社会
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社会 2013年07月05日 16時00分
“完黙”で死刑が覆った殺人事件裁判
2009年11月、東京・南青山のマンションで、飲食店店長・五十嵐信次さん(74=当時)が刺殺された事件で、強盗殺人などの罪に問われた伊能和夫被告(62)の控訴審判決公判が6月20日に東京高裁で開かれた。 ここで裁判長は、一審・東京地裁の裁判員裁判で出された死刑判決を破棄、無期懲役の判決を言い渡した。裁判員制度が始まってから一審の死刑判決が高裁で破棄されたのは、これが初めてだ。 「伊能被告は事件前、'09年の5月に旭川刑務所を出所し、上京して複数の建設会社で働いたものの、長くは続きませんでした。結局、生活保護をもらいながら社会福祉施設に居住していたのですが、事件の日に姿を消したんです。そもそも、なぜ旭川刑務所に入っていたのか。それは、家族を殺害した前科があるからなんです」(司法記者) '88年、伊能被告は妻を刺殺して自宅に放火。子供を焼死させ、殺人や放火などの罪で懲役20年の判決を受け、服役していたのである。一審では、この前科が重視されたのだが、控訴審でははそれを“前科を過度に重視しすぎた”として突っぱねたわけだ。 「とはいえ、肝心の伊能被告は完全否認でありながら、一審からずっと“完全黙秘”。罪状認否でも何も答えず、自分の名前すらも言わなかったのです。そんな調子ですから、被告人質問では何を聞かれても一言もナシ。控訴審にも出廷せず結審となり、今回の判決にも居合わせていないんですよ」(同) それにもかかわらず、一審で死刑となったのが高裁では無期懲役と、伊能被告は最初からこれまで何も語っていないのに判決だけがコロコロ変わってしまったのだ。この現状には、無言ながら当の本人が心の中で一番ビックリしてるのかも?
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社会 2013年07月05日 11時45分
大阪産業大の元理事が孫を職員に採用するよう学園に強要
大阪府警四條畷署は7月2日、大阪産業大(大阪府大東市)の職員採用試験に落ちた孫を採用するよう、大学幹部を脅したとして、同大の元総務部長で元理事・北山貞夫容疑者(83=同府松原市別所)を、強要未遂の疑いで逮捕した。おおむね容疑を認めているという。 逮捕容疑は、12年11月26日、大産大に電話し、応対した総務部長(59)に「試験で不正があったことを知っている。腹くくっとけ」などと、職員採用にあたって、不正があったかのような情報を言いふらす旨を告げて脅し、孫の採用を求めたとされる。同時に、「不適切な入試疑惑を公表する」とも脅したという。 大学側は北山容疑者の要求に応じず、総務部長が3月に同署に刑事告訴した。 同署によると、北山容疑者は、大学で1年契約の事務員として働いていた孫が、正職員の専任登用試験を受けたものの、不合格になったため立腹して、犯行に及んだという。 北山容疑者は90年4月から同大に勤務し、93年4月〜98年3月まで総務部長を務め、理事職にも就いていた。 同大を巡っては、今年3月、09年度に入学意思のない付属高校の生徒に、やらせ受験させたことが発覚。同大が設置した第三者調査委員会が6月、付属高校が生徒9人に受験を依頼し、1回5000円の謝礼を渡したとする調査報告書を公表。「やらせ受験」を認めたが、大学側の関与は認定しなかった。北山容疑者は、孫の採用を強要した総務部長に対して、電話でこの問題の公表もほのめかしていた。 同大広報課では「職員採用試験に不正はなかったと認識している」と話している。(蔵元英二)
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社会 2013年07月05日 11時00分
顧客争奪戦勃発 一時閉店“空白の4年“が不安な銀座『松坂屋』
東京銀座最古のデパート・松坂屋銀座店が、建て替えのため6月末で営業を終了した。2017年3月の新装開業を目指しているが、その“空白期間”は実に4年近くに及ぶ。 松坂屋銀座店は、売上高でこそ後発の銀座三越、松屋銀座の後塵を拝しているものの、老舗だけに昔からの“お得意さん”が数多くいる。だからこそ、最寄りのJR有楽町駅周辺の阪急やルミネ、プランタン銀座などもこぞって、この4年間を“切り崩し”のチャンスと捉えている。 むろん、松坂屋も手をこまねいてはいない。銀座店を利用していた顧客には、松坂屋上野店や同系列の大丸東京店で割引サービスするなど“つなぎとめ作戦”を実施する構えだ。 「とはいえ、やはり4年間の空白は長い。今や一帯は日本一の商業激戦地です。根っからの松坂屋ファンだからといってジッと再開を待つとは思えません。松坂屋を外商で利用していた企業の大半は“銀座の老舗ブランド”だからこそ重宝していた。百貨店である限り、それこそ“お隣り”の商品が大きく変わるわけではないのですから」(関係者) 工事が異例の長期間に及ぶ理由は、場所が銀座のド真ん中に位置し、買い物客や交通への影響を考慮しなければならないためだ。地上13階、地下6階の複合ビルに生まれ変わり、うち地上6階・地下2階部分が松坂屋の入る予定の商業施設で、その床面積は銀座三越を抜き、この界隈では最大規模となる。前出の関係者は、こう苦笑する。 「晴れて再オープンにこぎ着けたはいいが、広い店内に閑古鳥が鳴いていたら天下の笑いものになる。松坂屋を経営するJ・フロントリテイリングは『松坂屋が入居するかどうか決めていない』と予防線を張るくらいですから、まさにこの4年間が勝負です」 安倍首相が唱えている「年収150万円増」が実現されれば、それほど心配する話でもなさそうだが…。
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社会 2013年07月04日 19時00分
AKB総選挙の裏で中国サイバー攻撃
「政府は公表する気がないようですが、AKB総選挙が行われた6月8日、日本はその混乱に乗じて中国から大規模なサイバー攻撃を仕掛けられていました」 米国の企業や政府機関へのサイバー攻撃を巡り、米中両国の溝が深まっているが、「サイバー戦争」の脅威は既に現実化しつつあり、日本も標的にされていたというわけだ。 「完全な狙い撃ちです。AKB総選挙当日は、海外からのアクセスが大量にあっても不思議ではない事が、前年までの総選挙で知られている。それに目をつけた中国のハッカーたちがAKB関連のアクセスと偽装して、多方向から情報を抜き取りにきたのです。官公庁から企業の機密情報まで、かなりの情報が抜き取られたのは間違いない」(IT系に詳しいジャーナリスト) 木は森に隠せ…の諺があるが、AKB総選挙時のファンたちの大量アクセスや書き込みはハッカーからしてみたら森のようなものか。 「しかも被害に遭った官公庁や企業は、情報を抜き取られた痕跡は発見できるものの、何を抜き取られたのかがわからない。判明したとしても抜き取られた後では、どうにもならないのが実情です。こうして漏れた情報は、人海戦術で解析され、日本の技術も日本政府の重要機密も中国にいいように利用されてしまう」(同) 日本の総務省所管の独立行政法人情報通信研究機構によると、昨年は約77億7000件もの(民間のシステムに対するものを含む)攻撃と、不審な通信を受けたという。 「昨年9月には水道施設のシステムが遠隔操作を行えるウイルスに感染させられました。インフラシステムが狙われた場合、国民生活に影響するだけでなく、原発など原子力施設では生命に危険を及ぼす事態にもなりかねません」(前出のジャーナリスト) 無防備な日本は、来年のAKB総選挙で大規模なサイバーテロを起こされても不思議ではない。
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社会 2013年07月04日 19時00分
ブラック企業「ワタミ」渡邉美樹氏が反面教師? 外食産業“俺のシリーズ”社長の這い上がり人生
東京・銀座の『俺のイタリアン』をはじめ“俺のシリーズ”の外食産業を運営する『俺の株式会社』が株式上場を視野に入れていることが明らかになった。 「“俺のシリーズ”の売り上げはどの店も順調です。オーナーでもある坂本孝社長が『来年秋には上場を予定している』と話しています」(経済ジャーナリスト) もともと坂本社長は中古本販売チェーン「ブックオフ」を展開する『ブックオフコーポレーション』の創業者だったが、退社し外食産業を経営する『バリュークリエイト』を'09年に設立した。 「'07年、坂本氏はブックオフの取引先だった丸善から約7億4200万円のリベートが発覚し、同時に、社員へのセクハラとパワハラを告発されて会長職を辞任。退社後に『バリュークリエイト』を設立して、外食産業に参入したんです。京セラの稲盛和夫氏の『盛和塾』の塾生だけあって、転んでもタダでは起きません」(同) “俺のシリーズ”は銀座界隈を中心に『俺のイタリアン』『俺のフレンチ』『俺の焼肉』『俺の割烹』『俺の焼き鳥』などを展開。昨年11月には『バリュークリエイト』から『俺の株式会社』に運営を引き継いだ。 「急成長の要因は高級食材を使って一流シェフの料理が一品あたり1000円程度で味わえることです。聞けば、イタリアンの原価率は40%が一般的なのに、異例といわれる原価率60%に設定しているというじゃないですか。店頭には夜9時なのにOLやサラリーマンらが列を作っていますし、羨ましい限りですよ」(銀座のクラブ美人ママ) 人材派遣会社を通じて一流店で働くシェフをヘッドハンティング。店によって異なるが、売り上げのパーセンテージをギャラとして支払っているという。 「従業員にはストックオプション(新株予約権)もあるからやりがいがある。“365日24時間死ぬまで働け”としてブラック企業と指摘される居酒屋チェーン『ワタミ』の渡邊美樹会長(6月27日辞任)に爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいです」(フードライター) ブラックの汚名はもう着たくない?
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社会 2013年07月04日 15時00分
『嵐』櫻井パパが総務審議官に昇格 事務次官に王手をかけた裏事情
総務省が前代未聞の驚愕人事を発令、省庁間で衝撃が走っている。 小笠原倫明事務次官(59)が退任。後任に総務省傘下の消防庁長官の岡崎浩巳氏(60)を充てる人事を決めた。 次官はだいたい“次官待ちポスト”と呼ばれる総務審議官を経て就任する。今回のように、外に出た消防庁長官からいきなり次官に昇格したのは稀だ。'05年に次官に就いた林省吾氏以来である。 驚くのは、これだけではない。 芸能マスコミが注目していた櫻井俊情報通信国際戦略局長(59)の異動だ。その人物こそポップグループ『嵐』櫻井翔の父親である。 「その櫻井氏が総務審議官に昇格になりました。櫻井氏とともにメディア3局の一つ、情報流通行政局長の吉崎正弘氏(60)も一緒です。この2人のうちのどちらかが次の次官になるといわれています」(総務省事情通) 櫻井氏は東大法学部卒。'77年に旧郵政省に入省し、情報通信分野のプロとして業界に睨みをきかしていた。官房総括審議官、総合通信基盤局長を経て'12年9月、情報通信国際戦略局長に就いていた。 桜井氏といえば、選挙に出るという噂もあった。なぜ、あきらめたのか。 「出馬の噂が流れていたのは昨年のいま頃。ただ、櫻井氏と親しい安倍晋三が総理になり、将来的に事務次官をやって欲しいと伝えてきたという。櫻井氏にとって風向きが変わったのです」(霞が関関係者) たしかに、櫻井氏は事務次官に近いといえる。総務省は'01年に自治省、郵政省、総務庁の3省が合併してできた。そのためそれぞれの出身者が輪番で次官を選んできた。となれば、前次官の小笠原氏は郵政畑。そして自治省出身の岡崎氏が続く。そうなると次は総務庁だが、この役所出身者は無視されるケースが多い。 「次はまた郵政ですよ。そうなると櫻井氏と吉崎氏にしぼられる。知名度、実力からいって櫻井氏になる可能性は高い」(霞が関ウオッチャー) 櫻井氏が次官就任となれば、総務省も華やかな官庁に変わりそうだ。
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社会 2013年07月04日 11時45分
JR西日本の駅員が寝坊し、始発電車までに自動券売機が利用できず
JR西日本は7月2日、関西線・久宝寺駅(大阪府八尾市)で、1日早朝に宿直明けの男性駅員(24)が寝坊し、始発電車までに自動券売機が使えない状態だったと発表した。2日朝に乗客から、「昨日の早朝、自動券売機で切符が購入できなかった」と申告があり発覚した。 同社によると、久宝寺駅の駅員は本来、午前4時10分までに起床し、4時30分までに券売機前のシャッターを開けなければならないが、寝坊したために、4時50分発の難波行き始発電車までに、シャッターが開けられず券売機が使えない状態だった。 久宝寺駅の駅員は起床後、隣の八尾駅に起床連絡を入れるのが規則になっているが、連絡がなく、電話も出なかったため、八尾駅の駅員が久宝寺駅に向かい、シャッターを開けた時は始発が出た後の4時52分だった。 寝坊した駅員は、シャッターを上げた際の警報音で目が覚めたという。 自動改札機はタイマーにより4時頃から利用可能であったため、約25名いた乗客のほとんどは定期券などで自動改札を通った。 ホームなどに設置した防犯カメラなどで確認したところ、始発電車に乗り遅れた乗客はいなかったが、切符が購入できなかったという申告があった乗客が1名いた。 駅員は「乗り遅れた乗客がいなかったので、報告しなくていいと思った」として、上司に報告していなかったが、乗客からの通報で発覚。駅員は寝坊の理由を、「仕事で疲れていた」と話しているという。 同社では「指導教育を徹底し、同様の事象を2度と発生させないよう努めてまいります」とコメントした。 人間である以上、寝坊に限らず、何が起きるか分からない。再発を防止するためには、たとえ小さな駅であっても、宿直または始発時の対応人員を2人以上の体制にする必要があると思われるのだが…。(蔵元英二)
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社会 2013年07月03日 11時45分
インターネット上のサイトにイチモツ画像投稿した塾講師、会社員らを逮捕
京都府警サイバー犯罪対策課などは、インターネット上のサイトに自身の下半身を露出した動画を投稿した男を次々に摘発した。 まず、同課などは6月26日、わいせつ電磁的記録媒体陳列の疑いで、愛知県名古屋市千種区幸川町の塾講師の男(28)を逮捕した。男は容疑を認めている。 男の逮捕容疑は4月16日、地下鉄の駅のトイレ内で女装した上で、自身の下半身を露出している動画を、パソコンから動画サイト「FC2動画」に投稿し、不特定多数が閲覧できる状態にしたとしている。 男は12年1月〜13年5月、アニメキャラクターの衣装やかつらなどで女装して撮影した自身のわいせつ動画計29本を投稿していたとみられる。府警は同日、男の自宅から女装セット20点などを押収した。 府警によると、男は「閲覧者の反応が面白くて続けてしまった」と供述している。 その他に同日、府警は同サイトに同様の投稿をしたとして、同容疑で塾講師の男のほかに、23〜43歳の男3人を逮捕し、少年(19)1人を補導した。 また、同課などは7月1日、女装して同サイトで下半身を露出したわいせつ画像を公開したとして、同容疑の疑いで、京都府京都市右京区太秦開日町の会社員の男(49)を逮捕した。 同署によると、男は「自分のモノを見てもらいたかった」と容疑を認めている。 男の逮捕容疑は、1月6日頃、自宅のパソコンから、自身の下半身を露出しているわいせつ画像1枚を無料ブログサイト「FC2ブログ」に投稿し、不特定多数が閲覧できる状態にしたとしている。 同署によると、男は自身でブログを開設し、化粧をして女装した上で、下半身を露出するなどしたわいせつ画像を公開していた。 いずれの件も、府警が実施したサイバーパトロールで発見した。(蔵元英二)
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社会 2013年07月03日 11時00分
“NHKのドン”に危険な動き ネット配信にも課金する意向
NHKのドン・松本正之会長が危険な動きをみせ、物議をかもしている。 きっかけは、次のような記事だった 『総務省はNHKによるインターネット事業を拡大する検討に入った。NHKが新たなネット事業を始める際の許認可手続きを来年にも簡素化する。ネット利用者の増加に対応し、災害放送やスポーツ中継をパソコンやスマートフォンなどで視聴できるようにする。早ければ来年の通常国会に放送法の改正案を提出する』(日経新聞'13年6月20日付) 簡単に言えば、NHKは今後、これまで以上にネットで映像を配信し、視聴できる人々からは受信料をもらうという“戦略”なのだ。 「NHKがもくろんでいるのは、パソコンはいうまでもなく、スマホ、カーナビ、タブレット端末などの利用者から課金しようという策謀です。何百億の市場ですよ」(NHK関係者) 昨年2月に設立した『メディア企画室』を拡充させ、徴収・集金手法を検討していく方針だ。 これに対し、井上弘民放連会長(TBS会長)は「配慮を求む」とだけ注文を出しているが、その効果はまったく表れていない。 問題なのは、NHKの集金人がパソコンを所有する視聴者をいかにつきとめるか、である。 いまはWiFiが普及してきており、家屋の外で目立っていたネット用の配線も減ってきた。 集金人は、視聴者の家に許可なく上がり込むわけにもいかない。家電量販店と組んでパソコン所有者を把握するのだろうか。 迷走巨大組織であるNHKの動きは要注意だ。(編集長・黒川誠一)
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社会 2013年07月02日 15時00分
世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第33回 規制緩和とは何なのか?
長引くデフレに苦しむ日本経済を成長させる、具体的には「GDPを増やす」ためにはどうしたらいいだろうか。 簡単である。金融政策と財政政策のポリシーミックスにより、政府主導で国民経済の「本来の供給能力(潜在GDP)」と「現実の需要(名目GDP)」とのマイナスの乖離、いわゆるデフレギャップを埋め、デフレから脱却すればいいだけだ。余りある供給能力を「使い切れる」ように、政府が需要を拡大するためにおカネを使うのである。すなわち、 「日本銀行が通貨を発行し、政府が国債発行で借り入れ、雇用や所得が生まれるように使う」 アベノミクスの第一の矢と第二の矢は、方向性としては間違いなく正しい。 問題は、第三の矢である。内閣官房参与の浜田宏一教授は「3番目の矢の成長戦略、これは生産能力を拡大しようというものだ」と述べていたが、その通りである。成長戦略と称される第三の矢は、規制緩和が中心になっている。 規制緩和とは、文字通り政府の規制を緩和し、特定の産業分野への参入障壁を減らし、新規参入を増やす政策だ。新規参入が増えると、競争が激化し、潜在GDPが拡大し、生産能力が増え、物価が下がる。 現在の日本にとって、競争を激化させ、物価を抑制する政策は正しいだろうか。 日本が「需要が供給能力を上回る」インフレギャップの状態にあれば、規制緩和による潜在GDP拡大は国民経済の成長に大きく貢献する。競争激化で生産能力が拡大しても、買い手、顧客(需要、名目GDP)は十分に存在するわけだ。とはいえ、現実の日本はデフレだ。 デフレの国が規制緩和で生産能力拡大をめざし、一体、何をしたいのだろうか。現在の日本が潜在GDPを引き上げると、供給能力が不要に(=需要がないにもかかわらず)増大する結果となり、デフレギャップは拡大する。結果、企業倒産や失業が増加し、肝心の需要(名目GDP)がますます抑制されてしまう。 マスコミでは「成長戦略こそが肝心」などと報じているが、「成長戦略」の中身が規制緩和中心である限り、間違っている。デフレ期の国が規制緩和で生産能力を拡大すると、デフレが深刻化するだけだ。アベノミクスの第三の矢は「成長抑制策」なのである。 もちろん、筆者は別に「規制緩和は常に悪」などと言いたいわけではない。とはいえ、政府の存在目的が「規制緩和」でないことも、また確かなのである。政府の目的は「経世済民」だ。すなわち「国民を豊かにするための政策を打つこと」こそが、政府の目的なのである。国民を豊かにすることができるならば、規制緩和も善となる。規制緩和はあくまで「手段」であり、目的ではない。 別の言い方をすれば「国民を貧しくしてしまう規制緩和」は、間違っているとしか言いようがないのだ。何しろ、政府の目的である経世済民に反している。 '89年の日米構造協議以降、日本では様々な規制緩和が行われた。その中でも、特に「間違っていた」と断定できる事例をご紹介する。 1990年に物流二法(「貨物自動車運送事業法」及び「貨物運送取扱事業法」)が施行され、我が国の運送事業における規制が大きく緩和された。 それまでの我が国の運送事業は、基本的に運輸省による免許制であり、新規参入時には最低20台の車両台数が必要だった。1台数百万円の貨物トラックを20台揃えなければ、運輸省の免許をもらえなかったのだ。これは確かに、参入障壁が高い。 というわけで、'90年に物流二法を施行し、免許制を認可制に改め、最低車両台数は5台に引き下げられた。さらに、それまでは認可制だった運賃も、届け出制に変更された。参入障壁を引き下げ、運賃の自由化を推進したわけだ。 結果、運送業界では確かに新規参入が相次ぎ、日本の貨物自動車運送事業者数は約4万社から約6万社に増えた。業者数が1.5倍になり、道路貨物運送サービス価格は下がり始めた。 とはいえ、1990年とはまさにバブルが崩壊を始めた年である。バブル崩壊で「需要」が減少する中、規制緩和で業者数が増えた結果、何が起きたか。 特に、1998年のデフレ本格化以降、運送サービス価格の下落率以上のペースで、道路貨物運送業の賃金水準が落ちていったのである。ピークから見ると、運送サービス価格の下落率は6%ほど下落した。それに対し、賃金水準の方はと見れば、一時('09年)は17%超も落ち込んでしまったのだ。 物価の下落率以上のペースで、所得(賃金)が下がる。まさにデフレ期の特徴であるが、'90年の運送事業の規制緩和は、同業界で働く人々を間違いなく「貧しく」してしまった。 確かにサービス価格は下落したが、'90年の運送事業の規制緩和は「経世済民」の目標を達成したと言って構わないだろうか。そんなわけがないのである。 繰り返すが、規制緩和は単なる手段であり、目的ではない。そして、規制緩和とは新規参入を増やすことで「価格を下げる」ことを目指す政策だ。 デフレ期、つまりは「物価の上昇」を実現しなければならない時期の規制緩和は、本当に正しいのだろうか。間違っていない、と強弁する人には、是非とも「デフレ期に規制緩和をしても、働く国民の所得は下がらない」というプロセスを、論理的に説明して欲しいものだ。三橋貴明(経済評論家・作家)1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。