そもそも、岩隈は先発5人枠入りが確実視されていた。その地位を失った理由は主に2つ。チーム合流(キャンプイン)までの調整に失敗したこと。そして、招待選手にすぎなかった37歳のケビン・ミルウッドが見事な復活を遂げたからである。ミルウッドは昨年、ロッキーズで9試合を投げただけ。「右肘」の故障で近年はマイナーチームを転々としていたが、「まさか、そのロートルがマリナーズで復活するとは!?」というのが、米メディアの正直な感想のようである。
「岩隈が落選し、ミルウッドが先発5人枠に滑り込めたのは、ウェッジ監督の存在も影響していると思います。ミルウッドが最優秀防御率のタイトルを獲ったのはインディアンズ時代の05年。そのとき、インディアンズを指揮していたのが、現マリナーズ監督のウェッジ監督です」(米国メディア陣の1人)
岩隈が巨人戦でノックアウトを喫した時点で、ミルウッドはまだメジャー契約を正式には交わしていない。だが、ミルウッドの復活によって、岩隈は「ロングリリーフで出直し」なんて悠長なことも言っていられなくなった。
「MLBの公式球が馴染まないようです。カーブ、スライダーを内外角のコーナーぎりぎりに投げ分けられないのが不振の原因です」(現地特派員の1人)
2010年オフのポスティングに逆上れば、岩隈のメジャー挑戦は“2年越し”。万全の準備を整えていると思われただけに、ちょっと驚きである。
岩隈はマイナー落ちの可能性もある。
というのも、今回のマリナーズ対アスレチックスの日本開幕戦には、カラクリも隠されていたからだ。
通常、メジャーのベンチ入りする選手数は25人。今回の日本開幕2連戦に限り、28人がベンチ入りすることになっていた(試合に出場できるのは25人)。マリナーズは今回の日本遠征には30人を参加させた。巨人、阪神とのプレシーズンマッチは、25人枠に入れるかどうかの当落ラインのギリギリにいる選手に与えられる『ラストチャンス』でもあったからだが、この日本に遠征してきた『30人』のなかに、先発5人枠の座を勝ち取ったケビン・ミルウッドは含まれていない。つまり、日本開幕戦にエントリーされた28人から「3人」を振り落とし、さらに、ケビン・ミルウッドを加えるために、「もう1人」を落選させなければならないのだ。その「もう1人」とは、岩隈ではないか−−。そう予想する米メディア陣は少なくない。
「岩隈は巨人戦に先発登板のチャンスをもらったものの、それを生かすことは出来ませんでした。この時点で、25人枠から外れたという見方が強まっています」(前出・米メディア陣)
しかし、そうは言いながらも、「25人枠に残る可能性もある」とも予想していた。
「岩隈は3月20日のレッズ戦で中継ぎ登板し(現地時間)、3イニングを無失点に抑えています。他投手との兼ね合いで、中3日での緊急登板となりましたが、岩隈が初めて無失点に抑えたのが、この中継ぎ登板した試合でした。ウェッジ監督は岩隈のリリーバーとしての適性を称賛していました」(同)
『先発』にこだわるのなら、アウト。『中継ぎ転向』を受け入れるのであれば、4月6日の米国本土での開幕25人枠に入れるというわけだ。
同米国人メディア陣がこう続ける。
「ウェッジ監督は『岩隈の中継ぎとしての適性も見ておきたかった』とレッズ戦後に話していました。岩隈を戦力として必要と思ってこその中継ぎテストだったのではないか?」
本サイトがいち早くお伝えしたように、岩隈は最大340万ドルの出来高契約も交わしている。その内容のほとんどが「先発登板を果たして初めて加算されるもの」であり、言い方を換えれば、いかに岩隈が『先発』の地位に強い執着心を持っているかが分かる。「前腕部の張りをチームトレーナーに訴えた」との情報も交錯している。いずれにせよ、岩隈は厳しいシーズンの幕開けとなりそうだ。
※メジャーリーグの選手、監督首脳陣等のカタカナ表記は、ベースボールマガジン社刊『週刊ベースボール』(2012年2月13・20日号)を参考にいたしました。