第1話「シンメトリー」は短編集『シンメトリー』所収の同名の短編に基づく。誉田哲也の作品は推理物ながら犯人側の視点での記述が多いことが特徴で、特に「シンメトリー」は犯人による一人称小説になっている。ドラマでは刑事の姫川玲子(竹内結子)を主人公とするものの、所々で部分的に犯人側の言動を描き、原作の味を出している。
主人公の姫川は警視庁捜査一課殺人犯捜査十係姫川班主任である。警察組織からは女性ということで見下される。犯罪者の心理を推測し、勘に頼る捜査手法を得意とするが、物証重視の捜査手法を採る刑事や違法捜査など手段を選ばない刑事と衝突を繰り返している。姫川はトラウマを抱え、母親とも上手くいっていないという問題も抱えている。
一方で姫川は捜査チームを率いる立場であるが、「このヤマ、絶対に取るわよ」が口癖の仕事中毒であり、望ましい上司とは言い難い。帰りたい部下も残って一緒に食事をしなければならない。しかも「アジの開き」のような死体を見た後でアジの開きを注文するようにデリカシーがない。
とてもではないが、難事件に集中して解決する理想的な体制ではない。しかし、大ヒット刑事ドラマ『踊る大捜査線』が所轄と本庁の対立を描いたように、皆が一致団結して事件を解決という展開は警察のリアリティーにも反し、刑事ドラマには似合わない。警察内の不協和音を楽しみたい。
最近では不協和音が乏しくなったとの声もあるテレビ朝日系『相棒season10』でも1月11日放送の第11話「名探偵再登場」では新しい演出を登場させた。『相棒』は対照的な凸凹コンビが意見を対立させながらも事件を解決する点が魅力であった。
しかし、杉下右京(水谷豊)と神戸尊(及川光博)の相棒はシーズンを重ねる毎に信頼関係を築いていった。当初は互いに警戒・反発していた二人が信頼感を醸成していく展開は文字通りドラマである。しかし、信頼関係ができてしまうとドラマの面白味が減る。初代相棒の亀山薫(寺脇康文)は杉下とは対照的な猪突猛進型で、二人に強い信頼関係があったとしても、意見対立は避けられなかった。これに対して杉下と神戸は大きく見ると知性派同士であり、互いを認め合ってしまうと波風が立たなくなる。
そこで今回は新たに不協和音を巻き起こした。まずは神戸の遅刻である。角田六郎課長(山西惇)に「また遅刻か」と言われるほど遅刻の常習犯として描かれる。そのために捜査に置いてけぼりにされ、胡散臭そうな私立探偵・マーロウ八木(高橋克実)と組まされるという罰を受ける。「遅刻した罰ってわけじゃないですよね」と尋ねる神戸に右京は「自覚があれば結構」と冷たく突き放す。このくらいの緊張関係があってこその『相棒』である。
ハードボイルドかぶれのマーロウ八木は勿体ぶった言い回しで的外れに見える推理を披露する「迷」探偵風である。そのような八木に神戸は呆れ、毒のあるツッコミを入れる。右京と仲良くなったために右京に対しては見られなくなった毒舌がマーロウ八木というキャラクターを登場させることで復活した形である。
右京と神戸の相違点として右京は真実を得るために令状なしに他人の持ち物を漁ることがある。そのやり方を神戸は快く思っていないが、最近では慣れてしまった感がある。今回は八木が他人の机の中を漁るという違法捜査を行い、神戸は協力させられながらも露骨に嫌な顔をしている。
今回もラストでは一緒に「ギムレット」と答えるなど、すっかりツーカーの関係となった右京と神戸。その中でマーロウ八木の存在が不協和音を演出した。
(林田力)