坂本龍馬(福山雅治)の暗殺は史実である。2001年放送の大河ドラマ『北条時宗』での主人公の義兄・北条時輔のように、史実に反してドラマでは生きていたという展開に持っていくことも不可能ではなかった。しかし、『龍馬伝』第4部では、語りの岩崎弥太郎(香川照之)が毎回番組の最後に「龍馬暗殺まで、あと○ヶ月」と暗殺までのカウントダウンをしており、暗殺は既定路線と予想できた。
実際、暗殺は無慈悲に行われた。志半ばで殺されてしまう無念、そのような理不尽なことが起きてしまう現実の不条理を強く実感できた。一方、これまでの流れでは、龍馬暗殺の動機を持つ人物が次々と登場し、暗殺の黒幕が誰なのかというミステリー的な盛り上がりもあった。しかし、最終回での龍馬暗殺の描写は禁欲的であった。龍馬暗殺に対する木戸貫治や西郷吉之助の反応を見てみたい気がするが、それも視聴者の想像に委ねられた。
その代わり、最終回では龍馬の作成した新政府綱領八策の「○○○自ラ盟主ト為リ」にスポットライトが当てられた。新政府を率いる人物(盟主)を伏せ字にしている。この○○○が誰を意味するのかについては、現在でも議論されている。徳川慶喜(慶喜公、大樹公)や山内容堂(容堂公)などとする説がある。
ドラマでも○○○が誰かが問題になった。薩摩藩でも長州藩でも○○○には具体的な人物が想定されているものと受け止め、それが慶喜ではないかと警戒していた。しかし、龍馬の考えは別次元のところにあった。龍馬は中岡慎太郎(上川隆也)に「志のある者を皆で選ぶ」と語った。
これは民主主義における選挙の考え方である。現代日本は民主主義体制であるが、龍馬が目指した理想は実現できているだろうか。現代人にも考えさせられるドラマであった。
林田力(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者)