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『名探偵コナン』『エンジェル・ハート』最新刊で地上げを話題に

 同時期に発売された人気漫画『名探偵コナン』と『エンジェル・ハート2ndシーズン』の単行本の最新刊が奇しくも共に地上げをテーマとしたエピソードを収録した。ジャンルや読者層の異なる両作品でテーマが重なったことは注目される。

 『名探偵コナン』は青山剛昌が『週刊少年サンデー』に連載中の推理漫画で、9月16日に第73巻が発売された。『エンジェル・ハート2ndシーズン』は北条司が月刊コミックゼノンで連載中のハードボイルドで、9月20日に第2巻が発売された。

 子ども向け推理漫画の『コナン』と青年向けハードボイルドの『エンジェル・ハート』では趣が大きく異なるが、両作品とも主人公らが遭遇した事件を解決する大枠は共通する。『コナン』は推理、『エンジェル・ハート』はアクションが見どころであるが、愛憎入り混じった人間関係が物語を重厚にする。

 その人間関係を織りなす背景に両作品とも地上げが登場する。『コナン』では開発のために立ち退きを迫られるラーメン屋が舞台である。『エンジェル・ハート』はマンション建設から桜の木を守ろうとする住人の話である。共に営業妨害や放火など悪質な地上げ行為が繰り返されている。

 地上げ屋はバブル経済期の徒花というイメージがあるが、むしろバブル崩壊後の建築分野の規制緩和でも出番が増えた。それまで高層ビルが建てられないような土地でもマンションなどの高層建築が可能になり、地上げの対象となった。21世紀に入って「景観市民運動全国ネット」(2005年)や「景観と住環境を考える全国ネットワーク」(2008年)ら住環境を守る全国的な市民団体が相次いで設立されたことは、乱開発激化の裏返しである。

 その意味で地上げは古くて新しい問題であり、両作品で取り上げたことは社会感覚の鋭さを示すものである。しかし、共に勧善懲悪型の作品ながら夢いっぱいの結末ではなかった。共に地上げは成功してしまう。

 『コナン』のラーメン屋は取り壊されたものの、別の場所に移転して繁盛することでハッピーエンドとなる。これはラーメン屋が格別の美味であったから可能なことである。現実は立ち退きがなければ存続できた店舗が、移転によって地元客が遠のき衰退してしまう例が多い。理不尽にも立ち退きを余儀なくされたが、才能があったためにゼロからの再出発でも繁盛したという展開は、立ち退きで苦しめられた多くの人々の救いにはならない。

 また、『エンジェル・ハート』は桜の木を守れてハッピーエンドとなっているが、マンション自体は建設される。実は特徴的な大木が伐採を免れ、コンクリートに囲まれた中に残される開発事例は少なくない。これは自然保護運動の小さな勝利ではあるが、真の意味で自然を残したとは言い難い。

 勧善懲悪型のフィクションならば地上げ屋の目的を全面的に打ち砕く結末になっても不思議ではないが、『コナン』も『エンジェル・ハート』も住民を不幸にする地上げの重たい現実を反映した内容になった。

(林田力)

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