吉原君はやさしいから、いつも私を気遣ってくれる。昨日も、キスしてくれたあと、「ごめん」って、あやまってくれた。あやまることなんかないのに。
吉原君の「キスしていい」と言ってくれた時の顔が思い浮かんで、何度も寝返りをうった。吉原君がつかんでくれた腕を、自分でさわってみたりした。掛け布団が重たかった。それに、体が汗ばんでいる。生理のときは、一日じゅう布団に入っていることが多い。体じゅう汗だらけになって、体臭が出てしまう。
やだな、今日、汗をかいたら。おばあちゃんの家の掛け布団は厚いから、夜中に、はいでしまうかも。
片足を出して、掛け布団の上に乗せた。太ももで挟んでみたら、気持ちよかった。そのまま目を閉じた。
夜中、夢を見た。
障子の向こうに、吉原君が立っていた。布団から起きて、蚊帳から出た。障子の前まで行って、聞いてみた。
「どうしたの」
吉原君の返事が聞こえた。
「おしっこ」
渡り廊下を歩いて、お便所まで、つき添ってあげた。
部屋の前まで戻ってくると、お姫様の蚊帳が見えた。
後ろには吉原君がいる。
「ねえ、いっしょに寝よ」
自然に口にすることができた。
ここはどこ? どうしたのだろう。周りが木ばっかり。山の中みたい。けど、なんでだろう。私、おばあちゃんの家で寝ているはずなのに。そうか、私、今、夢を見ているんだ。
なら、山の中にいる私は、夢の中の私なんだ。よかった。私、パジャマのまま外を出歩いているのかと思った。でも、夢の中なら、いいや。
それにしても、ここはどこなんだろう。おばあちゃんの家の山じゃないみたい。山道は向こうへ続いている。けど、上は、枝葉に覆われて空がほとんど見えない。でも、おかしい。ふつう、真夜中の山の中だったら、明かりがなければ、一歩先も見えないはずなのに。今は、明るい。いろいろ見えている。なんでだろう。そうか、夢だからだ。
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)