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『ヨルムンガンド』第10巻、不気味な武器商人の意外な一面

 高橋慶太郎が『月刊サンデージェネックス』(小学館)で連載中の漫画『ヨルムンガンド』が、12月19日に発売された。武器商人ココ・ヘクマティアルと私兵チームの世界をまたにかけた戦いを描く。アニメ化も決定された。

 ココは世界的な海運業者の娘で、武器商人である。自身の護衛や裏家業のために私兵を擁している。クールビューティーであるが、何を考えているか分からない不気味さが漂う。世界平和のために武器を売るという一見すると矛盾する発言をしたココであるが、この巻ではココの野望であるヨルムンガルドの内容が明らかになる。

 ココの私兵チームは様々な人種、様々な経歴で構成される。これまでのエピソードにはメンバーの過去の因縁に決着をつける話もあった。もう一人の主人公的存在が私兵チームの新入りの少年兵ヨナである。彼は戦争孤児であり、戦争を人一倍憎むが、生き延びるために武器を持って戦うという矛盾を抱えている。年齢や悲惨な境遇の割にはクールな考えの持ち主であるが、その彼がヨルムンガルドの正体を知った時の反応が見所である。

 『ヨルムンガンド』は世界を舞台にした作品で、中国のアフリカ進出など国際情勢のリアリティを反映している。日本の自衛隊の闇組織も登場するが、あくまで脇役として物語の1ピースにとどまる。日本の漫画だからと言って特に日本に思い入れがある訳ではない。これは日本で生まれた作品では意外と難しい。

 たとえば現代の国境線とは切り離された未来を描く機動戦士ガンダムの世界でも、『機動戦士ガンダムSEED』では物語の主要国家の中立国オーブの軍艦の名前や軍隊の階級に日本的要素があった。『機動戦士ガンダム00』は三大国に集約された世界でありながら、日本は経済特区になっている。日本の作品である限り、日本を特別扱いする限界からは免れにくい。

 これらに比べると、『ヨルムンガンド』には日本の漫画という枠に囚われない普遍性があるものの、主人公の内面に日本的要素を垣間見ることができる。白人の設定のココは外見だけでなく、思考も日本人離れしている。一方でココの何を考えているか分からない微笑は日本人読者にとって不気味であるが、欧米人も自己の意見を明らかにしない日本人の顔に貼り付いたような微笑に不気味さを感じている。腹の内を明らかにしないために微笑を絶やさないココは日本人的でもある。

 さらに武器商人として冷酷なココであったが、自分達の私兵には強い仲間意識を抱き、信頼を求めている。多数の人々を犠牲にするヨルムンガルドを合理主義から正当化するが、私兵から批判されたことには衝撃を受ける。この仲間と仲間以外の人間への落差にココの日本人的な幼児性が表れている。

 欧米人は人種や宗派的な偏見によって人間とは思わない相手には冷酷になれるが、神の前に人間は平等という倫理観は有している。ココと私兵チームは特定の人種や宗派で結び付いた存在ではなく、一緒に活動してきた仲間意識があるに過ぎない。その仲間と仲間以外の人間を区別するココの意識は欧米的というよりも日本的である。普遍性を描きつつも内面には日本人的な要素のある作品である。

(林田力)

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