社会
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社会 2013年09月26日 18時00分
いまだ対策が後手の福島第一原発
先ごろ、福島第一原発で4月に汚染水が漏れた地下貯水槽が、最大40センチ浮き上がっていることが判明した。周囲を流れる地下水により浮力が生じたことが原因と考えられている。 「東電によれば、浮き上がったのは縦56メートル、横45メートル、深さ6メートルの3号貯水槽。汚染水漏れの発覚で、溜めていた汚染水を地上タンクに移送して空の状態でした。3、4号貯水槽は、いずれも1〜4号機の建屋の山側にあり、1日1000トンの地下水が流れている。貯水槽周辺の地下水位は、4月から1メートル程度上昇していたといいます」(社会部記者) 今後東電は、地下貯水槽の上に50センチほどの砂利を敷き重しにするという。ゲリラ豪雨などで急に地下水位が上がった場合は、地下貯水槽の周囲の井戸から地下水を汲み出し、別の地下貯水槽に移す計画だ。 「地下水から高濃度の放射性物質が確認された海側一帯は、原発を建設した50年前に砂岩などで埋め立てられたため地盤が緩い。遮水壁によって敷地内に水が溜まると、1〜4号機周辺が液状化する恐れが十分にあったのです」 高濃度の汚染水が原発前の港から外洋に流れ出れば、海外の顰蹙を買うばかりか損害賠償を請求されかねない。 「これが日本海なら韓国、中国からの損害賠償も考えられますが、太平洋側で幸いした。しかし、何万ベクレルの汚染水も太平洋に入ったら薄められ、どこへいったかわからなくなる。グリーンピースなどの団体が騒ぎ出し、外圧が強まる可能性もあるのです」(ジャーナリスト・窪田順生氏) 奇しくも東京電力は、9月18日に襲った台風18号で、地上タンクの堰に溜まった雨水を原子力規制庁の了承を得ず、排水し問題となった。“後手”の状態はいつまで続くのか。
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社会 2013年09月26日 11時45分
警視庁田無署の巡査がパトロールさぼって交際女性宅で実弾入り拳銃見せる
警視庁組織犯罪対策5課は9月20日、勤務中に交際していた女性宅で、実弾入りの拳銃を見せたとして、銃刀法違反(加重所持)の疑いで、田無署地域課の男性巡査(23)を東京地検に書類送検した。巡査は同日、停職3カ月の懲戒処分となり、依願退職した。 同課によると、巡査は「何度も見せてほしいと頼まれた。黙っていれば分からないと思った」と供述し、容疑を認めている。送検容疑は、パトロール勤務中の6月24日午前0時半頃、東京都東久留米市内の20代の交際女性宅で、職務上、必要がないのに、実弾5発が入った拳銃を取り出して見せたとしている。女性にも数秒間、拳銃を触らせていたが、主体的に所持したわけではないとして、女性の立件は見送られた。 巡査は同課によると、5月中旬、同市内で女性が交通事故を起こしたのをきっかけに交際を始めた。同月下旬〜7月上旬の10回、一人でパトロールに出たときに、勤務をさぼって女性宅に立ち寄り、コーヒーを飲んだり、たばこを吸ったりしていたという。女性の親族が7月中旬、同署に男との交際のもつれなどを相談して発覚。女性の携帯電話に男の制服姿の写真が残されていた。 警視庁警務部の池田克史参事官は「警察に対する信頼を失墜させる行為で、厳正に処分した」としている。実弾入りの拳銃を見せたことも問題だが、それより、パトロールをさぼって、交際女性宅で休憩していたことの方が問題だと思われるのだが…。(蔵元英二)
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社会 2013年09月25日 11時45分
「カード現金化」商法で違法金利で貸し付けた金融業者を摘発
警視庁生活経済課は9月20日までに、クレジットカードで販売した商品を買い戻して「現金化」する手口で、違法金利で融資をしたとして、出資法違反(高金利違反の脱法行為)容疑で、貸金会社「朋友エンタープライズ」(東京都渋谷区)の元社長の男(60=東京都目黒区八雲)と、従業員の男女計10人を逮捕した。 逮捕容疑は12年2〜11月、同社が実質的に経営する天然石販売サイトで、千葉県の60代の女性ら6人が購入した石を買い戻したように装い、現金計約690万円を、出資法で定める金利の上限(1日あたり0.3%)の1.6〜5.4倍の高金利で貸し付け、利息計約110万円を受け取った疑い。 逮捕された10人のうち、元社長の男を含む9人は、「商品の買い取りをしただけ」などと供述し、容疑を否認している。 同課によると、元社長の男らは、原価45円程度の天然石を数十万円で販売。客にクレジットカードで購入させ、決済した金額の85%程度の現金を客に渡していた。販売価格は融資額に応じて、変動させていた。 元社長の男らは10年4月から12年11月の間、こうした方法で、多重債務に苦しむ全国の顧客75人に、法定金利の9〜29倍の高金利で金を貸し付け、約1500万円の利益を上げたとみられる。 実際には客に購入した石は渡されず、帳簿上も売買の形跡がないことから、同課は当初から融資目的で天然石販売の通販サイトを運営していたとみている。(蔵元英二)
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社会 2013年09月25日 11時00分
インタビューでのフジ日枝会長 「素晴らしい経営者」を強調
期待はずれのインタビューとは、このことではなかろうか。 月刊『文藝春秋』10月号に掲載された『TV界のドン 日枝久会長インタビュー フジテレビはなぜダメになったのか』である。インタビュアーは森功氏(ノンフィクションライター)。 視聴率不振の背景、社長に亀山千広氏を選んだ理由、ライブドア事件の顛末、安倍晋三政権との関係などが質問内容。肝心の韓流寄りの影響については触れていない。条件付きの取材だったのかもしれない。 視聴率首位から4位に転落しても責任はとらず「会長」として君臨する日枝氏。保有株式数は1800株程度で、なぜそうした“人事”が可能なのか。それについて、日枝会長はこう示唆している。 〈『あの野郎、長くいやがって』という声も聞こえてきますし、実際、長いといえば長い〉 〈『長すぎる』『まだ経営基盤ができていない』という両方の声がありますが、そのどちらが正しいかを判断するのは僕です〉 こう答えた後の日枝会長に対し、突っ込み、たたみかけの質問はなかった。たとえば、重要ポイントである視聴率低迷の詳しい分析や理由、会長として辞任するタイミングとはどういう時か、などである。残念というしかない。 そして、質問は安倍政権との関係に移っていく。結局は、安倍首相とのゴルフ談議にはぐらかされてしまっていた。 結論を急げば、自分が正しいと考えたらいくらでも続投する、という考えらしい。まるでフジ・メディア・ホールディングスは自分の会社、とでも言いたげである。 〈経営判断基準は単に視聴率だけではありません。総合的な売り上げと利益です。六千三百億円ある連結売上げが来年は六千四百億円になる予定です。他社に比べ二千億円以上上回ると思います〉 要するに日枝会長は、自分がいかに素晴らしい経営者であるかを印象づけたインタビューだった。 今後も、老獪な会長の言動には注目である。
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社会 2013年09月25日 11時00分
トヨタ、ホンダ意地と面子 HV(ハイブリッド)車最終戦争
ハイブリッド車(HV)を巡るトヨタとホンダの覇権争いが熾烈になってきた。 トヨタへのライバル心をあらわにするホンダは9月6日、6年ぶりに全面改良した小型車「フィット」と「フィット ハイブリッド」を販売した。関係者の注目を集めたのは「フィットHV」の燃費性能が、ガソリン1リットル当たり36・4キロメートルと、トヨタの小型HV「アクア」(35・4キロメートル)を抜き、世界のトップに躍り出たことだ。最低販売価格は163万5000円で、これまたアクアの169万円より安く抑え、金額と燃費性能の両面で優位性を鮮烈にアピールした格好だ。 これを踏まえて発表会見の席で伊東孝紳社長は「燃費はまだまだ伸ばせる」と胸を張り、トヨタへの敵対心をむき出しに「技術で負けないのがホンダの企業文化だ」とまで言い切った。 そんな意地の表れか、ホンダはフラッグショップモデルの「レジェンド」や、かつて一世を風靡したコンパクトハッチの「シティ」、さらに唯一無二のスポーツカー「NSX」までもHV車として復活させる。 HVで先行するトヨタ追撃に、ホンダが目の色を変える理由は明白だ。ホンダはトヨタの「プリウス」打倒に向け、2009年に「インサイト」を投入した。ところが、それをいち早く察知したトヨタは、プリウスの価格を一気に40万円も引き下げたばかりか、HV技術の優位性をうたう戦略をとり、インサイトの出鼻をくじくことに成功した。 緒戦での惨敗によるダメージは大きく、HVの国内市場でホンダが2割にとどまるのに対して、トヨタは8割近くを占めている(昨年実績)。何せ世界の累計販売台数はトヨタが500万台を突破、昨年1年間だけでも世界で約122万台を販売しているのとは対照的に、ホンダは累計で111万台にすぎないのだ。 そんな現実を痛感すれば、伊東社長が“燃費世界一”のフィットを投入するに当たってトヨタへ大見得を切ったのもわからなくはない。 とはいえ「HVの本家」を自負するトヨタも負けていない。ホンダが野心作を投入してから3日後の9月9日、トヨタは高級セダン「クラウン」シリーズの新型HV車「マジェスタ」を販売した。1991年の投入から6代目にして初のHV専用車で、同社自慢の最高級シリーズであることから価格は610万円〜670万円。従来のガソリン車に比べて1リットル当たりの燃費は2.1倍の18.2キロメートルに伸びた。 顧客対象が前述したホンダのフィットとは全く違うにせよ、「売られたケンカは買って出る」の姿勢が鮮明だ。 「ホンダ以上に、トヨタは高級車に加えて量販車でも次々とHV車を投入する計画を立てています。フィットに燃費で出し抜かれたアクアの改良車だけでなく、カローラの投入も囁かれている。御曹司の豊田章男社長はHVへの思い入れが強く、燃費世界一の座を奪回すべく早々にゲキを飛ばしています」(トヨタ関係者) だが、HVの技術開発は自動車メーカーにとって“大いなる金食い虫”とされている。開発には膨大な資金が不可欠で、普及したとはいえHVの国内シェアは現在も20%弱程度にすぎず、これでは採算がとれない。海外展開が急務とはいえ、「まだ依然としてガソリン車の天下」(情報筋)とあっては、将来の海外戦略も描きにくい。 GM、フォードなど海外のライバルはHVで出遅れていることから「ここで下手に環境車としてHVの魅力をアピールすれば、トヨタ、ホンダの利的行為に直結するとの警戒心がある」と、自動車担当の証券アナリストは解説する。言い換えれば、まだHV技術を武器に世界に打って出る環境が整っていない以上、国内を中心とする狭い市場でパイの奪い合いを続けざるを得ない。そこにトヨタ、ホンダの限界が透けてくる。 「確かに欧米ではHVへの関心が高まっています。ところがトヨタは相変わらずリコール騒動が続いている。9月4日にはハリアーハイブリッドなど、HV車約1万5千台を『電子部品が加熱して損傷し、最悪の場合に走行不能になる』としてリコール。さらに9月9日には、米国とカナダで販売したスポーツ用多目的車に部品の不具合があるとして約78万台をリコールした。これが日の丸HV車全体への不信感を招いているのです」(業界関係者) これでは、3年前に全米を揺るがしたリコール騒動の記憶が払拭できるわけがない。 「究極のエコカーは水素と酸素を化学反応させて電気をつくる燃料電池車で、HVは“つなぎ”の役目とされている。これもHVの世界普及を妨げている要因です」(前出・アナリスト) それを尻目に国内の覇権争いに目の色を変えるトヨタとホンダを、世界は「コップの中の最終戦争」と冷ややかに見ているようだ。
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社会 2013年09月24日 11時45分
男装した女子中学生がオレオレ詐欺の「受け子」をして逮捕される
警視庁多摩中央署は9月19日、東京都西東京市の女性から現金をだまし取ったとして、詐欺容疑で、いずれも東京都足立区の中学3年の女子生徒(15)と、高校1年の女子生徒(16)を逮捕した。ともに容疑を認めているという。 逮捕容疑は8月26日、何者かと共謀し、オレオレ詐欺の手口で、西東京市の無職女性(76)から現金400万円をだまし取った疑い。 同署によると、女性宅には息子を装った男から「会社の通帳が入ったカバンをなくした。400万円を用意してほしい。担当者が取りに行く」と電話があった。その日のうちに女子中学生が女性宅で現金を受け取り、女子高校生は近くで見張りをしていたとされる。 その際、女子中学生はスーツにネクタイ姿で、髪をオールバックにし、胸にさらしを巻いて男装していたが、女性は女とは気付かなかったという。 2人は地元の遊び仲間で、女子中学生は8月30日、東京都稲城市の女性(55)から同様の手口で現金をだまし取ろうとして、詐欺未遂容疑で現行犯逮捕されている。同署では他にも数件、女子中学生らが「受け子」を行っていたとみて調べを進める。 また、同署では2人の少女のバックに、組織的な詐欺グループがかかわっているとみて捜査している。 最近、オレオレ詐欺の「受け子」役を務める少年少女が多い。簡単に金が稼げるという安易なアルバイト感覚だろうが、そういった犯罪に手を染めたら、取り返しがつかなくなることを認識してほしいものだ。(蔵元英二)
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社会 2013年09月23日 17時59分
愛知県警の警部が暴力団とつながりがある風俗店グループに捜査情報漏えい
愛知県警捜査2課は9月19日、指定暴力団山口組弘道会とつながりがある風俗店グループに、捜査情報を漏えいしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで、県警捜査1課の警部の男(55=同県長久手市桜作)を逮捕した。 逮捕容疑は昨年8月28日頃、弘道会と密接な関係があるとされる風俗店グループ「ブルーグループ」の実質経営者の男(56)=脅迫罪などで公判中=の依頼を受け、県警蟹江署の刑事課に設置されていたパソコン端末を操作して、自動車の車両情報を照会し、使用者の氏名や住所を男に伝えた疑い。 県警によると、当時、弘道会に対する捜査の一環として、男の周辺を調べていたが、それを察知した男が、周辺で見かけるなどした車が捜査車両かどうかを、警部に頼んで確認しようとした可能性がある。 警部は調べに対し大筋で容疑を認め、男とは「99年頃、知人の警察官から紹介された」と話しており、10年以上の親交があったようだ。 男は同県名古屋市を中心に、約20店の風俗店などを経営しており、県警は弘道会の有力な資金源とみている。男は10年7〜8月、弘道会の資金源を捜査していた県警の警察官を電話で脅迫したとして、逮捕、起訴され公判中。 警部は76年に警察官となり、殺人や強盗などの事件を担当する捜査1課に長く所属し、現在は強行班の班長を務めている。県警では警部が、男が経営するキャバクラなどで接待を受けていた可能性があるとみて、調べている。 県警の伊藤昇一警務部長は「警察官がこのような事件を引き起こし、県民の皆さまに深くお詫びを申し上げる。捜査結果を踏まえて厳正に対処する」と謝罪した。(蔵元英二)
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社会 2013年09月23日 11時00分
テレビ局はコネ入社を見直せ! みのもんた次男逮捕の重大性
テレビ局のコネ採用の弊害が出てきた。 みのもんた(本名・御法川法男)の次男で日本テレビ勤務の御法川雄斗(31)が、窃盗未遂容疑で逮捕され波紋を広げている。 容疑は8月13日午前1時10分ごろ、港区新橋の『ローソン新橋五丁目店』で、不正に入手した他人名義のキャッシュカードを使って現金を引き出そうとした疑い。 みのには2人の息子がいる。慶応アメフト部出身の長男はTBSの制作畑勤務。その入社も、決まっていたにもかかわらず、単位が足らなくてぎりぎりまでもめたという。 そして、今回逮捕されたのが日本テレビ勤務の次男で、スポーツ局(サッカー番組担当)に在籍している。その次男は明らかにコネ入社といえよう。 「次男が入社した8年前はみのの全盛期。日本テレビの『午後は○○おもいッきりテレビ』を月曜から金曜のベルトで出ていた。日テレには氏家齊一郎ワンマン会長が君臨し、みのはよく氏家会長と食事をしていた。次男の入社を氏家会長に頼んだのは間違いありません」(日テレ関係者) 日テレでは毎年のようにコネ入社が疑われる社員が目立つ。 「最近では『嵐』櫻井翔の妹や、背後に森喜朗元首相の存在が囁かれる杉野真実アナらの名前が浮上しています」(テレビ業界事情通) ただ、コネで入社しても実力があればいいが、みのの次男のように手癖が悪いのは困りものだ。 今回の事件で、日テレは社員採用形態の見直しを迫られている。 「日テレでは毎年アナウンサー4〜5名を含め、制作・営業・総務・人事等で25名から30名ほど採用している。うち3〜4割はコネ入社とみられている。この比率を下げる形で見直し、さらに、入社候補者の大学・高校時代までの私生活を探偵を使ってでも徹底的に調べるしかないと判断したようです」(前出・日テレ関係者) みのも報道番組の出演を自粛するというが、日テレはコネ入社を絶つことができるか。
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社会 2013年09月23日 01時15分
世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第44回 東京五輪とナショナリズム
2013年9月7日。アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会において、2020年のオリンピック、パラリンピックが東京で開催されることが決定された。IOCのロゲ会長が「TOKYO 2020」の紙を示すまで、徹夜でテレビを見続けた読者も多いと思う。 今回の五輪開催決定は、我が国の未来にとって極めて大きな意味を持つことになる。56年前の東京五輪が、現在にとって大きな意味を持つように。 現在の我が国が「国民の生命と安全を守るための国土強靭化」を実施しようとしたとき、一つ、深刻なボトルネックがある。 ボトルネックとは「制約条件」のことで、元々の語源は瓶でいうと口が細くなっている部分になる。砂時計でいえば、真ん中だ。要するに、「それ」があるために動きが制限される、あるいは速度が鈍化するもののことをボトルネックと呼ぶのである。 国土強靭化に際したボトルネックとは、おカネではない。デフレで長期金利が世界最低の我が国は、政府が普通に国債を発行し、日本銀行が金融政策(国債買取等)を拡大することで、技術的には無理なく国土強靭化のための財源を確保することができる(財務省は死にもの狂いで抵抗するだろうが)。 とはいえ、日本政府が財務省の抵抗を押し切り、予算を確保したとしても、新たに「強力なボトルネック(変な表現だが)」が現れる。すなわち、建設サービスの供給能力不足である。 バブル崩壊後の公共事業の規制緩和(一般競争入札導入)、'97年以降の公共投資削減により、1999年度に60万1000社にのぼった建設業許可業者数は、2012年度には47万社に減少してしまった。 当然、建設サービス従事者も100万人以上少なくなり、完全に人手不足状態に陥っている。人手を確保するために、建設企業が賃金を引き上げれば、「工事量が増えても利益が確保できない」有様で、現状は深刻だ。 いまだ日本の社会から「公共事業嫌悪論」や「土建悪玉論」が払拭されていない以上(共に根拠は皆無なのだが)、建設企業、土木企業は「仕事」が増えたとしても、供給能力を伸ばさないだろう。すなわち、人材を雇用せず、設備にも投資しようとしないのである。 こうなると、建設産業の供給能力不足は、国土強靭化はもちろんのこと、東京五輪開催のボトルネックにすらなりかねないのだ。 というわけで、7年後に五輪が開催されることを受け、日本国民は二つの重要なものを取り戻さなければならない。それは、「ナショナリズム(国民意識)」と「将来を信じた投資」の二つである。 当たり前だが、公共投資とは現在はもちろんのこと、将来の国民のためにも実施されるべきものである。国民として、「将来の日本国民のために、やれることをやろう」というナショナリズムなしでは、公共投資の拡大などできるはずがない。 逆にいえば、1997年以降、延々と公共投資を減らし続けてきた我が国の国民は、「将来の日本国民のことなんて、どうでもいいんだよ」と、考えていたに等しいのだ(実際には、公共投資関連の情報がコントロールされていたためというのが大きいのだろうが)。 また、将来の所得拡大、すなわち「将来豊かになる」ことを信じることができない人が、リスクを冒して投資に乗り出すことはない。将来に対し不安感を抱えている状況では、投資拡大など望むべくもないのである。 今回の五輪開催を受け、日本国民は極めて重要な「ナショナリズム」と「将来を信じた投資」の二つを取り戻すことになる。と言うより、取り戻さなければならない。 56年前の東京オリンピックの時期は、五輪開催の「数年前」に民間企業設備や公共投資(公的固定資本形成)の成長率のピークが来た。 東京でオリンピックが開催されることが決定したのは、1959年である。それ以降、我が国ではオリンピックに向けた各種の投資が拡大していった。 東京オリンピック開催に向け、東京ではさまざまな設備やインフラが整備されていく。競技場関連では、国立競技場(代々木)、日本武道館(九段下)、駒沢オリンピック公園など、現在も競技に使われる設備の多くが、オリンピックに向けて建設されたのだ。 また、交通機関などのインフラ関連では、まずは東海道新幹線、東京モノレール、羽田空港の拡張、首都高速道路、環状七号線などなど、現在、私たちが日常的に使用しているインフラは、主にこの時期に整備されたのである。 さて、バブル崩壊後、日本国民は東京オリンピックの頃には保持していたナショナリズムと投資意欲を失い、経済成長率が低迷した。すると、経済成長率が低迷したことを受け、ナショナリズムと投資意欲を破壊する「日本ダメ論」が広まっていった。「我が国はダメだ」と国民が勝手に思い込んでしまった国で、経済成長率が高まるはずがない。 今後の7年間で、日本国民は国内に蔓延する「日本ダメ論」を一つ、また一つと潰していかなければならない。 同時に、我々の生活、ビジネスの基盤を構築、維持、管理してくれる土建企業への尊敬の念を取り戻さなければならないのだ。 今回の東京五輪決定を受け、読者は間違いなく「7年後」を考えたはずだ。 この「将来のこと」を考える行為こそが、健全なナショナリズムと成長のための投資を醸成することになる。 国民が健全なナショナリズムの下で「将来」のことを考えてはじめて、国土強靭化の実現も現実性を帯びてくる。 この機会を逃してはならない。三橋貴明(経済評論家・作家)1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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社会 2013年09月23日 01時11分
森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 五輪招致成功の陰で
2020年東京五輪の招致成功で日本中が沸き上がっている。一時はマドリード有利との情報も流れたが、海外メディアは東京の勝因として、東京電力福島第一原発の汚染水問題の懸念を払拭した点を挙げた。 その通りだと思う。汚染水問題を放置すれば、招致は失敗に終わっただろう。ただ、重要なことは、汚染水問題の解決に日本政府が乗り出したということだ。 もともと政府は、福島第一原発の事故は東京電力の責任だという態度をとり続けてきた。東電の責任なのだから、東電が始末をつけるべきだとしてきたのだ。原発事故後、明らかに債務超過になっていた東電を破たん処理せず、上場廃止さえしないという「超法規的措置」を採ったのも、東電がつぶれてしまったら、政府が原発事故の後始末を背負い込んでしまうからだ。 私は、原発事故の責任は三者にあったと考えている。第一は十分な安全対策を怠った東京電力、第二は原発による安価で安定した電力を使用してきた利用者、そして第三は、国策として原子力発電を推進してきた日本政府だ。 原発事故後、東京電力の一般社員は年収を2割カットされるという大きなペナルティーを受けた。東京電力管内の家庭は、事故後28%もの値上げというペナルティーを受けている。ところが、最大の責任者である中央政府だけは、何らペナルティーを受けていない。原発事故は、東電が起こした不始末という位置づけになっていたからだ。 しかし今回の安倍総理の決断で明らかになったことは、政府が原発事故の責任を認めたということだ。責任がないのに国民の血税を投入してよいわけがないからだ。そうした決断をした以上、原発事故の避難者への補償も、国が面倒をみる形に方針を変えるべきだと思う。大した負担ではない。原発事故の自主避難者を20万人として、年間1人100万円を支援したとすると、必要な予算は2000億円となる。これは、5兆円の国家公務員人件費を4%下げるだけで達成可能な額だ。そのくらいの責任は、国家公務員には当然あると思う。 さらに責任が重いのは、原発推進の旗を振ってきた霞ヶ関と政治家だ。幸い、安倍総理が放射線の問題は原発周辺の狭い地域に封じ込めると宣言しているのだから、いまこそ思い切って霞ヶ関と国会を福島県に移転させるべきだろう。 国会や中央官庁の業務がすべて福島県で行われるようになれば、世界は原発事故の影響が本当にないのだと納得するだろう。オリンピックの安全性をアピールする何よりの手段になる。そして、もう一つのメリットは、財政再建に大きく寄与するということだ。国会議事堂、首相官邸、首相公邸、衆参議長公邸、霞ヶ関官庁街などの土地や建物は、とんでもない高値で売却できるはずだ。さらに、国家公務員を福島に移せば、公務員住宅などの関連施設も不要になるから、売却が可能になる。 さらに、政治の中心を福島に移すことによって、被災者目線の政治を行うことができるようになる。安倍総理も、震災復興を政治の最優先課題として取り組みたいと言ってきた。それを実現する最も効果的な手法が、福島県への首都機能移転だ。東京は経済と文化の中心であればよいのだ。