昨年はチーム打率2割4分5厘(リーグ5位)、総得点432(同ワーストタイ)と低迷した。岩隈久志の抜け、先発スタッフは4番手以降に一抹の不安がある以上、打撃陣の強化は必須事項とも言えるだろう。
気になったのは、岩村明憲だ。17日の練習後、大久保博元・打撃コーチが『復活』を示唆したそうだが、守備・連携練習を見てちょっと驚いた。岩隈は三塁に入ったが、草野大輔と一緒だった。草野が最初にノックを受ける場面もあり、“レギュラー扱い”されていなかった。若手に混じってアーリーワークもこなしており、関係者によれば、その出席率は「ほぼ毎日」とのこと。ただ、昨年と比べ、身体はスリムになった。メジャーも経験した33歳が必死に練習する様子が、若手のお手本ともなり、復活の足掛かりともなってほしい。
盗塁王候補・聖沢諒も鋭い打球を飛ばしていた。打撃力アップで出塁率が高まれば、攻撃の幅も広がる。攻撃陣のキーマンはやはり彼だろう。
また、“先発4番手不在”の投手陣だが、5年目の長谷部康平、前オリックス・加藤大輔、ヒメネスが目を引いた。長谷部は直球が速くなった。調整期間中のこの時期に「速い、遅い」を言うのは難だが、昨季と比べ、腕の振りが力強くなり、制球力も安定してきた。クローザーの実績もある加藤も同様だ。古巣を見返してやるという思いからか、ハイペースでの仕上がりを見せていた。
ヒメネスは“日本式の投球”を修得しつつある。昨季はリリーバーとして期待されていたが、途中、チーム事情で先発にコンバートされた。そのときは無理に力勝負しようとしているというか、投球が単調になる場面も多かったが、今年は違う。投げ方は“外国人投手特有”の上半身投げだが、去年よりもヘンな力みがなくなっていた。その効果が出たのだろう。ツーシームやスライダーを内外角のギリギリのところを狙って投げられるようになった。
田中将大、塩見貴洋、阪神からトレード獲得した上園啓史、新人の武藤好貴の4人は当確として、戸村健次、井坂亮平、長谷部、ヒメネス、永井怜が「残り2枠」を争うと思われる。社会人出身の武藤は、2、3年プロでメシを食ってきたような雰囲気もあった。実戦登板は見られなかったが、ブルペン捕手の構えたところに投げ込んでおり、制球難で崩れることはまずないだろう。そればかりか、周りの先輩投手が速球を続けざまに投げても、マイペースで変化球とのコンビネーションをテストするなどしていた。並みの新人ではできないハートの強さだ。
田中はエースの貫禄も出てきた。時折、投球練習でも『雄叫び』を挙げ、その気合がブルペン全体に緊張感を漂わせている。13日の紅白戦に登板したが、ダルビッシュ有にアドバイスされた『新フォーム』がしっくり行かず、従来のスタイルに戻すという。大崩れすることはないと思うが、露骨に不機嫌そうな表情も見せる。調整が少し遅れているようだった。
塩見は昨季の今頃とは比べものにならないほど、ボールのキレが良かった。右打者から見て『外角低め』に勢いのある直球を投げ込んでいて、2月上旬のこの時点では「田中より調子が良い」。オープン戦の結果次第では、開幕投手の大役を託しても大丈夫ではないだろうか。
先発陣の底上げは確信できたが、「勝ち星−負け」の引き算で、5つ以上のプラスが計算できるのは、田中と塩見だけかもしれない。あとは全て、未知数である。救援陣の活躍がカギとなりそうだが、首脳陣は『クローザー』を決めかねているようにも見えた。星野仙一監督はラズナーの名前を挙げたという。だが、佐藤義則・投手コーチは「監督は、クローザーは日本人がいいと思っている」「その他の候補は青山、加藤」と、全く違う内容を一部メディアに話しており、また別の関係者は「補強はまだ終わっていない」と、外国人投手のさらなる獲得を示唆していた。言い換えれば、「安心して託せられるクローザーがいない」ということだろう。私見になるが、先発候補からのコンバートがあるとしたら、長谷部が考えられる。長谷部はブルペンに入って、10球程度のウォーミングアップで全力投球に入れる。空振りの取れるウイニングショットはないが、すぐに肩が温まるのは、これ以上ないリリーバーの素質である。
星野監督はメイングラウンド、ブルペンなどを精力的に見て回っていたが、一歩引いたところで見守っているといった感じだった。オフも大人しかったが、「動かない闘将」はむしろブミキである。実力的には未知数だが、先発4番手以降を争っている投手たちの底上げは成功した。虎視眈々と優勝を狙っているのか−−。今年は長谷部に注目していきたい。