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森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」★イギリス政権交代も

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提供:週刊実話

 イギリス議会の下院は、3月29日の採決で、メイ首相がEUと合意した離脱協定案を賛成286、反対344の58票差で否決した。1回目の230票差、2回目の149票差より、差は縮まったが、4回目の投票はないだろう。メイ首相が、「もし可決されれば、辞任する」と、最後の賭けに出たのが、3回目の投票だったからだ。

 メディアは、「合意なき離脱が現実味を帯びてきた」と一斉に報じた。もし、そうなったら、イギリスからEUに輸出する商品に通関手続きが必要になり、関税もかけられてしまうから、イギリス経済だけでなく、世界経済に深刻な影響が及ぶことになる。

 しかし、私はもう一つの可能性が生まれたのではないかと考えている。それは、メイ首相が議会の解散に打って出るというシナリオだ。そうなったら保守党は、ここまで大混乱を生じさせたのだから、政権が労働党に移る可能性が十分あるだろう。そして、そうなると実に興味深いことが起きる。労働党の党首であるジェレミー・コービンが掲げる政策が、とてつもない“左翼”政策なのだ。これまでに彼が述べてきた政策を整理しよう。

 まず、マクロ経済政策だ。コービンは、反緊縮を打ち出している。財政赤字を垂れ流してよいわけではないが、強引な歳出削減に反対している。財政赤字の削減は、法人税率の引き上げや所得税の最高税率引き上げ、そして富裕税の創設といった税制改革によって達成されるべきだと言うのだ。

 そして、もう一つのコービンの重要な主張は、「国民のための量的金融緩和」だ。コービンは、金融緩和で生まれた資金を住宅やエネルギー、交通、情報通信プロジェクトへの投資に使うという。詳しく語っていないが、その仕組みは、おそらくこうだ。国民のためになる公共事業を、国債を財源にして行う。発行された国債をイングランド銀行が買えば、そこで通貨発行益が生まれるから、事実上財政負担はなくなる。こうした政策を明言する政治家は、ほとんどいない。画期的な政策なのだ。

 その他に、コービンは鉄道やエネルギー関連会社の公営化を主張している。さらに、教育の国営化を行い、そのなかで大学の無償化も主張しているのだ。

 つまりコービンの政策は、1979年に首相に就任したマーガレット・サッチャーが採用した新自由主義政策の完全逆転なのだ。新自由主義政策の採用で、イギリスの経済成長率は大きく拡大した。しかし、同時に、とてつもない格差が生まれて、イギリスは富裕層とグローバル資本が支配する経済になってしまった。コービンは、それを巻き戻そうというのだ。

 コービンは、さらに興味深い政策を提言している。芸術を振興し、すべての子どもに楽器の演奏、または舞台演技を習う機会を与える。さらに、地域プロジェクトにより多くの資金を割り当て、市民が芸術に触れる機会を増やし、市民農園を大幅に拡充する。私は、農業もアートだと思っているから、コービンの政策は、金の亡者を創り出すのではなく、国民をアーティストにすることなのだ。

 もしコービンが首相になったら、サッチャー以来40年続いてきた弱肉強食政策の潮目が変わるかもしれない。その意味でも、今後のイギリスの動向は、注目だ。

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