そんな至福の組を尻目に、早くも視界ゼロの様相を呈してきたのがLCC(格安航空会社)のエアアジア・ジャパンである。同名の会社は2012年8月に成田国際空港を拠点に国内線に就航したが、共同出資社であるANAホールディングスとエアアジア(本社:マレーシア)の対立から、わずか10カ月で合弁を解消、ANAが完全子会社化して社名をバニラ・エアに変更し再出発した経緯がある。
ここで言うエアアジア・ジャパンは昨年7月、エアアジアが楽天、化粧品会社のノエビアHD、スキー用品会社のアルペンなどと設立した会社。アジア最大のLCCであるエアアジアにとっては、文字通りのリターンマッチとなる。
そのエアアジア・ジャパン(以下エアアジア)は中部国際空港を拠点に、来年4月から札幌、仙台、台北(台湾)への3路線を、いずれも1日2往復就航する計画。当初は2機のエアバスA320型機(180席)で運航し、来年暮れまでに6機に増やした後、年に5機ずつ増やす予定と発表していた。そんなバラ色の計画に、何やら暗雲が漂い始めたのだ。
「実を言うと去年の旗揚げ当初、会社側は今年夏の就航を唱えていた。ところが体制作りに手間取り、国土交通省への航空運送事業許可の申請が大幅に遅れて認可を得たのは10月6日のこと。この時点でやっと航空会社を名乗れるようになったのですが、フライトに向けてまだ安全管理や整備、運航などの認可を得る必要がある。パイロットや客室乗務員の養成も不可欠とあって来年4月の就航に赤信号が点滅しており、大幅にズレ込む可能性さえ指摘されているのです。一部には『幻のフライトになりかねない』と、運航自体を危ぶむ声さえあるほどです」(関係者)
そんな事態に、当のエアアジアや大株主が危機感を募らせないわけがない。果たせるかな、そこで打って出た“奇策”が物議を醸している。12月1日付で経営陣を刷新し、会長にスカイマークの会長だった井手隆司氏、CFO(最高財務責任者)にこれまたスカイマークの社長だった有森正和氏をヘッドハンティングしたのだ。御両人ともスカイマークの民事再生計画が成立したのを見届けて9月29日付で退職したばかり。断るまでもなく、スカイマークは今年1月に民事再生法を申請して経営破綻した。その2トップを新たな舵取り役に迎えざるを得なかったところに、エアアジアの焦燥感が透けて見える。
この“2本釣り”に伴い、旧エアアジア時代から社長を務めていた小田切義憲最高経営責任者(CEO)兼社長が退き、社長ポストを空白として後任のCEOにエアアジアのCFOだった秦修氏が就任した。
一連の人事に航空アナリストは「就航準備を急ぐ必要があったとはいえ、マレーシアのエアアジア自体が破綻したスカイマークのスポンサー候補に名乗り出た会社。その意味では節操がありません。第一、破綻会社の2トップを会社の顔に迎えたこと自体、社員の目には『縁起でもない』としか映らない。当然、士気に影響します」と手厳しい。
実際、笑うに笑えない話がある。10月16日には1号機が中部国際空港に到着した。ところが整備スタッフ不足から未整備状態が続き、やっと整備した途端、今度はバッテリーが上がってエンジンが停止。とうとう部品交換を余儀なくされた。出費はそれだけにとどまらない。就航が遅れれば地上スタッフだけでなく、パイロットや客室乗務員の給料負担が重くのしかかる。関係者によると同社は資本金70億円のうち既に約半分を消費している。これで来年4月の就航予定が半年も遅れれば、金庫がカラの事態も予想される情況だ。その場合、増資を実施するにせよ、株主間に不協和音が生じないとも限らない。だからこそ2トップ発表に際し、エアアジアは巧妙な“仕掛け”を施した。
「人事発表に際し、エアアジアグループのトニー・フェルナンデスCEOと楽天の三木谷浩史会長兼社長が『成功を確信する』ウンヌンのコメントを発表した。2トップは騙されたフリをして彼らの首に鈴を付け、退路を断たせたのです」(前出・アナリスト)
“再フライト”にこぎ着けたとしても、航空大手や鉄道との競争は熾烈を極める。年末年始旅行で主役を演じるようになるのは、まだまだ遠い日というのが実情だ。