本事件は日本で旅客船が乗っ取られる「シージャック事件」の第1号であり、また犯人が警察に狙撃され死亡する瞬間がカメラに収められるという日本の報道史上に残る重大事件でもあった。
事件発生は5月12日の昼頃。この日、広島駅周辺で「街中に猟銃を持った男がいる」と警察に通報が入った。
シージャック事件を起こした当時20歳の青年Kは、逃走資金獲得のため当時19歳の少年と一緒に広島の郵便局を襲おうとしていた。
しかし、駅で待ち伏せされた警察官に行く手を阻まれ、少年は逮捕された。Kは少年を見捨て今度は広島県警察本部の近くにある銃砲店からライフル銃と弾薬を奪い、タクシーで宇品港入り。停泊していた愛媛県今治市行きの旅客船「ぷりんす号」の船長をライフルで脅し、乗客30人余りを人質に脱走してしまった。
その後、乗客は「ぷりんす号」の燃料補給時に釈放されたが、船員7名は釈放されず翌日13日の朝9時ごろ宇品港に戻ってきた。Kはライフル銃を連発し威嚇射撃を続けた。Kは興奮状態にあり、いつ人質を殺してもおかしくなかったため、警察はKをライフル銃で狙撃。Kはその場に倒れ死亡したが、幸いにも人質は全員無事であった。
以上が「瀬戸内シージャック事件」のあらましである。
本事件は関西、中国地方の警察官が1000人以上も動員された事件であり、同時にマスコミも危険を顧みず現場に駆け付けた。
Kが警察に左胸を撃たれ、苦渋の表情を浮かべながら船に倒れ込む姿はカメラマンがバッチリと収めていた。この映像は以来40年以上にわたり「衝撃映像」のひとつとしてたびたび放送されている。
しかし、あまりに陰惨な映像であるためか、近年ではKの顔にモザイクがかけられ、また狙撃される瞬間は2015年ごろを境に放送されなくなったという。
確かに人が撃たれて死ぬ瞬間は、見る人によっては嫌悪感を抱くかもしれない。しかし、凶悪犯人を追い詰め狙撃するまでの一部始終は、撮影したメディアの財産ともいえる。「完全封印」してしまうのはおかしいと指摘する声も少なくない。