健さんを語らせたら、私の右に出る評論家はいません。これは間違いない。それほどまで、私は健さんを研究してきました。
その私をしても「健さんの素顔が出ているな〜」と言わしめたのが『高倉健 男のケジメ』。皆さんは健さんを日本生命のCM「不器用ですから」を実際の姿だと錯覚している。
実のところ健さんは英語がペラペラ。頭脳は商社マンを志していただけに明晰…彼の振る舞い、佇まいは全て「演技」なのです。『〜男のケジメ』にも「世の中に求められている高倉健像を演じていた」という風な下りがあります。まさにその通りでしょう。
ただ、シャイというか一途、一本気であった事は確かですね。その象徴が江利チエミへの思い。
映画『幸福の黄色いハンカチ』を実生活で演じてしまった。本当は江利を愛していたのですが、彼女の為を思い、別れ決意したのです。人間は本来、自分本位の生き物なのに健さんは相手を慮(おもんぱか)った。まあ、そこは不器用だったかもしれませんね。
東映を退社する事で任侠道から人情派に転向していった訳ですが、ここでも彼の強かな計算が展開されています。
ヤクザ映画では「高倉ありき」だった為、映画の出演本数はハンパ無かった。ところが人間ドラマに移行してからは山田洋二監督など「作品の中に健さんがいる」という自分の存在価値を高めていった。結果、CMのオファーが殺到、無理に映画に出演しなくても生活出来る形を構築したのです。
全てが彼のシナリオで我々、国民はまんまと高倉健に騙されていた。『〜男のケジメ』ではファンにメッセージを送るなど、国民に対して感謝と謝罪を公開しており、そこにも健さんの「人柄」が滲み出ています。
【高倉健 男のケジメ】http://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1366