「来季は今季の数字すべてを上回る成績を残したい」と前田はさらに飛躍することを宣言した。広島の新エースに止まらず、セ・リーグ投手の沢村賞は04年の川上憲伸以来、6年ぶりという、待望久しいセ・リーグの新エース誕生だけに、前田の来季にかかる期待はチーム内外でさらに大きくなる。
同時に、黄金世代の1988年生まれ世代の競争もいっそう激化する。トップを走る楽天・田中将大が2000万円アップで年俸2億円の大台に乗った。4年目のシーズンで2億円を獲得した日本ハム・ダルビッシュ有に次ぐ、日本球界史上2番目のスピード記録だ。今季は自主トレ中の右足首ネンザに始まり、右大胸筋部分断裂に至るまで散々ケガに泣かされた田中だけに、来季の雪辱に燃えあがっている。
「ボクはタイトルを1度も取ったことがない。(ダルビッシュさんと)同じ土俵に上がっていない。タイトル争いではなく、タイトルを取りたい」と、初のタイトル獲得宣言をしている。意識している沢村賞、投手三冠を先に前田に取られただけに、田中とすれば、負けられない。ダルビッシュへのタイトル争奪戦宣言には、同期生の前田への激しいライバル意識がある。
年俸で前田に並ばれた巨人・坂本勇人は、悔しさをむき出しにしている。「対決した時は負けたくない」と。今季年俸8000万円から4000万円アップで1億2000万円の大台を突破したのに、前田の大幅昇給で一気に追いつかれてしまったからだ。
「我々世代はマー君世代だ」。前田は、プロ入り以来、新人王を獲得するなど常に黄金世代を引っ張ってきた田中にエールを送るが、外野席からは「マー君世代からマエケン世代に交代」の声があがっている。
黄金世代の中でビッグ3から大きく遅れを取った日本ハムのゴールデンルーキー・斎藤佑樹は、改めてその差を痛感させられただろう。「早稲田に行った4年間はムダではなかった」と言い切るが、人気は依然としてナンバーワンでも早大4年間で早実時代の投手としての輝きと魅力を失っている。
「現状では勝って5、6勝。二ケタ勝つには早実時代の躍動感のあるピッチングフォームを取り戻す必要がある。ダルビッシュという生きたお手本が身近にいるし、斎藤は頭の良い投手だから、再生できる可能性は十分あるが…」というのが、大半の球界OB、関係者の本音だ。
それにしても4年間の遠回りは計り知れないハンディになっている。国民的スーパースターだった甲子園時代の『ハンカチ世代』からプロ球界でも『佑ちゃん世代』を取り戻すには、何がなんでも田中、前田、坂本という最強ライバルトリオに追いつき、追い越すしかない。年俸1500万円からスタートの斎藤が2億円の田中、1億2000万円の前田、坂本を追い抜くXデーは本当に来るのか。