阿須田家の絆を取り戻した『家政婦のミタ』では祖父・結城義之(平泉成)との関係改善に取り組む。前回の予告で期待させた家政婦・三田灯(松嶋菜々子)の過去はラストで明かされ、視聴者にとっては引っ張られた展開である。しかし、自分が家族を不幸にさせることを恐れる義之に対し、三田は愛する家族を失ってしまった体験を踏まえて語りかける。義之のエピソードと三田の過去がつながった展開になった。
『専業主婦探偵』は専業主婦の浅葱芹菜(深田恭子)が探偵となり、愛する夫・浅葱武文(藤木直人)の心を取り戻そうと奮闘するドラマである。今回は武文の問題と並行して、芹菜に潜入用のメイクをする理容師・十島丈二(古田新太)のためにも奮闘する。芹菜は夫に浮気された自分の苦しみを重ね合わせて十島に語りかける。
毎回異なる脇役の抱える問題を解決していく準オムニバス的な展開は連続ドラマの一手法である。しかし、軸となる骨太のストーリーがなければ連続ドラマとしての醍醐味はない。また、主軸のストーリーと無関係なエピソードでは尺稼ぎに映ってしまう。
この点で『家政婦のミタ』も『専業主婦探偵』も主軸となるストーリーを持っている。前者は三田にはどのような過去があって、今後どうなるのか、後者は芹菜が夫を取り戻せるのかである。そして脇役のエピソードも主軸のストーリーとオーバーラップする内容になっている。
三田も芹菜も基本的に自己本位の人間である。業務命令を機械的に遂行する三田を自己本位と形容することは表面的には違和感がある。しかし、三田は業務命令を免罪符に依頼人の本意や影響を考えることを放棄している。自分の過去の悲劇しか見ていない点で自己本位である。そのような人間が自分の体験に基づいて他人に語りかけるから説得力が生まれる。
本音と建前が乖離した日本社会では優等生的な利他主義には偽善の香りが漂ってしまう。『家政婦のミタ』の好調と比較されがちなTBS系日曜劇場『南極大陸』は不評に苦しむ。それは「皆で協力して敗戦国日本に夢を与える」という南極観測の建前の嘘くささも一因である。しかも、そのテーマが東日本大震災と福島第一原発事故で疲弊している現代の視聴者に奮起を促しているように感じられ、辟易させられる。
これまでの日本では三田や芹菜のような虐げられた人々は、辛い過去を忘れて前向きに生きることが美徳とされてきた。しかし、苦しむ人々を「頑張れ」と励ましても一層苦しめるだけである。虐げられた人々が自らの痛みと向き合うところに他人を救う力があり、ドラマの真実味もある。
(林田力)