田中将大(23=東北楽天ゴールデンイーグルス)の2011年の推定年俸は『2億円プラス出来高』。1億8000万円からの2000万円アップであり、ルーキーイヤーから振り返っても長期の故障離脱はなかった。前述の活躍ぶりからしても、『3億円提示』の可能性は高い。
来季、田中はさらに大きな重責を担うことになる。エース・岩隈久志(30)が海外FA権を行使し、チームの精神的支柱だった山崎武司(43)もいなくなった。田中より年上の主力選手もまだ多いが、これからは『チーム牽引役』としての期待も掛かる。
今年2月の沖縄・久米島キャンプでのことだ。『朝の声出し』で、田中は星野仙一監督、コーチスタッフ、選手たちの前で「沢村賞を獲ります!」と叫んだ。同賞受賞の会見でそのことを質問されると、
「自分にプレッシャーを掛けました」
と返したが、投手がチームリーダーを務めるのは並大抵ではない。
極端な話、先発投手は『1週間に1回』しか試合に出ない。
田中は試合後、投手コーチとその日の対戦データを再確認するなど研究熱心な選手でもある。また、先の沢村賞獲得宣言だが、キャンプの全体練習後、居残り練習を寡黙にこなした。自身にプレッシャーを掛ける前に、野球に取り組む真摯な姿勢があったのだ。
『チームの牽引役』ともなれば、これからは試合で結果を出すだけでは済まされない。チームが連敗したときはミーティングで自ら発言し、決起集会等の音頭も取らなければならない。
今季の楽天の決起集会と言えば、笑うに笑えない失敗談がある。
某コーチが山崎武司に決起集会の招集を要請したという。連敗中のことであり、山崎はその必要性も分かったうえで提議する課題を同コーチに確認しようとしたところ、そのコーチは「とりあえず、やれ」としか言えなかったそうだ。席順もくじ引き…。気の合う仲間と同じテーブルに着きたいという気持ちの問題ではない。先輩選手に技術的・精神的アドバイスを求め、野球観の違いを埋めるための議論をするのも決起集会である。
チームリーダーは、監督以下首脳陣との折衝役も託される。おそらく、高須洋介(35)、嶋基宏(27)、草野大輔(35)らと分担していくことになるだろうが、来季24歳の田中に“会社組織の気苦労”を経験させるのは、まだ早いのではないだろうか…。
『1試合19奪三振』のプロ野球記録を塗り替える投手が出現するとしたら、それは田中だろう。今季8月27日(対ソフトバンク)、田中は18奪三振をマークした。同試合後、「(8回まで奪った三振の)数が分かっていたので、18奪三振を狙った」と話していた。狙って三振を奪える投球技術・能力だけが新記録の根拠ではない。皮肉な言い方になるが、楽天は救援投手陣が手薄だ。完投試合数「10」は、『完投』への美学、三振へのこだわりだけではなく、「リリーフ陣を休ませてあげたい」というチーム事情も影響している。
余談になるが、彼はトークがうまい方ではない。くだらない質問にも誠実に答えてくれるが、一流と称される選手の多くは話術も巧みだ。おそらく、野球以外のことを考える余裕がまだないのだろう。今後、田中のトークも成長のバロメーターとして注目して行きたい。(スポーツライター・飯山満)