愛知県名古屋市中区大須にある大須観音の境内の西側には、そんな抜けてしまった歯と、古くなった入れ歯などを供養する塚「歯歯塚」がある。
歯歯塚の建立された発端は、名古屋市の作家・岡戸武平(1897〜1986)氏が随筆で歯の供養を提案したことにある。これを機に1977年に、大須観音境内に建立された。それ以後、毎年8月8日を「歯歯(母)塚」の日として、『歯歯塚供養祭』が開催され、供養するようになった。ちなみに、「歯塚」ではなく、「歯歯塚」としたのは、上の歯と下の歯と2つあるためである。
歯歯塚の裏側には、故岡戸武平氏が記した碑文が刻まれている。『歯よ、入れ歯よ、よく働いてくれた。不用になったからといって、どうしてお前を捨てられよう。その安住の地が即ちこの「はは塚」である。これからはもう物を噛む必要もない。のんびりとこの塚の中でおしゃべりして休養してもらいたい。その意味で建立されたのがこの塚である。歯よ、入れ歯よ、長い間ご苦労さんでした。』という歯への温かい感謝の言葉である。
毎日おいしく食事ができ、きちんとした会話できて、大きく口を開けて笑えることができるのは、健康な歯や自分に合った入れ歯があるからである。だからこそ、抜けてしまった歯や使わなくなった入れ歯は、長い間、よく働いてくれたことに感謝し、きちんと供養するのもいいだろう。
歯は、かけがえのない体の一部と認識して大切にしたいものである。
(写真:「歯歯塚」愛知県名古屋市中区大須「大須観音」境内)
(皆月 斜 山口敏太郎事務所)