「これ、幽閉小屋かな」
幽閉って、閉じ込めるってこと。
「…幽閉」
「うん。崇徳院も、幽閉されてたんだ」
ほんと。
「そうなの」
「うん」
でも、こんな狭い場所では、幽閉できないと思う。
吉原君が、また口を開いた。
「それとも、もしかしたら、ここは、おまじないをする場所かも」
…おまじない。
吉原君、軒下から屋根まで、丹念に目で追っている。
吉原君の目つき、うれしそう。
「うん、そうだよ。きっと、ここにこもって、呪詛したり、怪鳥を呼び寄せたりするんだ」
吉原君、いつもは、私のことを気づかってくれるのに、今は、お社ばかりを見ている。吉原君、いつまで見ていても飽き足らない様子だ。
吉原君は、ほんとうに歴史が好きなんだ。それとも、もしかしたら、吉原君も、魔道とか、妖術とか、そういったことが好きなのかも。
お社の屋根に、鬼瓦がある。空をにらんでる。怖い顔。口があんなにゆがんでいる。ここ、ほんとうに、幽閉小屋かも。
土手の草木が一斉にざわめいた。お社の回廊につかえていた枯れ葉も、かさ、かさ、音をたてている。
もしかしたら、ここ、ほんとうに、おまじないをする場所なのかも。
冷たい。
風が、脇の下に入ってきた。
きっと、そうだ。ここで、おまじないをするんだ。夜中、真っ暗になってから、誰かがここに来て、おまじないをするんだ…。
夜。暗雲が出ている。月が隠れている。森が闇に包まれている。提灯の明かりが動く。誰かが、歩いてやってくる。お社の扉を開けて、中へ入る。魔除けのお札は、ちゃんとはられている。それでも、誰かが中に入る。小窓から、ろうそくの炎が漏れてくる。障子に、人影が浮かび上がる。袈裟が、揺れる。数珠が、こすれる。魔術が、始まる。
そうだ、このお社の中から、怪鳥を呼ぶんだ。
きっと、そうに違いない。ここは、怪鳥を呼ぶ場所なんだ。
なんだろう、後頭部の辺り、こそばゆい。
(つづく/竹内みちまろ)