社会
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社会 2015年12月28日 16時30分
中国と国交断絶か 北朝鮮「モランボン楽団」ドタキャン騒動全真相
北朝鮮の金正恩第一書記が、K-POPの人気アイドルグループ『少女時代』への対抗心を剥き出しにしてプロデュースしたのが牡丹峰(モランボン)楽団だ。12月12日、その海外初公演が突然キャンセルされた。一体、何があったのか。 「今回の公演は興行ではなく、金正恩自身の威勢を中国の習近平国家主席に見せつけるために100人もの大公演団を派遣した国家事業です。モランボン楽団と功勲国家合唱団は、それぞれ軽音楽と合唱というジャンルを担うはずでした。楽団メンバーの約20人は、いずれも容姿端麗ですが“喜び組”と違い芸術大出身のエリート。ポップスやロックも歌えば弦楽器なども弾く芸術家集団です。とはいえ、お色気も満載で、2012年7月に平壌で行われたデビュー公演では、ボディーラインがくっきりと分かるドレスや美脚をあらわにするミニスカート、高さ10センチのハイヒールで登場して新時代の到来をアピールしました」(北朝鮮ウオッチャー) 習主席は就任後、一度も金第一書記と会っていない。その一方で、これ見よがしに韓国の朴槿恵大統領とは5回ほど会談している。そんな正恩嫌いの習主席が、なぜこれまでの慣例を破る対北外交政策に転じたのか。 「中国側は公演に先立ち、ネット上に流れる金第一書記を小バカにした書き込みなどにNGワードを設定しています。北側も親中派のドンだった張成沢(チャン・ソンテク)の粛清で本格的に冷え切った中朝関係を改善する絶好の機会と意気込んでいました。国営の朝鮮中央通信が海外メディアの紹介記事などを引用し、『世界も注目するおしゃれな楽団が真っ先に中国に行く』と大々的に宣伝していたほどです。第一書記も楽団の公演成功を足掛かりに、自身初の中国外遊を見据えてもいました。その上で、来年5月に開かれる朝鮮労働党第7回大会に、習主席を招請する計画を進める予定だったのです」(日本在住の中国人ライター) ところが今回のドタキャンで、両国は以前にも増して高い緊張状態に入った。香港の人権団体『中国人権民主化運動ニュースセンター』は13日、中朝国境地帯の中国軍警備部隊が2000人増員されたと報じた。 公演を一方的にキャンセルされたことに怒り狂った金第一書記が「暴発するのでは」と習主席一派が恐れたからだという。 中国の癪に障る騒動ばかりを起こしてきた金第一書記について、江沢民(元国家主席)派は“頭なでなで路線”、習近平政権は“無視”と、真逆の姿勢で臨んできた。中国共産党中央対外連絡部の公式サイトなどの発表を見ると、今回楽団を招聘したのは、10月初めに朝鮮労働党創建70周年記念式典に出席した党序列5位の劉雲山(リュウ・ユンシャン)中国共産党政治局常務委員だ。 「劉雲山は最高指導部中枢にいる江沢民派で、今回の公演は北側と協議し彼が決めたものであり、習派は直接的には関与していません。劉雲山側から手を差し伸べる形で、金第一書記は関係修復のきっかけをつかんだのです。ところが、こうした江派の何らかの意図、工作を知った習派が、楽団の公演内容にイチャモンを付け公演中止に追いやったのでは、という見方もなされています」(反体制中国人ジャーナリスト) 韓国・聯合ニュースが13日、中国政府消息筋の話として報じたものでは、金第一書記の「水爆保有発言」に中国側が不快感を示し、公演を観覧する幹部を党政治局員から次官級に格下げし、これに激怒した北側がドタキャンという“報復”に出たとする見解や、金日成、正日、正恩三代への過度な礼賛に嫌気が差したことなどを挙げている。 「その2つの理由はどうでしょう。実験をした形跡もないのに水爆保持を表明したとしても誰も信じません。米国は『あり得ない』と無視していますし、中国だって幼稚園レベルの話に怒る気も起きないでしょう。またモランボン楽団に限らず、北朝鮮の文化芸術は、正恩の偶像化が目的であることなど中国側も公演前から分かっていることです」(同) 中国国営新華社通信は公演中止の理由について「実務レベルのコミュニケーションで行き違いがあった」と解説しているが、楽団の海外初公演は、中朝両国の関係改善といった政治的な目的が前提となっているだけに、それを実務レベルの意見対立から中止するとは思えない。国家的な事業である楽団の場合、特に考えにくい。 実は中国反体制派メディアでは「2人の楽団員が亡命し、これに激怒した金第一書記が帰国させた」という説がある。むしろこの方が納得できる。正恩時代に入って幹部への粛清は激しさを増しており、今年3月には、夫人の李雪主がかつて所属していた銀河水管弦楽団の芸術関係者が、韓国人スパイと関係を持った容疑を掛かられ、公開銃殺された。過去には、やはり芸術団員が“ポルノ出演疑惑”に巻き込まれ処刑された例もある。楽団は金第一書記が結成しただけに、楽団員の中にも“粛清”の二文字がよぎって当然だ。北京公演をチャンスとばかりに亡命する楽団員が出ても何ら不思議はない。 ドタキャンの理由が中朝いずれにあったにせよ、両国の関係が瓦解したことだけは間違いない。身の程知らずな暴君、金正恩のことだ。今ごろ「習近平を“粛清”してやる。中国とは国交断絶だ!」と怒鳴り散らしていることだろう。
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社会 2015年12月24日 13時00分
達人政治家の処世の極意 最終回「石橋湛山」
私の念願と決意が達成できぬなら耐え得るところにあらず。政治的良心に従い進退を決す。 人の価値判断、いわゆる「その人を見る目」の最大のメルクマール(指標)は「出処進退」の様態であり、特に「退」が重視される。 「晩節を汚す」という言葉がある。最盛期にどんなに仕事ができ敬意を集めても、いざ退陣のころになると立場、ポストに妄執し、醜態を晒すことでそれまでの実績、功績がゼロになってしまうということである。「退」にあたって潔さがないということ。特に政治の世界では、総理大臣というトップの座にすわった者の多くが、退陣後も何とか影響力を残したいと手練手管を弄する。これが、「院政を敷く」という潔さとは無縁の言葉になっている。 そうした「退」の醜態とは無縁、政権はたった65日間と短命だったが、歴代総理の中で「最も鮮やかな引き際」として名を残しているのが昭和31年12月、鳩山一郎首相の後を継いだ石橋湛山であった。表題の言葉は、病いを得、無念の退陣を決意した際に時の首相臨時代理の岸信介、自民党幹事長の三木武夫に宛てた書簡の一部である。 日蓮宗の宗門出身だった石橋はリベラルの立場から、軍部ににらまれながらも常にこれに対峙、自説を貫いた経済ジャーナリストであった。昭和11年の「2・26事件」では、『東洋経済新報』誌主幹としてその社説に“傍観者”をキメ込むマスコミに痛烈な一筆を記すなど、言論人としての反骨精神豊かで、同時にハラのすわりも並みではないことを示した。首相の座にすわるや経済理論としてはケインズ流の積極財政の推進、外交では対中国接近政策を模索した。その上で、自民党では党内融和と派閥解消を、国会においては行き詰まる国会運営の正常化を目指した。 表題の「念願と決意」は、まさに権力抗争に明け暮れる自民党と、それゆえに混迷する国政の停滞の打開に対してだった。 しかし、宗門出身ゆえか権諜術策による議員操縦などはまったく興味なく不得手、ために首相就任からすぐにこの「念願と決意」は壁にぶち当たり、悪いことにこの期、肺炎を引き起こす一方、持病だった三叉神経麻痺が悪化して言語障害まで加わるという運のなさに襲われた。もとより国会の予算審議出席などもままならず、表題の「政治的良心に従い進退を決す」での退陣ということであった。 首相臨時代理を置いていることから若干の病気療養、復帰という道はたぶんに残されてはいたのだが、国政の停滞回避を第一義とし、「鮮やかな引き際」を決断したということである。ちなみに、石橋が政界に転身したのは、最愛の次男を第2次大戦のマーシャル群島で戦死させていることが大きかった。戦死を知り、「此の戦い、いかに終わるか。汝が死をば、父が代わりて国の為に生かさん」と詠んだことで知れる。 こうした石橋のトップリーダーとしての業績評価、功罪は政権わずか65日とあまりに短いゆえに安易に問うことはできない。しかし、その情況を垣間見ることはできる。もともと権力欲が薄く、総裁選に自らそれほど強い出馬意欲はなかったが、少数派閥ながら本連載第21回登場の石田博英の“ウルトラC”演出も手伝って岸信介、石井光次郎の対立候補を押さえて勝利した。その人柄、経論を敬愛する人たちに担がれた側面が強かったということである。そして、退陣は自ら決したのであった。 あらためて、「出処進退」には大原則があることを知りたい。越後長岡藩の家老として名を残す河井継之助の名言にいわく、「進ム時ハ人マカセ。退ク時ハ自ラ決セヨ」とある。「退」とは、仕事に対する執着、未練を自ら断ち切る作業である。この際の人への相談は、茶番の何物でもない。 例えば、社長が幹部に「そろそろ辞めようと思うが、君はどう思うか」とやれば、「いや、まだまだ頑張っていただかないと」などの声が返ってくるのは当然だ。「そりゃあ、いい考えです」などと言う者は一人もいない。もし結果的に辞めなければ、後々この社長ににらまれるのは必定だからである。 また、稀代のトップリーダーとして専横を極めたあの田中角栄元首相も言っている。「多くのことは突っ走ることもやむを得ない。しかし、トップリーダーは国民が絡んだことには無私六分、私情は四分に抑えることだ」と力説してやまなかった。この「国民」という言葉を、「社員」「組織」と置き換えることができるのである。 人間には、必ず「退」の時が来る。高潔で鳴った石橋の「退」を、ぜひ見習いたいものである。=敬称略=〈完〉■石橋湛山=第55代内閣総理大臣。大蔵大臣(第50代)、通商産業大臣(第12、13、14代)、郵政大臣(第9代)などを歴任。保守合同後初の自民党総裁選を制して総理総裁となったが、在任2カ月余で発病し退陣した。小林吉弥(こばやしきちや) 永田町取材歴46年のベテラン政治評論家。この間、佐藤栄作内閣以降の大物議員に多数接触する一方、抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書多数。
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社会 2015年12月24日 10時00分
LCC(格安航空会社)エアアジア 来春4月“再フライト”白紙撤回危機!
JTBがまとめた年末年始(12月23日〜1月3日)の旅行動向によると、海外旅行は円安やテロの影響などで62.8万人(前年比4.3%減)と減少するものの、国内旅行が2996万人(同0.3%増)と過去最高を更新する。結果、過去との比較が可能な1996年以降では最高のトータル3058.8万人に膨らむ模様。絶好の稼ぎ時とあって陸・海・空の関連会社や旅行会社は対応に大わらわだ。 そんな至福の組を尻目に、早くも視界ゼロの様相を呈してきたのがLCC(格安航空会社)のエアアジア・ジャパンである。同名の会社は2012年8月に成田国際空港を拠点に国内線に就航したが、共同出資社であるANAホールディングスとエアアジア(本社:マレーシア)の対立から、わずか10カ月で合弁を解消、ANAが完全子会社化して社名をバニラ・エアに変更し再出発した経緯がある。 ここで言うエアアジア・ジャパンは昨年7月、エアアジアが楽天、化粧品会社のノエビアHD、スキー用品会社のアルペンなどと設立した会社。アジア最大のLCCであるエアアジアにとっては、文字通りのリターンマッチとなる。 そのエアアジア・ジャパン(以下エアアジア)は中部国際空港を拠点に、来年4月から札幌、仙台、台北(台湾)への3路線を、いずれも1日2往復就航する計画。当初は2機のエアバスA320型機(180席)で運航し、来年暮れまでに6機に増やした後、年に5機ずつ増やす予定と発表していた。そんなバラ色の計画に、何やら暗雲が漂い始めたのだ。 「実を言うと去年の旗揚げ当初、会社側は今年夏の就航を唱えていた。ところが体制作りに手間取り、国土交通省への航空運送事業許可の申請が大幅に遅れて認可を得たのは10月6日のこと。この時点でやっと航空会社を名乗れるようになったのですが、フライトに向けてまだ安全管理や整備、運航などの認可を得る必要がある。パイロットや客室乗務員の養成も不可欠とあって来年4月の就航に赤信号が点滅しており、大幅にズレ込む可能性さえ指摘されているのです。一部には『幻のフライトになりかねない』と、運航自体を危ぶむ声さえあるほどです」(関係者) そんな事態に、当のエアアジアや大株主が危機感を募らせないわけがない。果たせるかな、そこで打って出た“奇策”が物議を醸している。12月1日付で経営陣を刷新し、会長にスカイマークの会長だった井手隆司氏、CFO(最高財務責任者)にこれまたスカイマークの社長だった有森正和氏をヘッドハンティングしたのだ。御両人ともスカイマークの民事再生計画が成立したのを見届けて9月29日付で退職したばかり。断るまでもなく、スカイマークは今年1月に民事再生法を申請して経営破綻した。その2トップを新たな舵取り役に迎えざるを得なかったところに、エアアジアの焦燥感が透けて見える。 この“2本釣り”に伴い、旧エアアジア時代から社長を務めていた小田切義憲最高経営責任者(CEO)兼社長が退き、社長ポストを空白として後任のCEOにエアアジアのCFOだった秦修氏が就任した。 一連の人事に航空アナリストは「就航準備を急ぐ必要があったとはいえ、マレーシアのエアアジア自体が破綻したスカイマークのスポンサー候補に名乗り出た会社。その意味では節操がありません。第一、破綻会社の2トップを会社の顔に迎えたこと自体、社員の目には『縁起でもない』としか映らない。当然、士気に影響します」と手厳しい。 実際、笑うに笑えない話がある。10月16日には1号機が中部国際空港に到着した。ところが整備スタッフ不足から未整備状態が続き、やっと整備した途端、今度はバッテリーが上がってエンジンが停止。とうとう部品交換を余儀なくされた。出費はそれだけにとどまらない。就航が遅れれば地上スタッフだけでなく、パイロットや客室乗務員の給料負担が重くのしかかる。関係者によると同社は資本金70億円のうち既に約半分を消費している。これで来年4月の就航予定が半年も遅れれば、金庫がカラの事態も予想される情況だ。その場合、増資を実施するにせよ、株主間に不協和音が生じないとも限らない。だからこそ2トップ発表に際し、エアアジアは巧妙な“仕掛け”を施した。 「人事発表に際し、エアアジアグループのトニー・フェルナンデスCEOと楽天の三木谷浩史会長兼社長が『成功を確信する』ウンヌンのコメントを発表した。2トップは騙されたフリをして彼らの首に鈴を付け、退路を断たせたのです」(前出・アナリスト) “再フライト”にこぎ着けたとしても、航空大手や鉄道との競争は熾烈を極める。年末年始旅行で主役を演じるようになるのは、まだまだ遠い日というのが実情だ。
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社会 2015年12月23日 10時00分
世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第155回 単位労働コスト
中国の「単位労働コスト」が日本を上回ったことが話題になっている。「単位労働コスト」とは何だろうか。 その前に、歴史の話をしなければならない。 イギリスの植民地と化す前のインドは、世界屈指の綿製品の製造大国であった。インド産綿製品は欧州にも輸出され、大いに消費者に売れた。特に、国民が羊毛を中心とした衣料品しか知らなかったイギリスにおいて、着心地が良いインド産綿製品は爆発的な人気を呼ぶことになる。インド産綿製品は、メーンの出荷港がカルカッタだったこともあり、「キャラコ」と呼ばれていた。 国内の衣料品市場をインド製品に席巻されたイギリス側は「保護貿易」に走った。イギリス政府は1700年と1720年の2度にわたり、インド産の綿布の輸入を制限、禁止するキャラコ禁止法を成立させる。 まずは1700年に「イギリス国内の繊維業者を保護」することを目的に一部の綿布の輸入が禁止され、さらに1720年には再輸出用を除くすべての綿布の輸入が禁止されてしまったのである。 イギリスは国内において綿製品生産に向けた大々的な設備投資、技術開発投資を行った。すなわち、産業革命である。綿製品の生産性向上を目的に、イギリスではさまざまな技術が開発され、最終的には1785年に蒸気機関を動力とした力織機をエドモンド・カートライトが発明。同国の綿布生産に関する生産性は、劇的に高まった。 機械化により大量生産が可能となり、当たり前の話としてイギリス製綿布の値段は下がっていった。結果的に、イギリスは綿製品の市場でインドとの競争に勝つことが可能な価格競争力を手に入れたのだ。 イギリスは機械で大量生産される綿製品を、自国市場はもちろんのこと、インド市場にも輸出していった。しかもイギリスは、かつての自分たちは「保護貿易」で自国の綿製品市場を守ったにもかかわらず、インドには「自由貿易」を要求。ムガール帝国に圧力をかけ、イギリス製綿製品について掛けられていた5%の関税を撤廃させた。 関税という盾を奪われたインド側は、イギリスから押し寄せる安価で大量の綿製品になすすべもなく、国内の手工業的な綿布生産が、大げさでも何でもなく「壊滅的」な状況に陥ってしまう。それまで綿工業で繁栄を極めていたダッカ、スラート、ムルシダバードなどの街は貧困化の一途をたどり、当時のイギリスのインド総督が、 「この窮乏たるや商業史上にほとんど類例を見ない。木綿布工たちの骨はインドの平原を白くしている」 と表現するに至ったのである。 この“歴史的事実”を読み、一つ、不審に感じた点はないだろうか。 イギリス産綿製品がインド市場で売れていったのは事実だが、理由はインド産よりも「安価」だったためである。ということは、イギリスの人件費はインドよりも安かったのか。もちろん、そんなことはない。 人件費が高いイギリスの綿製品がインド産よりも安くなってしまった理由は、イギリスの方が「生産性」が高いためである。製品一単位当たりの労働コスト、すなわち単位労働コストは、人件費のみで決定されるわけではない。 例えば、イギリスの工員一人当たりの給与水準が月額20万円、インドが5万円だったとしよう。人件費のみを比べると、イギリスの方が労働者一人当たりで4倍ものコストが掛かってしまう。ところが、イギリスは産業革命により大量生産が可能となり、労働者一人でひと月に1000枚の綿製品を生産できたとしよう。対するインドは、手工業的な生産であるため、どれだけ頑張っても労働者一人当たり、ひと月に100枚しか生産できない。 この場合、月あたりで見たイギリスの単位労働コストは、綿製品1枚当たり200円だ。それに対し、インドは500円。単位労働コストで見ると、インドで生産する方が「高くつく」という話になってしまうわけだ。生産者一人当たりの生産量、すなわち生産性の違いは、人件費以上に製品の価格競争力に決定的な影響を与えるのだ。 現在、「世界の工場」といわれた中国の人件費が上昇を続けている。反対側で、日本の「グローバル」から見た人件費は、実質賃金低下や円安で下がった。 結果的に、冒頭で書いた通り、日中の単位労働コストが接近し、ついに「逆転」してしまった。 SMBC日興証券の試算によると、日中のドル建て単位労働コストは、1995年時点では日本が中国の3倍を超えていたとのことである。その後、'13年に中国の単位労働コストが日本を逆転。'14年以降も、差が埋まるどころか、むしろ開きつつある。すなわち、中国で生産をする方が、日本で生産するよりも「高くつく」時代に入っているのだ。 ちなみに中国の人件費は年に1割程度の上昇が続いているが、JETRO=日本貿易振興機構によると、工員の平均月給は北京で566ドル(約7万円)、上海で474ドルとのことである。日本は2000ドル超であるため、賃金だけを見ればわが国の方が不利だが、生産性を加味した単位労働コストで見ると、中国の方が高いというのが現実なのだ。 決定的に重要なのは、単位労働コストは“人件費のみでは決まらない”という点になる。すなわち、生産性の違いにより、単位労働コストは変わってくるのである。 今後、わが国は生産年齢人口対総人口比率の低下により、人件費は上昇せざるを得ない。そうであったとしても、設備投資、人材投資、技術開発投資、そして公共投資という四投資により生産性を高めれば、単位労働コストで諸外国に優位な立場に立つことは可能なのだ。 単純に「安い賃金」を求め、企業が続々と外国に雇用を移していくのでは、国民が貧困化し、将来的に日本は発展途上国と化す。 それに対し、今後の日本企業が生産性向上により単位労働コストを押し下げる投資を拡大すれば、「国民が豊かになる日本」と「グローバルな価格競争力強化」を両立することは可能という真実を、今こそ日本国民は理解しなければならない。みつはし たかあき(経済評論家・作家)1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。
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社会 2015年12月22日 10時00分
森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 あきれた中小企業支援策
政府が赤字の中小企業の投資を支援する減税策を決めたと、新聞・テレビが大きく報じた。 これまで、大都市・大企業・富裕層優遇の施策一辺倒だった安倍晋三政権が、方向転換を図ったのかと一瞬思ったのだが、その内容は、あきれるほど貧弱なものだった。 政府・与党が12月6日に決めた中小企業向け投資減税は、中小企業が機械や装置の新規投資をした場合、その機械・装置にかかわる固定資産税を、3年間にわたって半減させるというものだ。甘利明経済再生担当相は、「利益に関係なく支払っている固定資産税を減税すれば、赤字企業でも設備投資のメリットが出てくる」と記者団に語った。 中小企業の大部分は赤字で法人税を納めていないから、法人税率を下げても恩恵は受けられない。その点、固定資産税を半減させれば、中小企業にも恩恵が行き渡る。そのこと自体は正しい。 しかし、今回の減税はあくまでも機械・装置の新規投資分だけが対象となり、建物は対象にならない。つまり、減税となるのは、主として製造業ということになる。 ところが、中小企業のなかで製造業が占める割合は11%に過ぎない。大部分の中小企業は減税の蚊帳の外に置かれるのだ。 また、固定資産税の標準的な税率は1.4%だから、この投資減税による負担減は、新規投資の0.7%に過ぎない。減税額としては非常に小さなものなのだ。その証拠に、この投資減税の財源は200億円を下回ると報じられている。 一方、大企業に恩恵をもたらす法人税減税は、来年度から実効税率が29.97%に引き下げられる。第二次安倍政権が発足したときの法人税の実効税率は40.69%だった。つまり政権発足後に税率を10.72%引き下げることになる。法人税は1%下げると4000億円の減収になるから、4兆2880億円という巨大な減税になる。これは、中小企業の投資減税の214倍の規模だ。しかも、今回の法人税減税の財源の一部は、外形標準課税の強化で賄われる。 外形標準課税というのは、大企業の法人事業税の算定の際に用いられている税金で、資本金、支払い利子、給与、家賃などに基づいて算定される。つまり、赤字企業でも支払わなければならない税金だ。それを大幅に強化するのだ。 つまり、今回の税制改革で安倍内閣が行おうとしているのは、大きな利益を出している勝ち組大企業を減税する代わりに、赤字の大企業を増税し、消費税の増税で庶民や中小企業を痛めつけるという税制改革なのだ。 さらに安倍政権は、来年に、お年寄りを中心に1人3万円を配る「臨時給付金」の支給案を与党に示した。1250万人が給付の対象になる。 この給付金の目的は、来年の参議院選挙に向けてのバラマキであることは間違いない。 こんな滅茶苦茶な税制改革が行われているのに、最近の内閣支持率は、大幅な上昇を示している。そのことは、大本営発表を垂れ流し続けているメディアの責任だと私は思っている。このまま本質を捉えた報道がなくなれば、民主主義は終わりだ。
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社会 2015年12月21日 10時00分
自民vs公明・創価学会 軽減税率1兆円を巡る菅官房長官の暗躍
当初、自民圧勝と思えたプロレス試合。しかし、味方と思われた自陣のボスに後ろから殴りかかられ、自民チームの撃沈試合となった−−。言うまでもなく自公の軽減税率をめぐる綱引きのことだが、“自陣のボス”とは、菅義偉官房長官のことだ。 「最近の菅氏はやりすぎ。誰が首相か分からない。先の大阪市長選でも、来年の参院選を見据え、背後で維新が有利になるように公明党・創価学会と手を組み、維新市長を誕生させたフシがある。今回も、自民党税調を応援するのではなく、公明・学会寄りで、宮沢洋一党税制会長、谷垣禎一幹事長を屈服させた」 自民党税調関係者がこう嘆くように、公明・学会は、生鮮食料品だけでなく加工食品まで軽減税率を拡大するため、かなり以前から相当周到な準備を重ねてきたという。 その第一歩が、菅氏に大阪市長選で維新支援の貸しを作ることであり、さらには難攻不落とみられていた野田毅・前税制会長潰しだ。 「これは偶然のタイミングだったのか。'09年から6年間も自民党税制会長を務めてきた“税制のドン”の野田氏が、『軽減税率は生鮮のみ4000億円』と立ちはだかっていた。ところが、野田氏の秘書が10月に覚せい剤取締法違反容疑で逮捕されると同時に、公明は菅氏周辺に更迭論をけしかけ、それを受け安倍首相が野田氏に引導を渡したのです。公明・学会にすれば、神風というか“仏風”が吹いたということです」(同) かくして野田氏が退き、宮沢氏が党税制会長となったが、宮沢氏は谷垣幹事長、二階俊博総務会長、稲田朋美政調会長らと歩調を合わせる第二の抵抗勢力。 「そこで11月末、学会幹部は、加工食品まで軽減税率を拡大できなければ、来年夏の参院選はもとより、1月の沖縄の宜野湾市長選にも自民党支援はできないと通告し、菅氏を震え上がらせた」(菅氏周辺) たたみかけるように公明党の漆原良夫中央幹事会長と太田昭宏前国交相は12月1日、抵抗勢力の要、二階総務会長と会談を行った。 「漆原氏はコンビニの加工食品まで軽減税率を拡大しないなら、連立離脱、消費税増税案にも反対すると突きつけ、二階氏が折れたのです」(事情通) 結果、安倍首相が菅、二階案に傾き、9日昼、谷垣幹事長に「加工食品にも」と指示し、軽減税率1兆円で決着となったのだ。 「つまりは来夏参院選のために公明・学会の“買収費用”が1兆円掛かったということになります。これで消費税値上げの真の目的である『社会保障費と税の一体改革』があやふやになったことは間違いない。財源も大変です」(財務省関係者) 結局、最終的に振り回されるのは我々国民だ。
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社会 2015年12月20日 14時00分
風雲急を告げる来夏衆参W選挙 安倍自民、橋下維新の芸能・スポーツ界「出馬候補者」リスト(2)
先の大阪府知事、大阪市長のダブル選で完勝したおおさか維新の会も臨戦態勢に入っている。橋下徹大阪市長が出馬するとともに、ニュースキャスターの辛坊治郎氏、東国原英夫元宮崎県知事の名前も取り沙汰されている。 「橋下氏が参院選出馬を否定しているのは、衆院選出馬が念頭にあるからです。橋下氏は憲法改正や道州制移行で安倍首相と政策が近く、先のダブル選でも首相は大阪の自民党候補より橋下維新の勝利を望んでいた。当初、首相は橋下氏の参院選不出馬発言に伴い、民間人として橋下氏の総務大臣登用プランを温めていた。しかし、衆参ダブル選が浮上したことで橋下氏は衆院選出馬の意向を固めている。将来の総理大臣という野望がある彼には、ハナから衆院議員しか頭にない。安倍首相もおおさか維新は自民党の補完勢力、公明党とともに連合軍ととらえており、衆参ダブル選の発案者は、実は橋下氏という情報もある」(政界事情通) 6年前の参院選でたちあがれ日本から出馬し次点に泣いた中畑清前DeNA監督だが、同党からおおさか維新に移った片山虎之助参院議員が衆院選東北ブロックの目玉に推しているという。参院選には、橋下氏が掲げる大阪都構想に肩入れしていたお笑いタレントのたむらけんじの名前も挙がっている。 公明党からは女優の岸本加世子、ねづっちなどの名が囁かれている。 一方、野党勢力は足並みが揃わない。民主党の岡田克也代表は複数の1人区でSEALDsのメンバーなどを「無所属の候補」で立て、各党に共闘を呼び掛けているが、SEALDs創設者の奥田愛基氏をはじめ、メンバーのほとんどが被選挙権を有さない。また、共産党との連携に反対者も多い。 一方で、前原誠司元代表、細野剛志政調会長らは解党して日本維新らと新党結成を目指すものの、党内には反対論が多くペンディング状態。漏れ伝わってくるのは、プロ野球労組でオーナー連と渡り合った古田敦也氏くらいのものだった。 ところが、TBSの報道番組『NEWS23』でアンカーを務める岸井成格氏が安保関連法案の成立前に廃案を呼び掛けたことが、作曲家・すぎやまこういち氏らの任意団体『放送法遵守を求める視聴者の会』から放送法に反すると指摘され、産休中の膳場貴子キャスターとともに来年3月で降板する可能性が高まってきた。 「これにすぐさま飛びついたのが岡田代表です。40歳の膳場さんは東大卒で元NHKの美人アナウンサー。参院選の“リベラル民主の顔”としてこれ以上の候補者はいない。膳場さんは現場復帰を目指しているが、局側は難色を示してるので出馬は濃厚です。彼女が出馬すれば、『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送)で秘書役を21年間務め、6年前の参院選で民主から出馬して落選した岡部まりさんも再挑戦するのでは」(芸能レポーター) 改選組の生活の党と山本太郎となかまたちの谷亮子副代表は、小沢一郎代表が画策する「オリーブの木構想」がまとまらないという厳しい状況に置かれている。 橋下維新と袂を分かった維新の党は、参院選に向けて野党勢力を結集させた新党を目指しているが、参院選前に民主党への合流の可能性もあり党内は混乱。江田憲司前代表はお笑いコンビ・ロンドンブーツ1号2号の田村淳に出馬を働きかけているが、山口県下関出身の淳は首相夫人・昭恵さんの信頼が厚く、自民党から出馬の可能性もある。 一方、タリーズコーヒージャパン創業者で、みんなの党出身の松田公太氏が代表を務める日本を元気にする会は、『五体不満足』著者である乙武洋匡氏の擁立を進めている。同会は安保法案の修正案を実現させるなど橋下維新と政策が近く、選挙後はおおさか維新との合体が予想される。
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社会 2015年12月19日 14時00分
ほんの少しの努力から! 「メタボ」予防と改善の基本
ポッコリお腹が気になるビジネスマンの皆さん、食事と運動には気を付けていますか? お腹周りの脂肪が減るといいな、と思いながらも、お腹いっぱいご飯を食べたり、運動不足のままでいたりしてしまうのは、よくあることですよね。しかし、肥満はメタボに繋がる第一歩です。 そこで今回は厚生労働省『e-ヘルスネット』を参考に、“メタボ予防と改善の基礎”についてまとめました。■1:体重を5%減らす メタボの改善には第一に体重を5%減らすことを目標とするとよいそうです。メタボは内臓脂肪蓄積・高血圧・高血糖・高脂血症の複合した状態を指しますが、体重を減らすだけで、内臓脂肪は減るそうです。内臓脂肪は皮下脂肪に比べて増えやすいけれど減りやすいと言う性質を持っているので、簡単に減らすことができるそうです。■2:食事と運動 内臓脂肪蓄積の大きな原因は、過食と運動不足だそうです。この二つを改善することで、メタボを予防・改善することができます。食生活を改め、適度な運動を日常的に実践するという2点がメタボ改善の柱です。食事制限も運動も難しそう、と思う方もいるでしょうが、そこまで高い目標を掲げる必要はないようです。前述のとおり体重の5%を、3か月から6か月かけて減量しましょう。体重80kgであれば、4kgを3〜6か月で減量するので、1か月にたった1kgずつ減らせばよいのです。■3:食事で気を付ける点 食事に関しては、3食規則正しく食べること、腹八分目ではなく腹七分目で切り上げること、よく噛んでゆっくり食べること、寝る前に飲食をしないこと、間食は時間と量を決めることなどに注意する必要があるそうです。■4:運動で気を付ける点 積極的に体を動かそうとし、軽めの運動を続けるとともに、筋肉を鍛える、という3つの習慣が重要なのだそうです。乗り物はできるだけ利用せず、エスカレーターやエレベーターの代わりに階段を使い、ウォーキングや軽いジョギングなどの軽度の運動(有酸素運動)をする必要があります。筋力トレーニングとしては、スクワットやヒップエクステンション、膝上げ、腕立て伏せなどが比較的簡単にできるそうです。 既にメタボと診断された人も、そうでない人も、いち早く肥満を食い止めることを心がけましょう。必死に何時間もトレーニングをする必要はなく、毎日のちょっとした心がけで、数か月後にはお腹周りが見違えるようにすっきりとするかもしれませんよ。参考 e-ヘルスネット‐厚生労働省
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社会 2015年12月19日 14時00分
風雲急を告げる来夏衆参W選挙 安倍自民、橋下維新の芸能・スポーツ界「出馬候補者」リスト(1)
師走を迎え、政界は一気に来年夏の「衆参ダブル選」に走り出した。安倍晋三首相は5日の会見で来夏の参議院選挙に合わせて衆議院を解散し、衆参ダブル選に打って出る可能性について「まったく考えていない」と否定したが、この発言を額面通りに受け取る関係者はいない。 「2017年4月に消費税10%への増税を控える安倍首相は、衆院解散が増税の直前になると不利になると判断。民主党が野党統一候補を整備する前に、来夏の参院選で同時選挙という強行策に持ち込む腹づもりです。各派閥の会長は、所属する衆院議員にブログの再開や後援会回りを指示している。首相の否定発言は野党へのカムフラージュです」(全国紙政治部記者) 自民党は11月29日に立党60周年記念式典を都内のホテルで開き、サプライズゲストにラグビー日本代表FB・五郎丸歩を登場させた。いま、もっとも集票力のあるスポーツ選手がこの男だ。 「五郎丸選手は来年から世界最高峰リーグ『スーパーラグビー(SR)』にオーストラリア・メルボルンを本拠とするレッズでプレーすることが決まっており、政界への転身は考えづらい。しかし、名声はあっても所詮はヤマハ発動機の社員。年収は500万円程度で、政治家になれば、その何倍も稼げる。来年3月1日には30歳となり、参院選にも出られる。早大ラグビー部OBの森喜朗元首相が後ろ盾で、'19年のラグビーW杯(日本)を盛り上げる広告塔を期待されている。参院選に出馬すれば100万票超は確実で、現在の非拘束名簿式が採用された'01年以降、最多得票になるのは間違いない」(政治解説者) 一方、今年5月11日、安倍首相はシーズン中にもかかわらず、巨人・原辰徳監督(当時)を首相官邸に招き、会食している。これは'13年3月の開幕直前に続いて2度目で、いずれも甘利明経済再生担当大臣が同席していた。 「目的は来年7月の参院選です。最初が出馬の要請で、2度目は回答でしょう。落選後に繰り上げ当選となった堀内恒夫元監督とは違い、原氏は女性人気も高く、東海大グループの組織票も計算できる。口説き文句は、東京五輪時の次期スポーツ長官。シナリオを書いたのは渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長という噂です」(スポーツ紙デスク) 原氏は「趣味はNHKの国会中継観賞」という政治好きで有名。現役時代から「自民党支持」を表明するなど、将来の政治家転身を織り込んでの勇退だったのだ。甘利大臣が介在していることから、神奈川選挙区からの出馬も予想される。 名古屋では「いつやるか? 今でしょう」とばかり、あの林修氏を推す声が出ている。同市千種区の出身で名門・東海高から現役で東京大学へ進学。日本長期信用銀行を半年で退職してからは様々な商売を始めるが、ことごとく失敗。競馬にのめり込んだ時期もあった。そこから予備校講師に転身して一躍全国的な人気者に。12歳年下の妻は産婦人科医で、血筋も略歴も超一流なのだ。 「その生きざまが、安倍首相が掲げる『再チャレンジ』そのもの。愛知県はトヨタ関連の労組が多くあり、民主党色が強く、お隣の四日市(三重)は岡田克也代表の地元。父親はジャスコ創業者で、岡田代表は3人兄弟の真ん中。兄がイオン取締役兼代表執行役社長、弟が中日新聞社の政治部長。その中部地区の牙城を切り崩す刺客として、林氏は期待されているわけです」(名古屋財界首脳) 自民の比例代表では、かつて亀井静香氏の刺客に送ったホリエモンこと堀江貴文氏をはじめ、松岡修造氏(テニス)、澤穂希(女子サッカー)、DAIGO(竹下登元首相の孫)、中野浩一氏(競輪)、佐竹雅昭(K?1)らの名前も候補に挙がっている。 今回改選を迎える三原じゅんこ、堀内恒夫参院議員もこれに加わり、衆参ダブル選だけに多士済済の選挙戦となる。
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社会 2015年12月18日 14時00分
達人政治家の処世の極意 第三十回「亀井静香」
情熱だけは誰にも負けぬ。汚れ役いとわず。俺は矢弾を一身に受ける弁慶でいいのだ。 最近は聞かれなくなったが、アブラの乗り切ったときの異名はドンドンイケイケのタイプだったことから「ドン亀」。亀井静香は、誤解も多く損もまた少なくなかった政治家である。かのハマコーこと浜田幸一が珍しく「さん」付けで呼ぶほどの男。政局が絡むと人一倍元気が出る一見コワモテ、しかし遠目には「タカ」に見えても近寄ってみると「ハト」で、人権派にして義理人情に厚かった。ために、政界では一方で「亀ちゃん」と慕われ、敵が意外と少ないというのが「ドン亀」の“特性”だ。 亀井はキャバレーのボーイや写真現像所での夜勤など苦学をしながら東大経済学部を卒業。1年間だけ民間会社に入ったが一念発起で会社を辞めて東大に再び学士入学する。猛勉の結果、国家公務員上級試験にパスして通産省を受けたが、「アンタはたった1年で会社を辞めている。そんな男はうちにはいらない」とハネられて警察庁に入った。 警察庁には15年いたが、その間「連合赤軍事件」での“浅間山荘攻防戦”の指揮を執った。長官官房調査官ポストを最後に退官し、昭和54年の総選挙に出馬、政界に躍り出た。 亀井はかつて、筆者にこう語っていたことがある。 「中学、高校のころは“左”の考えだった。組合の委員長になりたいと思ったこともある。警察庁を辞めたのも、やがて年を重ね、部下の支えでメシを食っていくというのは潔くないと思ったから。もっと情熱ある人生を生きたい、弱者の味方になりたい。だから政治家になったのです」 それが、表題の政治姿勢としての言葉になっている。 なるほど、亀井の政治姿勢、手法を見ていると、座右の銘「至誠一貫」の通り、筋が通らぬとなれば“情熱”で突っ走る側面が多々あった。小沢一郎(現「生活の党」代表)が公明党などを糾合、政権奪取を窺った新進党に「公明党は創価学会との政教分離がキチッとしていない」「(新進党は)ファショ的体質だ」とこれに対抗、当時、社会党の村山富市委員長を担ぎ上げて「自社さ」3党連立政権を後押しした。 3党政権で村山のあと自民党の橋本龍太郎が首相になり、施政方針演説で橋本が公明党に遠慮して「政治と宗教」に一切触れなかったことに「官房長官を呼べ」と激怒。当時の梶山静六官房長官、あるいは演説内容のすり合わせを怠った加藤紘一自民党幹事長を突き上げたりもした。 そのほかにも、運輸大臣時代に、当時、笹川良一の影響力が極めて強かった日本船舶振興会の人事に大臣としてノーを出すなどで、長い間、歴代運輸大臣が尻込みしていた振興会の数々の懸案に“風穴”を開けて見せる一方、自民党の強力な選挙マシンの全国建設業協会が新進党へ肩入れ姿勢を見せるや、「組むならどうぞ。ただし、今後、地獄へ行くのは皆さんということになる」と言い放った。まさに表題の「汚れ役いとわず」「矢弾を一身に受ける弁慶」ぶりを実践したのだった。さらには、既得議員がシブイ顔をする中、世襲が有利で在野の優秀な人材の道を塞ぐ「小選挙区制反対」への舌鋒を鈍らすこともなかった。亀井をよく知る政治部記者は言っていた。 「亀井は警察庁出身だけに多く集まる情報に頼ってしまうところがある。ために、根回し不足が少なからず付いて回った。運輸相、建設相、金融担当相、自民党政調会長などの要職を経たものの、小泉純一郎の総裁選の対抗馬に出て惨敗したのもこのあたりが衆を集められなかった原因とみられる」 素顔の亀井は、愛嬌に満ちている。「音痴で永田町一ヘタ」と“評判”の唯一の持ち歌『兄弟仁義』を、マイク片手に座敷の金屏風の前、支持者の前などで、“堂々と”歌って(ガナッて)みせるのだ。皆、苦笑しながらもヤンヤの喝采、この愛嬌がまた「亀井人気」を支えた。10年前の総選挙でホリエモン(堀江貴文)の“急襲”を受けたもののこれを一蹴したが、こうした支援者に支えられたことは言うまでもない。 その人の情熱は、誰かが知る。19世紀後半から20世紀前半にかけて世界的な社会思想に多大な影響を与えた英国のマックス・ウェーバーは、「政治は情熱である」と力説した。政治に限らず人間の行動原理への評価は、まず情熱にありと知りたい。情熱がまた、自信を生むということでもある。 亀井はそんなことを教えているようでもある。ちなみに、亀井が尊敬するのは南米社会の矛盾克服のためキューバで反政府活動を展開、やがて命を落とすことになる“情熱の人”チェ・ゲバラである。=敬称略=■亀井静香=警察庁出身。衆議院議員(13期)。運輸大臣(第69代)、建設大臣(第64代)、自由民主党政務調査会長(第43代)、国民新党代表(第2代)、内閣府特命担当大臣(金融担当)などを歴任。現在は無所属。小林吉弥(こばやしきちや) 永田町取材歴46年のベテラン政治評論家。この間、佐藤栄作内閣以降の大物議員に多数接触する一方、抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書多数。
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