タイトルの「よつばと」は主人公の名前「よつば」に英語のandに相当する並立助詞「と」を付したものである。これは『よつばと!』を構成する各話のタイトルと関係する。本作品では各話のタイトルは「よつばとうどん」のように「よつばと○○」となっている。○○には、その話の主題となる「よつば」が体験したものが入る。『よつばと』は「よつば」と「よつば」が経験した物事の総称を象徴する。
『よつばと!』のキャッチコピーは「いつでも今日が、いちばん楽しい日。」である。それは決して過去をリセットして今を楽しむ刹那的な発想ではない。過去の積み重ねが現在を構成する。そして過去の蓄積を踏まえた上で、現在において新たな発見をすることで、今日を一番楽しい日とする。
遠い海の向こうの島から引っ越してきた「よつば」にとって日本の都市生活は初めての経験で、驚きの連続であった。この巻でも、「よつば」は、うどん屋のうどん製作や宅配ピザ、栗拾い、写真撮影などを体験する。
都市生活に慣れている読者にとっては当たり前のことにも「よつば」は驚く。何事も当然のように感じてしまい、発見も驚きもない日常を繰り返しがちな読者にとって、「よつば」の反応は思いもよらないものである。それが笑いを誘う。
好奇心いっぱいの「よつば」からは、ヨースタイン・ゴルデルのベストセラー作品『ソフィーの世界』を想起する。『ソフィーの世界』で哲学者アルベルト・クノックスはソフィーに、赤ん坊は偉大な哲学者であると繰り返し主張した。赤ん坊にとっては世界の全てが新しく珍しいため、当たり前と決め付けることはない。この世界に来たばかりの存在である赤ん坊は、習慣の奴隷になっていないためである。これは「よつば」にも当てはまる。
一方で連載の長期化によって「よつば」も都市生活に馴染んできた。当初は「よつば」の人間関係は小岩井家と隣の綾瀬家をチャネルとしていたが、うどん屋のように独自の人間関係も築き始めた。初対面の大人とも仲良くなれる「よつば」の才能である。
都市生活に馴染んだために「よつば」が極端な言動で周囲の大人を振り回す要素は弱まった。代わりに脇役の言動が笑いを補い、「よつば」を振り回すほどであった。安田はシャボン玉作りで「よつば」と張り合う。複数の道具を用意し、それを小出しにして「よつば」を翻弄した。
また、「よつば」にとっては家族同然のぬいぐるみ「ジュラルミン」が事故に遭う。普段は自由奔放で明るい「よつば」の落ち込む姿が描かれる。「よつば」を慰めようと綾瀬風香は「ジュラルミン」の目線で語りかけるが、逆に「よつば」からドン引きされてしまう。綾瀬あさぎが「ジュラルミン」を修繕するが、動物を治療するように扱い、「ジュラルミン」を生き物のように思っている「よつば」に合わせている。
『よつばと!』の魅力が日本人離れした純真な主人公「よつば」のキャラクターに多くを負っていることは事実である。しかし、「よつば」を見守る脇役達も余裕を亡くした現代日本社会では珍しい子ども心を持ったキャラクターである。これが作品世界を重厚なものにしている。
(林田力)