『JIN-仁-』は、大学病院の脳外科医だった南方仁(大沢たかお)が、幕末の江戸時代にタイムスリップし、治療を行いながら幕末の動乱に巻き込まれていくドラマである。村上もとかの同名の漫画が原作で、2009年にドラマ化された。その続編が『完結編』で、仁がタイムスリップしてから2年後の1864年(元治元年)が舞台である。
初回は江戸を舞台とする橘栄(麻生祐未)の脚気の治療と、京都を舞台とする禁門の変の二つを軸に話が進む。栄は縁談を破談にして橘家に泥を塗った娘の咲(綾瀬はるか)を許さず、生きる気力を失っていた。脚気を患っていたが、仁の勧める食事療法も拒否してしまった。仁は菓子を作って、甘いものが好きな栄に食べてもらおうとする。
また、坂本龍馬(内野聖陽)からは、何者かに襲われて瀕死の重傷を負った佐久間象山(市村正親)の治療を依頼される。治療のために上洛した仁は禁門の変に巻き込まれ、戦災者を手当てし、虫垂炎を患った西郷吉之助(藤本隆宏)を手術する。
タイムトラベル物というSFの定番であるが、主人公が歴史音痴の医者という点がユニークである。主人公は歴史音痴のために未来を予言する知識は乏しい。それが逆に歴史的事件や歴史上の人物を新鮮に描くことに成功した。
また、主人公が取り組む医療は人々の生活に密着した分野である。優れた医療技術を有する点で主人公の特異性を際立たせながらも、その時代に溶け込ませることに成功した。これが半村良の小説『戦国自衛隊』や、かわぐちかいじの漫画『ジパング』のように軍隊をタイムスリップさせたならば、過去の政治に大きな影響を与えなければ物語は成り立たない。
そして人の生死に直結した医療をテーマとすることで、登場人物の人間ドラマを丁寧に描いた。ドラマ冒頭の咲は元気がなかった。死を望む母親を黙って受け入れるしかないと言う咲に、仁は「咲さんは医者でもあるのだから、黙って見ているだけというのは違うのではないでしょうか」と諭す。これは決して上から目線でも、高圧的でもない。軽く背中を押すような自然さである。
一方で仁は歴史を変えてしまうことを恐れ、佐久間象山という重要人物の治療を躊躇する。それに対し、今度は咲が仁に「黙って見ているだけというのは違う」と同じ言葉を返す。他人を励ますために発した言葉が逆に自分を励ますことになった。一見すると、ひ弱で線が細いという印象を与える大沢たかおが、悩みながらも人を助け、それに自らも救われる仁を好演している。
(林田力)