着座するや挨拶もそこそこに酒を飲み始めるので、新入会員が肝をつぶす俳句結社「れいの会」の月例句会は、モダーンアパートメントハウスを併設する荻窪の瀟洒な旅館西郊で開催されている。
2000年(平成12)秋に始めた句会はすでに100回を越した。その間には物故者2名、見解の相違で袂(たもと)を分かった同人1名、俳句に満腹したと卒業宣言した同人4名、食傷したと自主退学していった同人2名、兼題(宿題)が面倒くさくなってずる休みに入ったまま現在に至る同人5名、姿を消した。
それでもなんとか、まだ毎月8人は参集するのだからしつこい、いや熱意がある。
月例会にはひとり5句を提出する決まりなので8人出席なら全40句。その中から詠み人が明かされない5句を選句し、さらに持参した土産を授与すべき特選1句を選ぶ。自分の句が座で選者から読み上げられ、密かに得点を重ねていくのは嬉しいが、1点も入らなければ軽く傷つく。座を捌(さば)く宗匠が、選句の理由をそれぞれに尋(たず)ねる。選句しておきながら選者という者はどこか批判的で、土足でアーチストの感じやすい心にずかずかと上がり込んでくる。その丁々発止は4時間に及ぶ。
最後の最後に詠み人が明かされたときには喧嘩寸前になったこともある。清記という、たがいの筆跡を消し去るために分けあって清書する作業も、得てしてトラブルの種になる。あってはならないことなのだけれど、漢字を写し間違えたり、てにをはを違(たが)えたりすることもある。そんなときには、救いようのない駄句の作り手ほど激高するものだ。わたしだ。これこそ、本当にあってはならない。座の文芸は、遊びとして高い自制心が要求されるのである。さて、カッカと火照って一向に冷めやらぬ頤(おとがい)と頭をクールダウンさせるのは、またしても酒。皮肉と自嘲と強弁と言い訳がないまぜになった、口角泡を飛ばす老人の主張を聞いてくれるのも結局一座の連中でしかなく、事実上クールダウンなど出来はしない。
しかし(1)、やき屋は、立ち飲みなので適度にくたびれる。そうして(2)、やき屋は、いつも混んでいるので長居はできない。だからちょうどいい。おまけに(3)、やき屋は、イカ料理の専門店でありながら驚くほど安い。
「れいの会」の宗匠は俳人明石令子さん。<蒲公英のはびこり少女出奔す>という句で、師である藤田湘子氏主宰の俳句専門誌「鷹」の、平成元年の新人賞を獲得されている。明石令子さんの師匠が、藤田湘子。藤田湘子の師匠が、水原秋桜子。水原秋桜子の師匠が、近代俳句の始祖正岡子規。われわれは令子宗匠の弟子なので、僭越(せんえつ)ながら子規のひ孫弟子ということになる。
「れいの会」が、アラカン(還暦でこぼこ)男たちの老後の無聊(ぶりょう)をかこつ、そのために発案されたことは言うまでもない。ちゃんとした宗匠さえ見つけられれば、句会は誰にでもできます。
予算1400円
東京都杉並区上荻1-5-6