薄暗い飲み屋でCさんは、得意げにこの話を切り出した。
「中国には”ボール男”という、ボールの中に入る男がいるらしいよ。そうそう、ボール。こいつはさ、サッカーボールやバスケットボールの中に身を隠せるらしい」
「何のために、身を隠すのですか?」
「そりゃ殺しですよ」
「殺しですか、ボール男が殺し屋なんですか」
私は思わず、すっとんきょうな声を上げた。「ボール男」という愛すべきキャラクターと「殺し屋」のイメージがかけ離れていたからである。
「だから、ボール中に潜み、ターゲットの室内に潜入し、ターゲットを暗殺するわけだ。つまり、ボール男は世界で一番小さな暗殺者ってわけ」
「なるほど」
「トランク男、箱男とも言うね。ボール以外にも入れるからさ」
私は想像した。あるターゲットに、ボールが贈られてくる。あるいは、ターゲットの部屋にトランクが届けられる。
「おや、バスケットボールか!だれかのプレゼントか」
「何だって。明日の打ち合わせまで、このトランクを預かってくれだって!!」
そう思うのが普通である。誰がその中に、暗殺者が潜んでいると思うであろうか。
たいがいのターゲットが油断して、室内に入れてしまう。それが死への序曲なのだ。そして、ターゲットが寝静まると…
ボール男はゆっくりとボールの中から出てくるのだ。
ボール男がターゲットを始末すると、再びトランクやボールの中に潜む。
翌日、内部の協力者により、死体発見のどさくさに運び出されるという。
これにより完璧な密室殺人が完成する。
「このボール男って何者なんです?」
「噂じゃ、このボール男は、専門業者が育成しているらしいよ。いや、製造されているといった方が正確かも」
Uさんの話のよると「製造」の方法はこうだ。まず、比較的小柄な子供をさらってくる。
1〜3才の子供がいいと言われている。その子供を陶器に入れて育てる。
手足を出し、体は丁度陶器に収まる感じである。
このまま子供は育成され、暗殺者のボール男として、殺人技を教え込まれるという。
そして、2、3回陶器を取り替えれば、ボール男の誕生なのである。
(監修:山口敏太郎事務所)