果たして、21世紀の現在、犬神は存在するのであろうか。
筆者・山口敏太郎は、大学時代から親の転勤という条件もあり、千葉に移住したが、高校まではずっと四国・徳島県で過ごしていた。高校時代、筆者は徳島県立○○高校という学校に通っていた。旧制中学の流れを組む学校で、生徒も個性的な仲間が集まっていた。後にいしだ壱成とビックバンドを結成する佐藤タイジくんや、尺八の若手奏者で評判の高い原郷界山くんなどがおり、愉快な学園生活をおくっていた。そこで奇妙な事件が起こった。
あえて仮名にするが、小柄な某君が廊下で大暴れをしているのである。仲間数人を両腕で振り回している。もの凄い怪力である。また、その暴れている某君の目があっちの世界にいってしまっている。
「まさか、薬なのか?」
と一瞬思ったが、昭和50年代の田舎高校生の我々に手に入るわけもなく、某君もそんな事をするような人間ではなかったし、非常に平和的な人物なのだ。
唖然としていると、彼はみんなの制止を振り切り、猛スピードで学校から走り出していった。
「一体あれはなんだ?」と彼を制止していた一人の友人に尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
「ああっ、時々ああなるんだよ。ああなると人柄が変わっちゃってどうしようもない。力も人間の力とは思えないし、彼の家は狸を信仰しててね、狸が降りてくると突然山に行きたくなるんだ」
「狸が降りるってそんな馬鹿な、現代日本だぞ、奴だってプロレス好きの普通の高校生じゃないか」
「だっておまえも見ただろう」
この事件に遭遇してから、私の見解は一層深まった。四国はまだまだ日本古来の風習が生きていると。