さて、映画『おやすみアンモナイト』のストーリーだが、“男と女のノンフィクション群像劇に、交差して描かれる東京タワーと中央線。劇団員・竹田成子(疋田紗也)は、家計を助けるべく、夜の六本木に一念発起して飛び込んで行く。そしてもう一人、破天荒ゆえに風来坊となった男・小日向 登(辻岡正人)は、友人たちと高円寺の街を熱狂に巻き込む「祭り」を追求していく…。決して交わらない2つのエピソードと、周囲を取り巻く欲望、嫉妬、そして愛情…すべては新たなムーブメントの胎動”、このリリース文章からすると、行き場の無い若者のフラストレーションを爆発させる陳腐な物語を想像しがちであるが、実際には大きく異なり「貧乏は単に金がない」だが、「卑屈になると心が荒む」をよく思い起こさせてくれた家族愛と友情が満載の秀作だ。
辻岡さんは膝上まであるチャコールグレーのニットパーカに細めのパンツ、疋田さんは黒いミニドレスの上に襟元がファーの白いショート丈のジャケットで会場に現れた。二人がテーブルにつくと程なくしてインタビューが始まった。
−−まずこの映画に出演されることになった経緯を教えてください。
(辻岡、以下T) 『おやすみアンモナイト』は企画段階から、実在するモデル(松本 哉氏)と容姿が似た俳優を探していたらしいのですが、増田監督が松本氏とは真逆のイメージの俳優で行くと宣言した為に、急きょ自分にオファーをいただきました。俳優・辻岡正人とはイメージが相反する主人公を僕に託した事で、監督はかなりの賭けを強いられたと聞いています。
(疋田、以下H) 台本を戴いた時点ではあまりに自分とかけ離れたイメージの役柄だったので、増田監督とよく相談しました。台本中の台詞の多くはこの主人公のメンタルな部分がまったくイメージ出来ずにいたのですが、監督と話していくうちにどんどんこの主人公、成子ちゃんにのめりこんでいきました。
−−この主人公たちを演じるにあたり、何か特別にリサーチやアプローチはされましたか?
(T) 実存するモデルがいますので、その方の活躍されたDVDを見たり、出版された本を読みました。
(H) 15歳から芸能活動を始めましたので、生まれてから一度もアルバイトの経験が無いんです。私の役柄が体験する新聞の勧誘員、クラブホステス、劇団員などまさしく未知の世界で、周りの親しい友人たちにも聞いたりしましたが、その友人たちでさえ、これらの仕事を経験した人がいなかったために自分なりに演じてみました。
−−自分たちが演じられた役柄を紹介してください。
(T) 貧乏な大学生ですが、仲間たちとお金を使わなくても楽しめる生き方があることを模索していた人物です。僕も両親の反対を押し切って、大阪の実家から離れて東京で一人暮らしを始めたんです。上京当時の自給自足をしないといけない生活はこの主人公と似ていたと思います。同年代の人たちが22,3歳のときに学校を卒業して就職して安定した賃金を得始めたときに、自分はお金が無いからといって夢をあきらめることは出来ないし、夢を追いかけながらも実生活を維持しないといけないジレンマがあり、お金というものがいかに大事かを考えさせられる時期もありました。
(H) 自分の演じた成子ちゃんは、お母さんと仲が良くて、お父さんは借金を作って失踪しました。そこでお母さんを支えてあげたいといろいろな仕事をする頑張り屋さんの女の子です。そして何事にも耐える女の子です。
−−お二人が考える「貧乏」って何だと思いますか?
(T) 目に見える貧乏と見えない貧乏があると思います。この映画の主人公は目に見える貧乏で単にお金が無い人間なのですが、目に見えない貧乏は心が豊かではない人だ、と僕は思います。お金が無くても、楽しんで生きることがこの映画のテーマなんです。この映画に出演させてもらう前までは貧乏って単に経済的に不安定なことと捉えていましたが、本当の貧乏ってもっと内面的なものではないかと考えるようになりました。
(H) まず、欲しいものが買えないことが貧乏だと思います。でもお金では買えない大事なものってたくさんありますよね。私もこの映画を通して、そのことをよく考える機会を得たと思っています。
−−この映画の中でお二人の競演シーンはまったくありませんが、それぞれを役者としてどう感じられていますか?
(T) 疋田さんの涙を流すシーンですが、本当にこころから悲しそうな雰囲気で泣いていて、凄く感受性の高い人なんだなあ、と感じました。
(H) まず演じてる役柄の人物像に関してスゴイ人だなあ、と思いました。その役を演じきれた辻岡さんにスケールの大きさを感じました。
−−今後、演じてみたい役やジャンルをお聞かせ下さい。
(T) 18歳から演じてきて、大きな役柄から小さな役柄まで、だいたい見た目の怖そうな役を演じることが多かったんです。今後はもっと人の内面を深く掘り下げて演じられる役柄を演じてみたいです。
(H) 小さい頃から歌手になりたかったんです。今後は演じている役柄が映画の中で歌を披露できるような役ができたらいいな、と思います。
−−好きな俳優や監督、お勧めの映画をピックアップしてください。
(T) 好きな俳優は山田孝之くんです。塚本晋也監督、ウォルター・ヒル監督、好きな作品は『ウォーリアーズ』です。2か月に1回くらい見たくなる映画なんですよ。
(H) 沢尻エリカさんと、中島美嘉さんです。お二人とも作品の中で歌を歌う役を演じられていたことがあって、とても憧れています。
−−お仕事がオフのときは何をしていますか?
(T) ドライブです。運転が好きなんです。
(H) 実家に住んでいますので、お休みの日は基本的には寝ていますが、母とよく買い物に出かけたりします。母とは友達みたいに本当に仲が良いんです。
−−最後にこの映画のアピールをお二人からお願いします。
(T&H) まず、みんなに元気を出してもらいたいです。見たら元気をもらえる映画だと思っています。2人の主人公はどん底の人間ですが、こんな人間でもここまで頑張れるんだ、って感じてもらえると信じています。世の中に多くの人がいて、多くの出会いがあるように、この映画と一人でも多くの方が出会ってくれたら嬉しいです。
『おやすみアンモナイト』1月30日(土)、渋谷ユーロスペースにてレイトショー、監督:増田俊樹 脚本:レイチェル・マキ 昼間たかし 「貧乏人抹殺篇」出演:疋田紗也 黄金咲ちひろ 神楽坂 恵 リエコ・J・パッカー 他
「貧乏人逆襲篇」出演: 辻岡正人 大塚麻恵 加冶佐 悠 伊藤 宏 千陽 須藤沙南 他 製作:月の石製作委員会 配給:月の石 2009年/カラー/100分 (C)月の石 公式HP=http://www.oyasumiammonite.net/