「行事軍配は東方稀勢の里に上がりましたが、稀勢の里の肩が早いのではないかと物言いがつき、協議した結果稀勢の里の肩が早く、行司軍配差し違えで栃煌山の勝ちと決定いたしました」。
場内の落胆をよそに、粛々と告げられた協議結果。かたや4連勝、かたや4連敗を意味するこのアナウンスに、苦境の横綱は虚空を見つめるほかなかった。
立ち合いから圧力をかけ、栃煌山を土俵際まで追い込んだこの日の稀勢の里。遂に連敗トンネル脱出が見えたかと思いきや、その先に待っていたのは栃煌山による捨て身のすくい投げ。行司軍配が上がり一度は出口に這い出た横綱は、物言いの末に再び暗い坑内へ送り返された。
過去3戦と同じく、この日も敗戦の要因となったのは自らの武器である左への固執。右、下半身をお留守にした左一辺倒の攻めは相手にすれば対策が容易で、逆に付け入る隙を生むことにもなる。全てとは言わない、せめて右だけでも柔軟に使えていれば、この日を含め星取表が真っ黒になることもなかっただろう。
長期欠場から復帰した先場所は、対戦相手だけでなく進退問題とも戦っていた稀勢の里。その頃と比べれば今場所はまだ重圧も少ないはずなのだが、蓋を開ければ結果・内容共に伴わない日々が続き、おまけに2日目からは3日連続で金星も配給。場所前に伝えられていた“好調”の二文字も、今となってはただただ虚しいばかりだ。
周囲の期待に満ち溢れた場所前から一転、初日から4連敗と泥沼の状況に陥っている稀勢の里。本日5日目に出場するかは現時点では不明だが、本稿が配信される頃には「稀勢の里休場」の一報が世間に伝えられていても全くおかしくはない。仮に休場となれば、来年の初場所が再び“背水の陣”となることは必至だ。
文 / 柴田雅人