(1)巨大雑貨チェーン「湯沢屋」の発祥地がここ蒲田とは知らなかった(2)宮城県仙台市の著名な居酒屋「一心」の突き出しは1800円もするそうだ(3)万年筆のライトブルーのインキは国産品のパイロットに限る。外国製品より明度と輝度が高い、などという話を忘れないうちにつれの男に向かって喋り倒す。
敵もさるもの、同じ数だけのしようもない話をこちらに投げ返してくる。互いにこらえしょうがなくなってきているから、話の軽重や順番などを斟酌しない。おばさんのおやじ化と、おやじのおばさん化は、どちらがはた迷惑なのだろう。おばさん化したおやじふたりが、向き合った2台のバッティングマシンのように、話題という球を撃ちつづける光景は、これから10年間増えこそすれ、減りはしないだろう。約束できないが、11年目から自然減に転ずる、かもしれない。
供された瓶ビールはサッポロの赤星だった。ここで一気に会話は、ちまたをあっと驚かせた、キリンとサントリーの合併話に収斂した。ウインウイン(勝者)同士がさらに安定した勝利に向けて統合するのだという。実現したら、業界4位のサッポロビールなど泡のように吹き飛ばされてしまうかもしれない。現に東京駅の新幹線キオスクでは、業界順位1位のアサヒと2位のキリンしか扱わなくなったようなのだ。ちなみにアサヒとサッポロは、1949年まで大日本麦酒という一つの会社だった。かといってもう戻れないよね、というところで一段落。
赤々と炭がおこった四角いコンロが出てくれば、焼き物タイム。自慢の魚介類を、自分好みの焼き加減でいただく。活貝の浜焼き盛り合わせ、鮪のほほ肉炙り、大海老焼きなどを室内キャンプのように楽しむ。大人の海浜学校、といった風情か、とまれ大人には酒は欠かせない。気になっていた飲み物ホイスを、そういってみる。ホイス、をご存知だろうか。納品業者らしい後藤商店の解説によれば<漢方のトウヒ、チンピ、南米産のコンズランゴウ、チラータ等の強壮成分にリキュール、ワイン等の酒精を配合した>もので、これにさらに<ズブロフカの風味を加えた健康酒>とある。読めば読むほど、どうも明朝が心配になってくる“健康酒”だが、味は思いのほかさわやかである。そして、知ったからよけいにそう感じるのではあるけれど、複雑系大人のカクテルの資格は十分。
店の名刺の裏に一工夫ある「道案内」があるので、ご紹介。<JR蒲田駅東口を出て、駅前ロータリーを左へ向かいます。蒲田駅東口交番を過ぎ、三菱UFJも過ぎ…。道中、いろいろ誘惑多いでしょうが、スグですから。ツキアタリの自転車置き場まで行けば、ホレ、豆球の灯りが、左手奥に見えてきます…>。
いろいろの誘惑を乗り越えてきたグループが、どどっと正面の座敷を目指してご入場。この店けっこう広いのだ。
予算3800円。
東京都大田区蒲田5-1-6