もしもきゃりーが電車に乗っていたら…。
電車の座席に腰掛けているきゃりーの前に、ある男が立っていた。次の瞬間、その男が手に持っていたスマートフォンから“パシャ! パシャ!”とシャッター音が鳴り響く。きゃりーはこの音に気付くと怪訝な顔で男を睨んだ。
「あの、勝手に写真取るのやめてもらっていいですか? 盗撮じゃないですか」
ざわつく車内。その言葉を聞いた近くのガタイのいいサラリーマンが、男の体を羽交い絞めにする。
「この変態野郎が!」
サラリーマンはそう吠えると、男を勢いよく床に叩きつけ、顔面に蹴りを入れた。他の乗客もここぞとばかりに、体を踏みつけ「へーんたい! へーんたい!」と、もみくちゃにされる男。すでに手に持っていたスマホは手から離れており、きゃりーの目の前に落ちていた。彼女はそのスマホを拾い、盗撮された画像を削除するため、カメラロールをチェックする。しかしきゃりーは画像を見て愕然とした。
「やめてーー!! 私のために争わないでーー!!」
そのきゃりーの叫びに車内は静寂に包まれる。すでに顔は痣だらけとなり、鼻や口から大量の血が滴り落ちる悲惨な状態の男はゆっくりと顔をあげた。するときゃりーは目を潤ませながら男をじっと見つめ、頭を撫でる。ポンポンポン…。一方、男を殴り続けていたサラリーマンも、手を止め、スマホの画面を見た。「こいつ…、盗撮魔なんかじゃない。正真正銘のぱみゅオタだ!」
そう、男はスマホで写真を撮っていたのではなく、きゃりーの新曲情報や歌番組に関するネットニュースを、スクリーンショットで保存していただけだったのだ。つまりきゃりーはスクリーンショットの音をカメラのシャッター音だと勘違いしたのである。きゃりーはすぐに男と元に駆け寄り強く抱きしめた。
「ごめんなさい…」彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
男は最後の力を振り絞り、こう言った。「キ、キミに100パーセント…」ガクッ
男はゆっくりと瞳を閉じ、そのままきゃりーの胸の中で天へと旅立った。彼はこの世界からいなくなってしまったのかもしれない。しかしきゃりーの心の中でいつまでも生き続けた。
以上がきゃりーぱみゅぱみゅと出会った際のシミュレーションである。好きな芸能人を見かけても、こちらから話しかけるなんてミーハーな事はできない! という人も多いはず。もちろん無許可撮影も絶対NGだ。そんな時は、目の前でスクリーンショットを撮ってみるべし。すると憧れの芸能人が向こうから話しかけてきて、ドラマチックな展開になる可能性は高いのだ。とはいえ、この作戦によって君は命を落とすかもしれない。しかし愛するアーティストに見守られながら、死ねるのならば本望であろう。
(文・柴田慕伊)