江は3度も結婚した女性である。3度も結婚したということは不幸な終わり方になった結婚を2度も経験したことになる。そのために江は不幸を経験しつつも、最後に幸福をつかんだ女性というイメージになる。これに対して『江』では江の夫となる3人の男性が皆、魅力的に描かれている。江は何度も素敵な恋を経験した女性となる。しかも、今回は2度目の夫の秀勝と最後の夫の秀忠が同時に登場し、江を挟んでドタバタ劇を繰り広げる。
恋愛ドラマの要素が強いものの、『江』は大河ドラマであり、時代劇である。三角関係の展開の中にも時代劇のツボを押さえている。江と秀忠が初対面となるシーンは旭(広岡由里子)の臨終の場であった。運命の人との初対面の場としてトキメキ感はないが、人の死を直視する人間ドラマに相応しい。
その後、偶然出会った江と秀忠は言い合いになる。いつも豊臣秀吉(岸谷五朗)の悪口を言う江も、秀忠に言われると面白くない。それに対して、秀忠は「今度は庇うのですか。ボロクソに言っていたのに」と江をやり込める。運命の人の第一印象は最悪という恋愛ドラマの定番に沿った展開である。
これまで「好きでもない人に嫁ぐのですか」など江の現代人感覚は時代劇らしくないと批判対象になっていたが、江以上に冷めた秀忠の登場によって、主人公の立ち位置がバランスとれたものになる。また、江と秀忠の夫婦は江が姉さん女房であることもあり、「かかあ天下」と描かれることが多かった。これに対して『江』の秀忠は江の尻に敷かれるタイプではない。江・秀忠夫婦の新解釈が期待できる。
江と秀勝、秀忠のドタバタ劇は千利休(石坂浩二)が亭主を務める茶室で展開された。騒ぐ江らを利休が一喝するなどコント的な展開であったが、茶室を舞台とすることには味があった。今回は三角関係と並行して秀吉と利休の対立が表面化する。『江』では秀吉と利休の対立は茶室という閉ざされた空間の中で進行する。
緊迫感のある秀吉と利休の対立と、ほのぼのした三角関係が、茶室という同種の空間で交互に展開される。前者の茶室では暗めの照明、後者の茶室では明るい照明と演出も工夫している。ラブコメと時代劇の好対照が併存したドラマになった。(林田力)