通行人のほとんどは気付かずに素通りしてしまう。通い慣れた人でもやっぱり、素通りする。
真っ白な塀には、目にやさしい緑色の文字で「工事中ご協力をお願いします」「ご迷惑をおかけします」などと縦書きで記されている。上から下へと読み進めるに従って小さくなっていき、最下部の文字は近くでも読みづらいほどだ。
最初はいったい何の仕掛けだろうと首をひねっていたところ、文字の横に目盛りが振ってあるのに気付いた。小さく「6メートル離れてお計りください」と注意書きがあり、なるほど視力検査表だったのか、とようやく制作者の意図が呑み込めた。
たとえば「工事中ご協力をお願いします」の文字列の場合。最初の「工」しか読めなければ視力は0.05。「事中ご協」が読めて0.1〜0.2。「力をお願い」まで読めても0.3〜0.5と厳しい。「しま」までいけば0.6以上。最後の「す」が読みとれれば、あなたは視力1.0以上です!となる。
視力には自信のある記者は、さっそく塀から6メートル離れようとした。しかし、すぐ後ろが大通りのためガードレールに阻まれて1メートルしか後ろに下がれない。6メートル離れたら車に轢き殺されてしまうではないか。実はコレ、使いようのない視力検査塀だったのである。