誰かいる。樹海の中。こっちに向かっている。吉原君だ。そうか、わかった。吉原君は私を助けに来たんだ。吉原君、お願い、早く来て。私、もう、怖くて一歩も動けない。
怪鳥がこっちへ向かってくる。また、悲鳴をあげた。鳥たちも、こっちへ集まってきた。怪鳥が、くちばしを震わせている。何か見つけたみたい。吉原君だったらどうしよう。吉原君は、まだ気がついていない。お願い、見つからないで。怪鳥が急降下を始めた。
吉原君、危ない。隠れて。岩の影。うん、そう。そうやって、そこにじっとしているの。そうすれば、怪鳥からは見えないはず。そのままやりすごして、そして、私の所に来て。私を抱き上げて。
急降下してきた怪鳥が、そのままとどまって枝葉をかき分けている。風だ。羽ばたきがここまで伝わってくる。盛んに悲鳴をあげている。何か感じているんだ。人間のにおいかな。どうしよう、吉原君は見つかったら、くちばしを突き立てられる。うずくまっている吉原君の上に、石が落ちている。
あっ、吉原君のおでこから血が出ている。吉原君、唇をかみ締めている。私を助けるために、痛みをこらえているんだ。うれしい。吉原君、早く来て。私を助けて。
怪鳥がようやく、枝葉をかき分けるのをあきらめて、上空に行った。下を見ながら、何度か回っていたけど、また、向こうの空へ飛んでいった。よかった、吉原君、見つからずにすんだみたい。
でも、吉原君は倒れている。石の下敷きになっているんだ。おでこから血が流れている。吉原君、うめき声を出している。苦しいんだ。けど、ダメよ、そこで倒れちゃ。立ち上がって。そして、私を助けに来て。
吉原君が立ち上がった。でも、吉原君、頭を抱えている。けど、よろめきながらも、歩きだした。そんなに私が大切なんだ。うれしい。
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)