「世界食糧計画の報告によれば、北朝鮮は人口の4割に相当する1000万人以上が、深刻な食糧不足に直面しています。経済制裁が『兵糧攻め』のように利き、外貨不足で家畜の飼料、農業用の種子や肥料が入ってこないため、食糧が確保できていないのです」(北朝鮮ウオッチャー)
現在の北朝鮮は1995〜1997年の100万人以上が餓死した『苦難の行軍』と呼ばれた時代の再来とされている。
「平壌で6月3日から始まったマスゲーム『人民の国』(集団体操と芸術公演)が、10日から中断されるとメディアで報道されました。観覧した金正恩党委員長が、制作の不備を批判したことが中断理由だと報じられています。しかし、実際は地方からマスゲームに動員された児童や学生たちが、空腹で練習どころではないからです」(同)
軍に入れば食えるというのも、今や昔の話だ。咸鏡北道・清津市に駐屯する高射銃部隊の女性兵士たちが、飢えに苦しんだ揚げ句、民家から食料品を盗み大問題になっているという。
「北朝鮮軍は少子化によって、ただでさえ兵員数が減少しています。北朝鮮社会はいまだに男尊女卑社会で、軍内での女性の地位は低い。男性上官による性的虐待も横行している折りでもあり、盗みをして食いつなぐような軍に入れたくない、と親たちが兵役忌避行動に出ているのです」(同)
もはや食糧不足が北朝鮮の国防力まで低下させる結果となり、軍当局も大慌てだという。
問題はこれだけではない。北朝鮮当局は、昨年12月、生活困難者以外のすべての世帯に「朝鮮民族保険総会社」が運営する損害保険への加入を強制し始めた。
「日本の町内会に似た人民班と呼ばれる会議では、保険の内容や保険金の支払いについては説明がなく、『愛国心で加入せよ』と、強要するのみ。要するに、国にカネがないので“捧げよ”というわけです」(北朝鮮に詳しい元大学教授)
食糧不足で生活が苦しい上に、さらに搾取された国民は、不満を溜め込んでいる。だが、そんな国民の心情も正恩氏は関心がないようだ。
5月31日の万国共通で禁煙を推進する「世界禁煙デー」では、北朝鮮でも禁煙キャンペーンが実施された。しかし、朝鮮中央通信がこれを伝えたまさにその日、正恩氏が喫煙している様子が配信されてしまった。
「正恩氏の前にだけ灰皿が置かれている様子がバッチリ写っていました。驚くのは党、軍幹部はともかく、一度は禁煙を促したはずの夫人さえ注意できなかったのです」(同)
北朝鮮は男性を中心に愛煙家が多い。「自分だけタバコを吹かしやがって」と、幹部連たちさえも不満を募らせているという。
また、正恩政権が誕生して以降の人事の特徴は、女性の抜擢である。これも男社会を自負する党幹部連の反発を招いている。
「対米外交の現場指揮官となった崔善姫第1外務次官や、統一戦線部の司令塔である金英哲部長の参謀格である金聖恵策略室長、歌手出身で党中央委員会委員となった玄松月副部長は3大出世頭です。中でも崔次官は、いまや上司の李容浩外相を見下すほどの権勢です」(元ソウル支局員)
ただ、金聖恵室長はベトナム・ハノイで行われた2度目の米朝首脳会談が決裂したことへの責任を取らされ、収容所送りになったことを韓国の有力紙に報じられた。
同報道では、米朝会談を取り仕切った金英哲部長は「強制労働」、そして正恩氏の実妹・金与正党第一副部長は「謹慎」、ビーガン国務省北朝鮮担当特別代表のパートナーとなった金革哲・対米特別代表は処刑と報じられたが…。
「金革哲代表は、『自由朝鮮』に襲撃されたスペイン大使館の元大使で、彼の対米交渉の機密も奪われていますから、この方面での処分も考えられます。一度は姿を確認されましたが、金英哲部長に関しては不透明な部分が多い。軍出身のエリートですから、それが“冷や飯”を食わされているとなれば軍は面白いはずがありません。正恩氏に“面従腹背”しているだけで、内心は相当不満を抱えているはずです」(国際ジャーナリスト)
国内で正恩氏の求心力が低下している北朝鮮は、対外的にも追い詰められつつもある。
「6月3日に韓国で、米国のシャナハン国防長官代行が、韓国の鄭景斗国防部長官と会い、米韓連合司令部をソウルから南方の平沢の米軍基地キャンプ・ハンフリーに移転することで合意しましたが、この移転は、韓国政府・軍にとって寝耳に水でした。在韓米軍司令部が平沢に移っても、米韓連合司令部だけはソウルに残ると米国は約束してきたからです」(軍事ライター)
つまり、在韓米軍撤収が現実となったわけだ。
「裏を返せば韓国に気兼ねなく、北朝鮮を先制攻撃できる体制が整ったということ。先制攻撃の“フリーハンド”を得た米国のこれからに目が離せません」(同)
国内では金正恩氏の求心力が低下し、対外的にも追い詰められている北朝鮮。崩壊へのカウントダウンは始まったのかもしれない。