仕事納めでオペラハウスに証拠品を返却しに行った神戸尊(及川光博)は不審なピエロ(斎藤工)に遭遇する。ピエロを追いかけたものの、逆に子ども達と一緒に誘拐されてしまう。神戸と連絡が取れない杉下右京(水谷豊)は子ども達と神戸が事件に巻き込まれたと推理し、警視庁に警察庁を加えての大規模な捜査となる。
『相棒』は個性の異なる匿名係の二人の掛け合いが魅力である。しかし、今回は神戸が人質になっており、杉下と神戸が意見をぶつける場面はない。代わりの臨時相棒は伊丹憲一(川原和久)であった。伊丹は刑事部捜査一課の刑事で、特命係のライバル的存在である。かつての相棒の亀山薫(寺脇康文)とは何かと張り合い、そこで笑いをとっていた。“イタミン”のニックネームが生まれるほど視聴者に人気キャラクターであるが、最近では特命係の協力者で終わることが多くなっている。
その伊丹が杉下の相棒になる。これはファンの期待を超えた展開である。伊丹は熱血漢という点では亀山に近い。今回も上層部の捜査方針に反したために捜査から外されてしまう。一方で「犯人の狙いは別の20億円」という右京の奇抜な推理に対し、「どこに20億円なんてあるのでしょうか。造幣局だって、やっていませんよー」と、くだけた茶々を入れ、突っ込み役としても安定している。
もともと神戸は密命を帯びて特命係に配属された人物で、神戸の存在が物語になっていた。season10の第1話「贖罪」では偽証の過去が明かされ、今回は人質になるように自身が事件の渦中にいるケースもある。第三者的に捜査する立場として、伊丹が杉下の臨時相棒になるケースは今後も期待できそうである。
『相棒』では犯罪者の置かれた状況を丁寧に描く点も魅力である。社会派エンターテインメントと称される所以である。昨年の元日スペシャル「聖戦」では真犯人は序盤から明らかで、息子を失った後の被害者の苦しみが描かれた。これに対して今回は薄っぺらな思想犯に見せながらも、どんでん返しが用意されていた。
事件の背後には富めるものはますます富め、貧しいものはますます貧しくなるという格差社会の現実があった。高層ビルによって青空さえも満足に享受できなくなり、ホームレスの居場所が再開発でなくなっていく。これはウォール街占拠や「We are the 99%」の運動と問題意識が重なる。
さらにホームレスの集う公園で炊き出しする女性は、杉下と伊丹を警察官であると見抜く。伊丹の顔が強面であるという理由で、ここは笑いどころである。一方で警察官と見抜いて警戒する彼女の反応は、ホームレスを排除し、ホームレス支援の活動を抑圧する傾向のある警察の姿勢を反映したリアリティがある。社会性と娯楽性を深めていく相棒に今後も期待大である。
(林田力)