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森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」 ★トランプの罪を再考する

 トランプ政権は5月10日に、中国からの輸入品22兆円分の制裁関税の税率を10%から25%に引き上げた。今回の追加関税は、昨年9月に決まった中国への制裁関税の第三弾で、当初は25%の税率が予定されていたものの、米国経済への影響が大きいとして、暫定措置として10%にとどめられていた。関税対象は、家電、家具、食料品、日用品など、広範な品目に及び、輸入先を中国から他国に振り替えると、割高になる商品が多い。そのため、今回の引き上げが継続すると、米国の消費者物価が上昇し、景気も冷やすと見込まれている。米国の実質GDPは、関税引き上げで0.2%〜0.4%下落する見通しだ。

 しかも、トランプ政権は、制裁関税引き上げ直後に、中国からの輸入品ほぼすべてに制裁関税を課す準備を始めたと発表した。現在は対象となっていない残り33兆円分の輸入に、第四弾の制裁関税を発動するというのだ。そうなるとiPhoneなど、米国企業が中国で生産する商品も、大幅な値上げを避けられなくなり、世界経済が失速する危機に直面する。まさに関税引き上げの応酬で、太平洋戦争前の世界経済が失速した事態の再現になるのだ。

 戦後、先進国は、戦前のブロック経済化がもたらした惨禍を猛省し、自由貿易体制構築の重要性を共有してきた。米国は、そのリーダーだったにも関わらず、トランプ大統領は、それを反故にしてしまった。

 トランプ大統領の罪は、自由貿易の破壊だけではない。地球環境面でも、パリ協定から離脱を表明している。長時間かけて、世界がようやく築いてきた環境を守るための枠組みを破壊した。自国経済を発展させるためには、環境などお構いなしと考えているのだ。

 さらにトランプ政権は、世界の平和への取り組みも破壊しようとしている。戦後の世界は、NPT(核拡散防止条約)体制の下で、核保有を太平洋戦争の戦勝5カ国に限って認めたうえで、核保有国は、協調して核軍縮を進めていくことでコンセンサスができていた。

 しかし、2020年のNPT再検討会議に向けて、国連本部で開かれていた第三回準備委員会は5月10日、物別れに終わった。核非保有国が強く求めた一層の核軍縮を米国が中心になって否定したからだ。米国はロシアとの間で取り決めた中距離核戦力全廃条約を、今年2月に撤回するとロシアに通告した。また、先制攻撃に使用できる小型核兵器の開発に入ることを昨年の2月に表明している。

 さらにトランプ政権は、国際社会が取り決めたイランが核兵器開発をしないように監視する核合意から一方的に離脱し、イランへの経済制裁を強めている。これに対抗して、イランもウラン濃縮を始めるなど、核兵器開発に踏み出せる環境づくりを行う方針を表明した。トランプ政権がやっていることは、核軍縮どころか、世界を核戦争に巻き込む危険な政策なのだ。

 G5から最近のG20まで、先進国がずっとサミットで主張してきた共通政策は、「自由貿易による経済発展」と「戦争のない世界」と「地球環境の保護」だった。トランプ政権は、そのすべてを否定している。ところが、そんなトランプ大統領の支持率が46%と、大統領就任以来最高を記録しているのだ。アメリカ国民は、正義と理性を取り戻すべきだろう。

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