「もしかして、早瀬さん、こういう話、好きなの」
こういう話って、歴史のこと、言っているのかな。
「歴史のこと」
「違う。魔道とか、魔術とか、おどろおどろしい話」
別に好きなわけじゃないけど、せっかく吉原君が話してくれているから。
「そういうわけでも、ないと思う」
「じゃあ、どんな話が好きなの」
吉原君に、急に、見つめられた。どうしたのだろう。いきなりこんな聞き方をしてきたこと、なかったのに。
「なんで」
「早瀬さん、僕といるとき、いつも、つまらなそうにしてる」
私、そんなふうに見えるんだ。そんなこと、ないのに。
「そんなこと、ないと思う」
吉原君の方を少し見てから、答えた。
「ほんと」
ほんとだよ。
「うん」
吉原君は、それ以上は何も言ってこなくて、がけ際の道を並んで歩いた。
私は吉原君のことが好き。けど、うまくしゃべれない。放課後にいつも教室に残っている女の子たちや、運動部をやっている人たちは、男の子と笑いながら話している。いつも何をしゃべっているのか気になるけど、休み時間に聞こえてくる話だと、ほんとうに、なんでもないことを口にしている。
けど、みんな、楽しそう。
がけ寄りを歩く吉原君が、横目で私のことを気にしている。でも、どうしたんだろう。いつもは顔を見てくれるのに、今日は、私の体ばかりを見ている。
今日の吉原君、うつむいて、まじめな顔をする。悩みごとでもあるのかな。
吉原君が立ち止まった。
「何だろう、これ」
見ると、道の脇に、お社があった。
お社は真四角で、高床になっている。ちゃんと回廊もある。でも、小さい。中の部屋は、あぐらをかいた大人が一人、入ることができるくらいの広さしかないと思う。
ほんとうに、何なのだろう。
「わかんない」
柱は朱が塗られている。けど、ほとんど、はげている。落ち葉もたまっている。誰も掃除をしていないんだ。
でも、扉には、ちゃんと、お札がはられている。
(つづく/竹内みちまろ)