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『謎解きはディナーのあとで』リアルでキュートな北川景子のお嬢様

 フジテレビ系ドラマ『謎解きはディナーのあとで』が12月13日に第9話「聖夜に死者からの伝言をどうぞ」を放送した。北川景子の富豪令嬢役が話題のドラマであるが、リアルでキュートなお嬢様になっている。

 毒舌執事の影山(櫻井翔)が名推理を披露する『謎解きはディナーのあとで』は高度にパターン化されたドラマである。毎回のように殺人事件が発生し、富豪令嬢で刑事の宝生麗子(北川景子)は捜査に駆り出される。執事は「お嬢様の目は節穴でございますか」などと毒舌で罵倒しながら、真犯人を推理する。しかし、今回は定番を逆手に取ったシナリオで視聴者を惹きつけた。
 麗子が帰宅後に影山に捜査状況を説明するシーンでは、影山の挑発に乗せられて渋々教える展開が定番であるが、今回は執事を捜査マシンとして利用するために積極的に教えている。さらに麗子は「影山の目は節穴でございますか」と毒舌を返し、立場を逆転させた。

 麗子は世界的な企業グループ経営者の令嬢という設定であるが、いわゆるエスタブリッシュメントらしさはない。その言動は庶民的で優雅さが乏しい。たとえばキャッチコピーにも使われた麗子の台詞「アンタが一番怪しいっつーの」は、お嬢様の言葉遣いではない。影山の毒舌に麗子が怒るところはドラマの見どころの一つであるが、影山の毒舌も麗子の怒り方も直球で上流階級が好むエスプリはない。風祭京一郎(椎名桔平)も御曹司の設定であるが、道化になっている。
 金持ちの役なのに金持ちに見えなければ役者として致命的である。しかし、現代日本は格差社会と言われるが、精神面・文化面での格差は乏しい。高級な外車を乗り回し、高級レストランで食事し、高級マンションに居住することは価格が高いだけで庶民生活の延長線上に過ぎない。金持ちの文化が質的に高尚な訳ではない。
 北川景子のお嬢様は、そのような現代日本の令嬢像としてリアリティがある。今回は影山も風祭も野球という庶民スポーツの愛好者であることが判明した。影山はティータイムを中断して草野球に参戦し、風祭は少年野球の成績を自慢する。所得水準は高くても文化水準は大差ない日本の金持ち階層の現実を示す。
 そして今回の北川は毒舌執事の口真似でキュートさを見せた。お高くとまったステレオタイプの令嬢に徹していたら、違和感が生じるシーンである。単純な令嬢像では収まらない麗子という役どころを見事に演じている。

 定番外しでは12月14日に第10話「息子よ、夫よ、お願い…私も天国に連れて行って!」を放送した日本テレビ系水曜ドラマ『家政婦のミタ』も負けていない。家政婦・三田灯(松嶋菜々子)の台詞「承知しました」「それはあなたが決めることです」は定番化している。
 この台詞を三田が発言することを視聴者が予見できるほどである。そこは制作側も意識しており、登場人物に「また、『それはあなたが決めることです』と言うんじゃないの」と突っ込まれるほどである。さらに他の登場人物が三田を真似て同じ台詞を発言するシーンも登場した。
 そして今回は三田によって「それはあなたが決めることです」に深い意味が与えられた。このセリフは他人と距離を置く三田が相手を突き放すために使われてきた。しかし、今回は他人の意見に振り回されず、自分で決めることを求めた。

 これは他者志向の日本社会で古くて新しいテーマである。『家政婦のミタ』は秋クール最大のヒット作であるが、ここまで話題になると周りが観ているから観るという付和雷同型の視聴者も出てくる。その種の社会現象化に安住せず、ドラマが面白いか否かは自分が決めることであると視聴者に突き付けている。

(林田力)

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