笑いながら指さすと、健太君が前かがみになった。寝間着を帯の内側にねじ込んだ。きっと、健太君、自分で固結びにしちゃったんだ。
健太君の寝間着が乱れている。窮屈そう。直してあげなきゃ。
「健太君、こっち、いらっしゃい」
布団の上に正座して、ひざをたたいた。健太君は、きょとんとしている。
「どうしたの、こっち、いらっしゃい」
両手を広げて呼んでみた。けど、健太君は、まだ来ない。口もとに指先を当てている。
「お姉ちゃんが寝間着を直してあげる」
そう伝えると、ようやく、布団の上を歩いて来た。健太君が目の前に立っている。こうすると、正座をした私よりも、健太君のほうが少し背が高い。
健太君の首筋、すべすべしている。しわがなく、たるみもない。まったいら。触ってみたい。健太君の唇が濡れている。指先も光っている。
健太君の帯に指をかけた。結び目をつまみ出そうとしても、固くて、なかなかほどけない。力を入れたひょうしに、健太君の体が傾いた。私のほうに倒れかかってきた。健太君の寝間着が私の髪の毛にかかった。寝間着の内側にこもっていた、汗のにおいがする。健太君、少し、体が熱くなっている。
私が今の健太君よりも小さかったころ、一度だけ、この家で嵐をやり過ごしたことがある。午前中、遊び回って汗をかいたのに、服を取り替えなかったときだ。体が熱くて、顔じゅうが、ほっぺたも、おでこも、ぼうっとしていた。おばあちゃんが私の顔に手のひらを当てた。「これは、いけない」と慌ててお風呂を沸かしてくれた。結局、お父さんだけ一人で先に帰って、お母さんはいっしょに泊まってくれた。その夜、嵐が来た。
あの時、私の体は、今の健太君みたいに、熱くなっていた。健太君の体、どんな感じだろう。健太君の寝間着、脇の下に汗のにおいが染みている。さらさらの髪の毛も、生え際が濡れている。
健太君の帯をいったんほどいた。前を重ね合わせた。それから、袖を整えて、蝶結びにしてあげた。
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)