左肘の故障で2019年8月15日にトミー・ジョン手術を敢行。オフには育成契約に切り替えられ、リハビリでも「感覚を変えないと投げられない。苦労しています」と試行錯誤を続けた。今年3月16日に行われたファームでのイースタン・リーグ春季教育リーグで実戦復帰を果たし、地道な調整を続けると、6月15日には念願の支配下登録をゲット。そして遂にこの日、2018年9月16日以来の横浜スタジアムのマウンドにたどり着いた。
バッターは原口文仁。がんから復活した不屈の男との対戦となった。初球から144キロのクロスファイアでストライクで攻めると、2球目はフォークで空振りを奪い追い込むことに成功。3球目はアウトコースに際どいストレート、4球目は代名詞でもある117キロのカーブでファール、5球目はインコースにフォークがワンバウンドし、続く6球目のストレートはファールで逃げられる。7球目のアウトコースのストレートは、ギリギリベースをかすめたかに見えたがボール判定でフルカウントに。ラストボールはこの日最速の146キロをマークし、原口もハーフスイングしたが手首は返らずフォアボールを許した。次打者の小野寺暖には、アウトコース低めのストレートでファール、カーブで目線を上げさせ見逃しのストライクを奪うと、最後はフォークで当たり損ねのピッチャーゴロ。俊敏にマウンドを降り軽快に打球をさばくと、ゲームセットの瞬間を迎えた。
約3年ぶりの復帰登板に「(マウンドに)立たせてもらったことが大きい。本当に周りの方に感謝の気持ちを持って立たせてもらいました」と感慨深げに第一声。ファンには「一球一球、すごく大きな拍手を頂いてすごく背中を押してもらったので、とにかく2アウトからだったんですけど0で抑えられて良かったです」とホッとしていた。復活の第一歩を踏み出したが「これで終わらずに、最後までいいピッチングを続けられるように、頑張っていきたいと思います」と力強く先を見据えていた。
昨年二軍監督として田中を見ていた三浦大輔監督も「手術してからしんどいリハビリを経てここまできた。本当に今日のシチュエーションはピッチャー、野手全員が作ってくれて、その中で復帰できたことはチームにとっても良かったですし、本人のためにも良かったと思います」と目を細め「これからまた、チームのためにどんどん投げてもらいます!」と期待を込めた。
苦しい時を乗り越え、ストレートは以前より球速は上がり、力強さも感じ取れた復帰登板。16、17年と60試合以上に登板し、身を粉にして弱かったベイスターズを引き上げる原動力となった田中健二朗が、再び下位に沈んでいるチームを引き上げる。
取材・文 ・ 写真/ 萩原孝弘