今回おじゃましたのは浅草・雷門前にある「時代屋」。浅草で営業する人力車の中でも老舗中の老舗なんすよ〜。人力車バージンの記者にイロハを教えてくれるのが、浅香晴之先生(27)。日焼けした肌がなんか、かっけ〜。さてイモトネタはこれくらいにしておいて、さっそく着替え。
「股引はキツめに締めたほうが足のラインが出てカッコいいですよ。この世界カッコつけてナンボですから」と先生。最後に手ぬぐいを巻いて、姿だけは粋な車屋さんに変身した。先生、次は車を引く上での注意を!
「特にないですよ。免許は必要なく基本は自転車と同じです。ただ人力車の世界にも浅草は浅草のルールがあります。ナンバープレート付けるのも浅草のルール。入っていい歩道、ダメな歩道。細かなルールを覚えるのも一人前の車夫への道です」
ここ浅草では、個人でやっている店を含めれば約70台の人力車があるという。仲間が多いのは心強い。さっそく挑戦。
人力車を持ち上げようとして、おっとっと! 人を乗せていないのに後方に持って行かれそうになる。気を取り直して歩みだすが、第一歩目がズシリと重い。これじゃ吾妻橋を渡れるかも不安になってきた。そこに先生からアドバイスが。
「人力車は常に重い後ろ側に倒れようとします。そこで、てこの原理で引っ張るというよりは後ろに倒れそうになるのを前に押さえつけるようなイメージでやると、軽い力で自然と走って行くんですよ。だから実は人を乗せた方が楽なんです」
なるほど、車を前に倒す感じで引くとずっと楽になった。さあ、雷門前まで行ってみよう。しかし、走り出してから人力車はかなり幅があることが分かった。道行く人や物、そして幌を建物の屋根にぶつけないよう上にも注意を払わなくてはならない。ぶつけてしまったらどうしよう。
「人力車一台で180万〜200万円くらいですね」と先生。手拭いの隙間から滴り落ちる汗がさらに増えた。
ここでなんというバッドタイミング! 後ろから巨大な「はとバス」が。てんやわんやになりながら何とか道を譲ることができた。バックミラーがないから常に360度に気を配らなくてはならなくて大変だ。
そして、観光客であふれる雷門前を悠然と空車の人力車が駆け抜け、再びスタート地点の店の前へ。その間たった300メートル。はやくもやりきった感でいっぱいの記者は、地べたにしゃがみこんで自作自演の感動のゴールシーン! 先生や見物客に笑われながらも、記者の頭の中には大音量のサライが流れていたことは言うまでもない。
◎突撃後記
伝統ある車屋さんの仕事だが、体力勝負ゆえか平均年齢は約22歳。
脚力自慢の車屋さんたちに一番苦労することを聞くと、それはお客さんを獲得することだと言う。車屋さんはその多くが歩合制の厳しい世界。それでも夢を持ちにくい今の世の中、門を叩いてくる若者は多いそうだ。
浅香先生が車屋さんになった理由も「カッコよかったから」。粋な車屋さんたちは今日も浅草の街を駆け抜けていく。
※取材協力 「時代屋」料金=10分、1人2000円(2人3000円)から。侍や着物などレトロな時代衣装に着替えて写真を撮れるスタジオもあり。人力車に乗っての撮影もOK。年中無休。