さて、テレビ番組における、出演者が逮捕もしくは謹慎となった事例において、放送60年の歴史において、最も世間を騒がせたとされる事件が、1981年2月の「ザ・ドリフターズ ノミ行為事件」である。
これは、ワタナベプロダクション所属のユニット「ザ・ドリフターズ」のメンバーである志村けん、仲本工事の二人が競馬のノミ行為(馬券を他人に買わせて配当金の一部を譲渡する行為。反社会的勢力が切り盛りしていた)が発覚。書類送検の上、略式起訴され、約1か月の謹慎となった。
当時、ドリフターズがレギュラー出演していた生放送番組『8時だョ!全員集合』は高い視聴率を記録しており、その視聴率は平均して30%から40%と驚異的な人気を誇っていた。
5人組であるドリフターズのメンバー2名が謹慎。特に志村はドリフの屋台骨を支える人気メンバーだったため、番組は大ピンチに陥った。
一時は番組そのものの中止も検討されたが、視聴率40%を超えるような人気番組が出演者側の都合で休むわけにもいかず(この当時、全員集合は放送局であるTBSを代表する番組であり、多額のスポンサー料を企業に請求していた)残された3人のメンバー(いかりや長介、加藤茶、高木ブー)は腹を括り、休まずに放送を続けることにした。
志村・仲本の2名不在で行われた『全員集合』は、かなりバタバタな状態で行われ、当初は「あわやドリフもこれまでか」という雰囲気であったが、生放送を長年続けてきた3人はこのピンチを切り抜け、加藤を中心にしたコントを急ごしらえで作り、番組を存続させたという。
しかし、リーダーであるいかりやの苦労は絶えなかったようで、いかりやは自著で「3人ドリフはグループ史上最大のピンチだった」と振り返っている。
また、当時の子供たちは「志村と仲本がいなくなった」という事実に、ショックを受け、(「ノミ行為」が理解できなかった事情もあるが)「二人は人を殺して牢獄に入った」という誤った噂が独り歩きしたこともあったという。
闇営業問題により、多くの番組が収録制限を受けている今、芸能界が「3人ドリフ」に学ぶことは多いかもしれない。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)