■ソウル五輪鳩丸焼き未遂事件
これは1988年に開催されたソウルオリンピックの開会式時に発生した放送事故である。
この大会の聖火点灯式は、高いポールに掲げられた点灯台にランナーたちが一斉に火をつける演出であった。ところが、オリンピック準備委員会が平和の象徴である「白い鳩」を誤って大量に放ってしまったためか、大量の鳩がポールの頂上に集まってしまった。そして、鳩が集まっている中、ランナーが火をつけ、あわれなことに鳩は燃え盛る火の餌食になってしまったのだ。
この模様は全世界に生中継され、各国からクレームが入ったが、ソウルオリンピックの組織委員長によると、「点火の直前、聖火用の高圧ガスが噴出していたので鳩は全部避難できていたはずだ」と鳩の犠牲はなかったと説明したそう。しかし真相は不明だ。なお1994年のリレハンメル冬季オリンピック以降、生きた鳩を演出に使うことは禁止され、鳩は映像や着ぐるみなどで登場している。
■ミュンヘンオリンピック遅刻事件
選手が自分のレースに遅刻し参加できなかった……そんな珍事件が発生したのが1972年のミュンヘンオリンピックだ。
男子100m走競技において、当時世界記録を保持していたアメリカ代表のエディ・ハートとレイ・ロビンソンがレース開始時刻になっても会場に現れないという前代未聞の事態が発生した。「おい!どうしたんだ!」という野次が飛ぶ中、2人の居場所はつかめずオリンピック委員会は仕方なく、2選手を失格とした。
そしてレース終了から数十分後、2人は真っ青な顔をしながら会場に到着。失格になった事実を知るとがっくり肩を落としてしまったという。
2人が会場に現れなかった理由は、コーチの持っていたスケジュール表にあった。このスケジュール表は1年以上も前に作成されたもので、情報が更新されないまま選手とコーチに手渡されてしまったのだ。
レースが始まった時、エディ・ハートとレイ・ロビンソンはテレビ局におり、関係者と雑談していたのだが、突然自分たちが走るはずのレースの放送が始まりビックリ仰天。タクシーを乗り継いで会場へ向かったが、当然間に合うはずもなく失格となってしまったのだ。
今となってはちょっと笑える事故だが、ミュンヘンオリンピックでは、パレスチナのテロリストによってイスラエルのアスリート11名が殺害される事件(黒い九月事件)が発生した。事件に巻き込まれた可能性もあり、とても笑える事態ではなかったようだ。
2020年の東京オリンピックは何事もなければいいが……。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)