁かれている。今から20年近く前の事、台風によって起こった土砂崩れから女性のバラバラ遺体が発見された。バラバラにされて埋められていたのだ。警察の捜査の結果、被害者は女性で、恋愛のもつれによる事件ではないかという事であった。警察によって全身のパーツがくまなく発見されたが、何故かどうしても左の手首だけが見つからなかった。遺体発見から数か月後の雨がしとしと降る深夜、ある会社員が会社帰りにこの辺りを走行していた。「くそ〜遅くなったな、早く家に帰ってシャワーでも浴びたいな」雨足はかなり強い。フロントガラスにも大粒の雨が叩きつけられてくる。「嫌だな、土砂崩れなんか起きないだろうな」会社員は不安げに山を削って作られた道路を見つめた。すると、斜面から肌色で円筒形の形のものがコロコロと転がって落ちてくる。「…ん!!?何だ、あれは」男は危ないと思って急ブレーキを踏んだが、結局間に合わなかった。「グシャッ」という妙な音と同時に車は止まった。「おかしいな、落石じゃないようだし…一体何を踏んだのかな?」そう思っていると、突如、ずぶ濡れの女性が現れ車の窓を叩いた。「ドンドン、ドンドン」「なっ、なんですか」車の窓を開けると、女はずぶ濡れの右手で会社員の襟首をつかみ、こう言った。「私の左手…返して」ふと女の左手を見ると…手首が無かったという。(監修:山口敏太郎事務所)
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ミステリー 2018年03月10日 23時00分
【TVでおなじみ山口敏太郎の実録“怪”事件簿】化け狐たちの報復〜王子稲荷の祟り事件〜
王子稲荷といえば、知らぬ者はいないぐらいに東京では有名だ。元享2年(1322)に、地元の豪族・豊島氏が王子権現の分社を勧請し、この辺りが王子という地名になった事から、王子稲荷と次第に呼ばれるようになったという。 この王子稲荷が祟ったということはあまり知られていない。実は明治の頃まで王子稲荷は、狐狸(こり)が跋扈(ばっこ)し人々を脅かし、将門の首塚やお岩稲荷と並ぶぐらいの怨霊スポットであったのだ。 「日本怪奇集成」(富岡直方)には、王子の狐狸に関するこんな怪異談が語られている。明治39年に砲兵工廠の一部が、王子の滝ノ川村に移転することになった。その時、敷地に稲荷があったので、それを打ち壊し工場を建てようとした。すると責任者の某少佐の妻の夢枕に狐が現れた。 「家を壊された恨みは深いぞ。おまえの一族を一人残さず殺してやる」 と狐は幾晩も繰り返した。 そのあとすぐ、少佐の子供が二人立て続けに死んだ。これはいかんと思った少佐は新しい祠を建て、狐を供養したという。だが、翌年また異常な出来事が起こった。少佐の夢枕に狸が出てきた。 「我は滝ノ川村にすむ5匹の古狸のひとりである。狐には祠を建てておいて、我らを侮り、老友3匹を殺害するとはどういうことなのか」 この夢に驚いた少佐だったが、事態はすぐさま深刻化する。工場に石の雨が降り、大入道や三つ目小僧などが出るようになったのだ。このままでは操業できないと感じた少佐は、至急部下たちを調べた。すると、4、5人の者が鉄管の中で寝ていた狸3匹を殺していたのだ。 なお、現在の王子稲荷には、狐の穴と呼ばれる穴があり、往時の化け狐たちを偲ぶことができるが、この王子稲荷を有名にしたのは、名人と呼ばれた落語家、柳家小さんであった。小さんの十八番に「王子の狐」という話がある。扇屋というお店を舞台に狐が暴れる、江戸風情のある話である。 この扇屋は今も現存している。今は扇屋ビルという立派なビルになっているのだが、2005年の暮には、山口敏太郎事務所でこのビルにある飲み屋で打ち上げをした。したたかに呑んだものだったが、ついぞ化け狐は現れなかった。監修:山口敏太郎事務所
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ミステリー 2018年03月04日 23時00分
【TVでおなじみ山口敏太郎の実録“怪”事件簿】〜狸に憑かれた同級生〜
四国と中国地方の一部に伝承されている犬神は今も実在し、それを自在に使いこなす一族は今も存在するという。 果たして、21世紀の現在、犬神は存在するのであろうか。 筆者・山口敏太郎は、大学時代から親の転勤という条件もあり、千葉に移住したが、高校まではずっと四国・徳島県で過ごしていた。高校時代、筆者は徳島県立○○高校という学校に通っていた。旧制中学の流れを組む学校で、生徒も個性的な仲間が集まっていた。後にいしだ壱成とビックバンドを結成する佐藤タイジくんや、尺八の若手奏者で評判の高い原郷界山くんなどがおり、愉快な学園生活をおくっていた。そこで奇妙な事件が起こった。 あえて仮名にするが、小柄な某君が廊下で大暴れをしているのである。仲間数人を両腕で振り回している。もの凄い怪力である。また、その暴れている某君の目があっちの世界にいってしまっている。 「まさか、薬なのか?」と一瞬思ったが、昭和50年代の田舎高校生の我々に手に入るわけもなく、某君もそんな事をするような人間ではなかったし、非常に平和的な人物なのだ。 唖然としていると、彼はみんなの制止を振り切り、猛スピードで学校から走り出していった。 「一体あれはなんだ?」と彼を制止していた一人の友人に尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。「ああっ、時々ああなるんだよ。ああなると人柄が変わっちゃってどうしようもない。力も人間の力とは思えないし、彼の家は狸を信仰しててね、狸が降りてくると突然山に行きたくなるんだ」「狸が降りるってそんな馬鹿な、現代日本だぞ、奴だってプロレス好きの普通の高校生じゃないか」「だっておまえも見ただろう」 この事件に遭遇してから、私の見解は一層深まった。四国はまだまだ日本古来の風習が生きていると。
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ミステリー 2018年03月03日 23時05分
【TVでおなじみ山口敏太郎の実録“怪”事件簿】怖い話〜笛の音〜
「あんなに恐ろしい体験はないですよ」 筆者、山口敏太郎が京都のイベントでご一緒させていただいたとき、結城さんは口元の髭を揺らし、にこやかに語ってくれた。 京都から車で二時間、S地区という緑豊かなエリアがある。山に覆われたその里を縫うように流れる八丁川は、ツキノワグマが棲息するような秘境を水源にしている。この川の豊かな恵みからは、天然のヤマメなど川魚も豊富に育ち、それを狙った腕利きの釣り師たちが、奥深く分け入ったりしていた。 結城さんも釣りには目がなく、ヤマメを求めてよくこの川に通っており、中流域から上流へ、そして沢の水も細くなる源流まで足をの伸ばしたことがたびたびあった。無論、その川が晴れた日とどんより曇った日では、まったく違う表情を見せることも知っていたし、川を知り尽くしていたつもりであった。 あの日、あれに出逢うまでは…。 数年前には、結城さん自身がこの川沿いの八丁林道で事故を起こしたことがあり、レッカー車でけん引されたこともあった。この時、彼は地元の修理業者から、ヘアピンカーブを曲がりきれず、谷底に落下した事故車について詳しく話を聞いたという。 人里離れた山奥で、冬場は豪雪で知られた同所は、冬場の自殺者・遭難者の遺体が毎年のように回収されている。「そこですわ、いつも死体を置いておく所は。この前も家族連れがテントを張ってたけど、何も知らんからできるんやろねぇ」 その業者はキャンプにうってつけの河原を指さしながらつぶやいた。そんな結城さんに怪異の影が忍び寄る。 ある年の事、シーズン何回目かの釣行は、八月のお盆の真っ最中であった。お盆には殺生をしないと決めていたのだが、今回はフライフィッシングを始めたばかりのT君の日程上、その日に行かざるを得なかった。(まあいいか、T君にフライフィッシングの楽しさを教えてやろう) 結城さんはそんなことを考えていた。 その日は、絶好の釣り日和だった。はやる気持ちを抑えて、二人はクルマを林道の入り口で止めると川に分け入る。二人で交互に毛針を流しながら、ゆっくりと上流へ向かっていく。車ならわずか三十分ぐらいの距離をたっぷり一日かけて釣りを楽しんだ。釣り仲間の間で「八丁の出合い」と呼ばれる、川が二つに分岐している場所までたどり着いた頃には、とっぷりと日も落ち、毛針がほとんど見えなくなっていた。 「お、やばいなぁ、日が暮れてしまう……」 結城さんとT君は急いで竿を収めると、車を置いた場所に戻るため、林道に向かった。釣りに夢中になっていたせいか、いつのまにかだいぶ遠くまで来ており、林道を急いで歩いても車までは一時間ほどかかってしまう。 「あのポイントでライズしたヤマメは、いい形だったなぁ」 などと、今日の釣りの話に花を咲かせながら、川に沿ってくねくねと蛇行する林道を並んで歩いた。だが歩く速さよりも闇が忍び寄るほうが早く、ものの三十分もしないうちに、あたりは夜の世界に変わってしまった。会話が途絶えると、周囲には不気味さが漂う。二人は、知らず知らずのうちに早足になっていた。 と、そのとき音が聞こえた。 「ピーッ、ピリピリ……!」 ほの暗い川から、唐突に笛を吹く音が聞こえる。 (…なんやろ) しばらく間を置いて、少しためらうかのようにまた聞こえた。 「ピー、ピリピリピリ!」 「ああ、まだ川に誰かがいる。こんなに暗いのに釣り好きなやつだなぁ」 結城さんは、川釣りの仲間が合図に使う笛の音に仲間意識を感じた。すると、三回目に聴こえてきた音は、さらに弱々しくなっている。 「ピー、ピリピリピリ」 結城さんは自分のフィッシングベストから自分の笛を取り出し、その人の仲間でもないのだが、俺たちも釣り人だよ、もう帰る途中だよ、という気持ちを込めて、ピリピリピリッ!と川の釣り人の笛に応えてやった。 闇に吸い込まれていく笛の音。その刹那、彼は何か、してはいけないことをしてしまったような気がした。うまく言えないが、その場の空気が突如変わったような気配を感じたのだ。 (あっ、なんか、まずい事をしたかなぁ……その人の仲間と勘違いされると困るな) 結城さんがそう思っていると、突如、二人の背後、つまり歩いてきた林道の奥から、とてつもなく激しい笛の音が聞こえた。 「ピーッ、ピリピリピリッ!」 (えっ、どうして、今まで下の河原から聴こえていた笛が移動したんだ。瞬時にそれも、全く音をたてずに移動するなんてことは不可能では…) 混乱しながらも彼は心を落ち着かせた。ぞくぞくする悪寒を抑えながらも必死に歩く結城さん。相棒のT君もこの異常事態を理解したらしい。ワーッと叫んで、走り出したくなりそうな気持ちを抑えてひたすら二人は歩いた。 (どういうことだろう、昼間には釣り人も、車も見かけなかった、あの笛の音の主はいったい…) そう思った瞬間、結城さんはとうとう後ろを振り返ってしまった。だが、そこには、夜の林道があるのみであった。なんとなく胸をなでおろし、歩をさらに速めようとした時…。 「ザッ、ザッザッザッ……ザッザッザッザッ」 何か、闇の奥から足早に近づいてくる。まるで、われわれ二人に追いつこうとするかのように急いでいる。 (やばい……これは、全くしゃれにならない) 畏怖した結城さんは、T君にも伝えた。 「ぜったい、後ろを見るなよ!」 顔面蒼白でうなずくT君。恐ろしさを少しでも紛らわせるために、わざと砂利道で派手な音を立てた。小石を蹴飛ばし、大声で歌を歌い、拾った枝で木や草をバシバシと叩き、後ろの足音が聴こえないように必死になった。 すると、ようやく前方に車が見えてきた。背後の音も聞こえなくなっている。 「怖かったですね」 T君は震える声で、そう言った。 あの日、この耳で聞いた笛の音、着いてきた足音の正体は何者であったのであろうか。今もお盆になると、夜の川に笛の音が響き渡っているのではないか。闇の川べりで永遠にさまよう笛の音。そう思うとふと結城さんは悲しくなった。 「あの日、僕らは釣り人ではなくて獲物だったのかもしれませんな、笛の音で釣られたのは僕らの方だったんですよ。姿の見えぬ釣り人にね」 結城さんは、にやりと笑った。監修:山口敏太郎
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ミステリー 2018年02月25日 23時00分
【TVでおなじみ山口敏太郎が語る都市伝説】〜おかあさん〜
Rさんは床に転がる一枚の紙を取り上げた。昔の藁(わら)半紙というやつである。「やだわ、またこの紙が落ちている」 彼女は眉をしかめた。ここ数日、気がつくと同じような紙床に落ちているのだ。Rさんは、まるで汚物を拾い上げるように、その紙をゆっくりと摘み上げる。「やっぱり、あの言葉が‥」 みみずが這(は)ったような文字でびっしりと綴られている紙を震える指で確認する。向こうが透けるような薄い紙に、連続する言葉。「おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん」 Rさんは、その紙をくしゃくしゃにすると、ゴミ箱に放り込んだ。「きっ、気持ち悪い、ぞっとするわ」 彼女は両手をエプロンに払うように擦り付けながら、文面を目にしたことを後悔していた。いったいこの手紙を何度読んだことであろう。読むたびに食べたものが逆流するような不快感が胸の奥に渦巻くのだ。紙自体が持つ異様なオーラと、文面からにじみ出る狂気がなんともいえないハーモニーを醸(かも)し出している。「誰かのいたずらかしら」 そう言いながら、室内の鍵に目をやる。ほんの二十分ほど、家を空けていただけなのに、誰がこの紙を置いたのか、密室状態なのに、誰が家に侵入できるのか。「まさか、室内にいるんじゃ」 Rさんは、乾いた喉で言葉を搾り出した。このように「おかあさん」と繰り返し書かれた紙が、いつも気がつくと落ちているのだ。――――捨てても、捨てても 落ちているのだ。そう言えば、この家は妙に安い物件であった。決して高額とは言えない夫の給料で買えた一戸建てであった。(中古にしても、安すぎる) 彼女の不安は、この家の内部に向けられた。そう言えば、この家には妙な空間があった。押し入れや部屋の空間を組み合わせても、つじつまの合わない部分がある。(階段の下、あそこは部屋でもなんでもない) まさか、そこに変質者が隠れているのであろうか。いや、何日間も潜めるはずはない。ならば、秘密の穴でもあるのであろうか。「あそこはベニヤを打ち付けていた…あの向こうに、きっと」 彼女はくぎ抜きを持つと階段下に向かった。これでベニヤをはがし、謎の空間を確かめてやる。もし、不審者が出てきたら、このくぎ抜きで打ち据えてやろう。「よおし、ここだな」 女だてらに日曜大工が得意な彼女は、綺麗に張られたクロスをはがし、巧妙にはめ込まれた厚手のベニヤに打ち込まれた釘を全て抜き去る。(さぁ、何があるのか、楽しみだわ) 彼女がくぎ抜きを口に加え、両手でベニヤを動かすと…。小さな空間が現れた。二畳ほどの空間。「うわぁぁぁぁぁ」 思わずのけぞるRさん―――――その空間の壁面には、びっしりと文字が書かれている。「おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん」「あわわわわわわわわ」 中腰のまま後ろに下がる彼女。彼女の耳に奇妙な声が響き渡った。「おかあさん、おかあさん」 くぐもった子供の声である。「やめて、やめて、わたしは貴方のおかあさんじゃない」 耳をふさぎ、泣き叫ぶ彼女。だが、その子供の声は脳内に直接打ち込まれてくる。「おかあ・さ・ん…」「やめてよ」 彼女が玄関に這い出たとき、こんな言葉が聞こえた。「ご・め・ん・な・さ・い」 その家は、親の虐待で子供が死んだ家であった。 子供は今も繰り返す。「お・か・あ・さ・ん、ご・め・ん・な・さ・い」監修:山口敏太郎
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