百年に一度という未曾有の大不況。今や企業は人減らしに懸命で、解雇を逃れても給料激減で夫婦間に不協和音…なんて話も聞く。失職、離婚した中高年男性が、再就職や再婚に向けてリスタートを切りたいと願うのも当然だろう。しかし、それがなぜ“プチ整形”につながるのか?
「人間、どうしても第一印象に影響されるもの。就職の面接官だって人間ですから、少しでも見た目がいい人を選びますよ。私は古い人間だから、男が外見なんて気にするなとは思うけど。でも、それが現実なんだから仕方ない」(梅澤院長)
昔から「人を外見で判断するな」という。この格言、就職活動や婚活には通用しないのか。
「もちろん内面を磨くことは何より大切。でも、自分の気になる部分をプチ整形で直すことで、不安が取り除かれて自信につながる。外面を磨くことで内面にも好影響を与えることができるわけ。そもそも結婚については男のほうがロマンチストですよ。女は自分の人生がかかっているから真剣。会ったとたん相手の生涯賃金を計算するから(笑)。しかも男の頭のテッペンからつま先までシビアにチェックしている。初対面でひと言も話していなくても、女性は第一印象でビビッと感じるものです。それにもし女性から“生理的にダメ”って言われたら、そこで終わり。婚活以前の話ですよ」(同)
整形手術なんて芸能人じゃあるまいし…という認識は古い。手術の必要がない“プチ整形”の登場により、世間一般に幅広く浸透することになったからだ。
「現代人はね、大変だったり重かったりすることが嫌いなんだ。お見合いは面倒くさいから嫌だけど、婚活ならいいとかね。メスを入れないプチ整形がもてはやされているのも、そのあたりが要因でしょう。女性の患者さんにとってプチ整形は、白髪染めと同じような感覚。短い期間と低廉な料金で、欠点を直して颯爽と見せることができる。男性も同じ。ピッと光ってなきゃ」(同)
男性がプチ整形で直したい場所のトップは鼻。アゴや目元も比較的多いという。
「顔の形に合った鼻にして欲しいって要望が多いね。アゴの場合、下アゴを前に出して口を控えめにすると、口元が力強く男らしく見える。目元の施術は目の下のクマやタルミ取り。クマやタルミがあると疲れて見え、パワー不足の印象を与え、目力(めぢから)が減退するんです」(同)
昭和の時代には男性の美容整形なんて想像もできなかったこと。それがいまでは“白髪染め”感覚の気軽なものになってしまった。時代が変わったのだろうか?
「今は厳しい時代ですよ。昔なら“まぁいいか”で済んだものが、いきなり○か×かを迫られ、中間の△ってのがない。こういう時代だからこそ、打つべき手を打つ人は生き残れるし、手をこまねいている人は脱落する。それが競争社会。内面を磨くことはできても、さすがに自分で自分の顔を整形できる人はいない。だから美容外科に行く。そういう人じゃないと競争社会で生き残れないんじゃないかな?」(同)
ここで、これから実際に婚活整形を受けるという及川政彦さん(50)に、その心境を聞いてみた。
「もとは大手広告代理店で営業をやっていました。家庭内が上手くいかなくなり、内面的な荒廃が顔に出てきたんでしょうね。結構いい成績を挙げていたのに、どんどん数字が悪化してしまいました。上司からも他の社員に悪影響があるからと遠ざけられ、揚げ句に退職、女房とは離婚」(及川さん)
営業マンだけに元来はポジティブ思考の持ち主だったという。それが一転ネガティブなことしか考えられなくなり、表情に暗い影を落とす“負のスパイラル”に見舞われる。
「急激にヤセて顔にシワが増え、一気に老け込んでしまいました。いくつも面接を受けたんですが、担当官からは『暗い』とか『地味』とか言われて。これはいかんと思いました。営業は人と接する仕事ですから。幸い小さな広告代理店に再就職できたので、次は再婚しようかと」(及川さん)
整形箇所は苦悩の末に刻まれた額のシワ。伸ばすことで2〜3年は若く見られるという。
梅澤院長は「50歳って微妙な年齢です。肉体的には初老なのに精神的にはまだまだ現役。隠居する年じゃないですから、2〜3年若く見られるのは大きいですよ。美容整形のメリットは外面だけでなく内面も美しくしてくれること。見た目が美しくなれば内面にも自信が出てきますし。新調したスーツを着れば気持ちがパリッと改まるのと同じようなものだと思いますね」と話す。
“プチ整形”というだけあって、会社帰りや休日といったわずかな時間で気軽にできる。同じような悩みを抱えている中高年の男性にとって、ちょっとだけ人生を変えてみる好機になるのでは?
(写真=婚活整形の実態を語る十仁美容整形の梅澤文彦院長と、営業マンの及川政彦さん)