吉川投手は関西大北陽高校から関西大学を経て2017年にパナソニック入り。1年目から主力投手として活躍し、チームを都市対抗野球出場に導いている。しなやかなフォームはダルビッシュ有投手を彷彿とさせるもので、ストレートの球速、変化球、そしてコントロールと完成度が高く、ドラフト上位候補と目される。
仮に日本球界を経ずにプロ入りとなれば、2008年オフに日本球団からの指名を拒否し、ボストン・レッドソックスと契約した田澤純一投手以来2人目となる。その間、菊池雄星投手や大谷翔平投手など、直接メジャーリーグ移籍を希望するドラフト上位候補は存在したが、周りに説得される形で日本球団に入団していた。
この背景には「田澤ルール」が大きく影響している。2008年の都市対抗野球でMVPに相当する橋戸賞を獲得するなど社会人ナンバーワン右腕といわれた田澤が「海外流出」することに危機感を持った日本プロ野球機構(NPB)が、日本球団のドラフト指名を拒否して海外球団と契約した選手は一定期間に日本球団と契約できないというルールを設けたのだ。
いわばこれが抑止力となっていたのだが、吉川投手はメジャー入りを断行。今後、追随する選手が出ることが予想される。
今回のメジャー入りにはどのような背景があるのか。アマチュア野球詳しいライターはこう分析する。
「日本球団に入団する場合、当然ながらドラフト会議で指名を受けることになりますが、現在アマチュア選手に逆指名権は認められていません。
したがって、阪神など、育成能力がなく、なにかと周りから指示を受けるチームに入る可能性が出てしまう。そのようなチームに入ると、4、5年、早い場合3年程度で、解雇され路頭に迷うことになる。
また、巨人のようにポスティングを認めないチームに入ると、大卒社会人の場合、FA権利を最短で取ったとしても30歳は超える可能性が高く、メジャー志向を持つ選手としては良い条件とは言えない。
それなら若いうちにメジャーに挑戦し、ダメなら人生をやり直したほうが、メリットがある。日本のプロ野球に魅力を感じていない選手なら、当然の選択かもしれません。
メジャー志向を持つ選手は、ポスティングを認めない巨人や、育成能力がなく何かと干渉される阪神には入りたくない。伸び伸びとしたプレーが可能で、ダルビッシュ有・大谷翔平のポスティングを認めた実績のある日本ハムに入りたいでしょうが、逆指名ができませんので。
社会人野球の選手は基本的に日本のプロ野球への入団を希望している選手が多いのが現状ですが、田澤のような高卒社会人や吉川のようなメジャー志向の社会人野球選手は、今後直接メジャーリーグに移籍していく可能性が高いのではないかと思います。
これを止める権利は誰にもないはず。職業選択の自由がありますから。メジャーに直接行ったからと行って縛るルールを作るNPBと、それを叩くファンは、排他的な考えと言わざるを得ません」
社会人野球はもちろん、大学・高校野球は「プロ野球の下部組織」ではない。選手がどのような進路を進もうとも、それを止める権利はないはずだ。
吉川投手がメジャー移籍を望むのなら、快く送り出してあげるのが、大人というものだろう。そして理不尽な「田澤ルール」は撤廃すべきだ。
取材・文 櫻井哲夫